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お嬢様の私生活

 この5日、星奈様の使用人を勤め始めてから気づいたことがあった。

「星奈様、ご夕食の用意ができました」

 部屋をノックするが中から反応はない。

 お嬢様の個室は防音室となっており、中から音が聞こえないので様子が全くわからない。しかし、この部屋へは立ち入りを禁じられているし、掃除もいらないと言われているので部屋の中になにがあるのか、なにをしているのかを未だに知らない。

 それから1日の大半の時間をこの中で過ごしており、出てくるのはご飯の時とトイレの時のみ。ご飯も手早く食べられるものを好み、たまに食器ごと防音室へと持ち込むほどだった。

 私が朝来ると寝室で寝ているのだが、リビングでの朝食後は籠って出てこない。私が夜の22時には下の階へと戻った後はわからないが、恐らく外出もされていないようだ。

 反応が無いのでとりあえずリビングで待つことにした。

 昨日までで清掃は終わらせてしまったので、こうなるとやることが無くなってしまう。

 この部屋はそこまで広いわけではないから家事全般は余裕をもって日中に終わってしまうし、わりと暇な時間が多い。お客様の訪問もない、たまに配達で段ボールが届くくらい。

 なんだったら星奈様との会話もほとんどしない。

 最初の2、3日は業務上で必要な会話を何度かしたが、それも必要無くなった。

 まぁ静かなのはカンタベリーのお屋敷の時からそうだったけど、あの時はメイド同士でのお茶会もあって、話し相手に困ることは無かった。

 日本語の勉強も兼ねて読書でもしようかなぁ。と、スマホで近くの本屋を検索していると、防音室から星奈様が出てきた。

「ご夕食の用意ができていますがいかがなさいますか?」

「後で食べるから置いといていいよ・・・」

 疲労困憊といった様子の星奈様は冷蔵庫から見覚えのない缶の飲み物だけ取り出して再び戻っていった。

 私が用意してる飲み物じゃなかったな。ご自分で買いにいかれたのかしら。

 それなら次買い物に行った時に同じものを買っておこうと、冷蔵庫を開けてさっき星奈様が取り出したのと同じものを取り出した。

「クリーチャー?エナジードリンク・・・ほうほう炭酸飲料なんだ。って、えっ!?」

 缶のイラストに描かれたカフェイン150mgという標記を見て驚きの声が出てしまった。

 コーヒーの3倍くらいカフェインが入ってる。まさかと思い裏側の成分表を見てみると、この炭酸飲料に含まれるカフェインや砂糖の多さに驚愕した。

 こ、これはあまりにも体に悪いのではなかろうか。

 スマホでエナジードリンクについて軽く検索してみたが、やはり常飲することのリスクというのが危険視されているようだ。

 さすがにこれは体に悪いし、あまりお嬢様におススメできないなあ。次お話する機会があればさりげなく止めよう。

 

 

 あの様子だしまたしばらく出てこなそうだし、夕食の用意はできてるし今日はこれで帰ろう。食器洗うのは翌日にしよう。

 と思って帰りの用意をしていた矢先にドアをバタンと閉める音がした。

 先ほど戻られてから10分も経っていないがどうやらすぐに星奈様が出てきたようだ。 

「はぁぁぁぁぁぁ」

 大きなため息を吐きながらそのままソファーに倒れこむ。

 いかにも不機嫌そうなオーラが漂っているが、無視するわけにもいかない。

「ご夕食になさるのであれば温め直しますがいかがなさいますか?」

「ん?あぁまだ居たの。じゃあお願い」

「かしこまりました。すぐにご用意いたします」

 私はキッチンの煮込みハンバーグが入った鍋を温め、冷蔵庫にしまったサラダを取り出してテーブルの上に置いた。

 テーブル横のソファーでは星奈様が横になったまま雑誌を読んでいた。

 昨日届いてた雑誌だろう。

 あ、そいうえば鍋が温めている間に先に話しておこう。

「そういえばお嬢様、1つお伺いしたいことがございます」

「ん?何?」

「先ほどお嬢様が冷蔵庫から出していた飲み物についてなんですけれど」

「飲み物?あぁクリーチャーのこと?」

「はい、普段から常飲なさっているのでしょうか」

「え?あーうん。そうだね、いつだったかに1年分貰って、それからずっと飲んでるかなぁ」

「いけませんお嬢様!」

「おわっ!びっくりしたぁ。なに?突然どうしたの」

 雑誌から目を上げた星奈様は私の方へと向き直る。

「お嬢様はクリーチャーの成分表をご覧になられたことがございますか!?」

「え、いやないけど」

「嗜好品としてたまに飲む分には構いません。しかし、常飲されているとなれば話は別です!あれだけ大量のカフェインやら砂糖やらが含まれているのであれば体調を崩しかねません!」

「う、うん」

「甘い飲み物やカフェインが入った飲み物であればいくらでも代用ができますので、どうか飲むのを控えていただけませんか?」

「わ、わかった。少し飲むのを控えるよ」

 ちょっと勢い余って言ってしまったせいか、お嬢様が初めて困惑していたが、まぁこれでクリーチャーの飲用を控えてくださるなら結果良しだろう。

「少し驚いた。まさか怒られるとは思ってなかったからさ」

「いいえ、怒ってなどいません。ただお嬢様が心配だっただけです。確かにカフェインは覚醒作用もありますし長時間の作業の合間に飲むのも良いと思います。他の成分も調べましたが集中力の向上や疲労軽減などの効果もあるようです」

 でも、と付け加える。

「それらの効果はあくまでも一時的なものでしかありません。常飲すれば体は疲労し、体調だって悪くなります。一時的にパワーを前に持ってきているだけでそのうち反動がやってきます。血糖値の急激な上昇も逆に空腹感や疲労感を招きます」

「わかった、わかったって。しばらく控える」

「はい、それなら安心です」

 


「そういえばさ、アリサはご飯食べないの?」

「私はこの後自室に戻ってからいただきます」

「なんで?別にここで食べてもいいよ?」

「いえ、主人と使用人が同卓で食事をするなどとんでもないことでございます。もしそんな場面を他の方に見られてしまうようなことがあれば私だけでなく、その主人である星奈様にまで悪評がついてしまいます」

「ふーん、そっか。主人と使用人・・・」

 北小路家は使用人をこれまで雇ってなかったと聞いたし、きっと私との距離感を測りかねているのかもしれない。

「そういうのさ、疲れない?」

「いえ、これも仕事です。それからご存じだと思いますが私は幼少期から使用人として生活を送って参りました。ですからこれが普通になっていますから疲れたりだとかそういうのはあまり感じません。むしろお嬢様は今まで使用人を雇っていなかったとのことですし、このお部屋ではお一人で暮らしていらっしゃったようですから、急に私が仕えることになってストレスになっていないか心配しています」

「まぁ私だけの空間だったからさ、少しは違和感みたいなのあるよ」

 それはそうだよな。精一杯気遣ってはいたつもりだけれどこればかりはどうしようもない。

「でも、嫌だとは思わない。ご飯も美味しいしね」

「ありがとうございます。お嬢様」



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