モノローグ4
「今戻りましたー!」
私はチョコレートだけでなく、その他屋敷には上備してないけれど製菓に必要になりそうな材料を買ってきた。
思ったより時間がかかってしまったが、往復の時間も含めて30分ならまだ間に合うだろう。
「ありがとう、助かるわ。ちょうど今メインを出したところ」
メイド長がスープの皿を配膳用のワゴンに乗せて下げてきたところだった。
「それで、デザートは他の方と同じプディングにしようと思うの。時間もあまり無いし、さっそくお願いね」
「かしこまりました!」
今日のデザートは元々プディングの予定だったから、他の方と差が出ないようにという配慮だろうか。
まぁそんなことを今私が考えても意味が無いので急いで支度を始める。
一人分のプディングなら20分もあれば十分だ。
材料を混ぜて小さめの容器に入れてシートをかぶせてレンジに入れ、5分加熱。レンジから取り出して荒熱を取ったら容器からひっくり返して皿に取り出し、完成だ。
少し追加するのであればここからバニラアイスやホイップクリームを乗せるが、食後だし、11歳の女の子ということを考慮して今回はやめておこう。
「ありがとねアリサ。片付けは私がやるから今日は浴室の掃除まで休んでいいわよ」
「かしこまりました。ではお先に失礼します」
私の一日の最後の仕事は浴室の清掃というのはこの屋敷に来た時からの決めごとだ。
一番の新入りが一番最後にお風呂に入るので、ついでに掃除をしろ、ということである。
実質的に今日の仕事は終わりということなので、私は自室に戻って一息ついた。
「いつもの日課始めちゃおうかな」
お風呂が私の番になればいつものようにエリーゼが呼びに来てくれるだろう。
今日はお客様もいらしてるし、いつもより遅くなるだろうなぁ。
私は引き出しから日本語勉学の教材を取り出す。
家庭教師のツルコ先生に日本の事を聞いてから憧れてを持ち少しずつ勉強を始めた。
とは言ってもほとんど独学なので趣味の範疇だが、いずれは旦那様に長いお休みをいただいて日本へ旅行へ行ってみたいと思っている。
今日はリスニングではなく読み書きの練習をしよう。
「アリサー」
「はーい」
勉強に没頭しているとあっという間に時間が過ぎていたようで部屋のノック音でふと我に返った。
「んじゃ後よろしくね。一応更衣室の忘れ物が無いかはチェックしといたけど、念のためアリサも確認しといて」
「はい、かしこまりました」
お客様が来るとわりと更衣室に忘れ物があったりする。大体は腕時計だったりアクセサリー類だ。
物によっては値段も張ることもあるし、掃除のついでに確認しておこう。
「んじゃおやすみ」
「おやすみなさいませ」
エリーゼは手を振って彼女の部屋へと歩いて行った。
「私もささっと入って今日は寝よう」
私は着替えとタオルを持って浴室へと向かった。