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悪役令嬢に転生しました。「悪役令嬢でも幸せになれました。きっとこれはご褒美なのでしょう」

作者: ちかぽっぽ

 

 目が覚めると、天蓋の模様が見える。


「てんがい……?」

 私のベッドじゃないわ。大体、天蓋なんて言葉は使ったことがない。


「お嬢様、お目覚めですか?お加減はいかがですか?」


 寝てる格好のまま顔だけを回し、声のした方を見る。

「みあ……。わたし、どうしたの?」

 ミアって名前がすんなりと出る……ええと、侍女?


「はい、お嬢様は先ほど階段を踏み外されまして、気を失われていたのです」


「そう……ミア、あのね、わからないの……記憶がないみたいなの」


 そう言った途端、ミアは両手を口に当て慌てた様子で部屋を出て行った。

「す、少しお待ちを……!」


「困ったわ……日本にいたはずなのに、どうしてこんな事に」


 目を閉じ、思い起す。

 私は17歳の普通の女子高生だった。部活は女子野球のピッチャー。勉強はまぁまぁ?そこそこ?ぐらいかな。彼氏はいない。親もいない。児童養護施設で高校までは通わせてくれた。ラノベが好きでよく空想してたけど……。なぜここにいるのか……。思い出せない。


 コンコン。


「失礼します。医師のガルニエ先生をお連れしました」


「……はい。どうぞ」


「こんにちは、もう一度診察させていただきます」


 黒髪の35歳ぐらいの男の先生です。

 先生は部屋に入ってくると、脈を見たり、目をのぞいたりしながら色々問いかけてきた。全てに答えていく……。やがて少し険しい顔になるとこう言った。


「お嬢様は記憶喪失を起こしています。ところどころは記憶があるようですが、ご自分の名前も覚えていないようです」


「そ、そんな。ミアと呼んでくださったのに……。今、旦那様がこちらに向かっています。先生から伝えていただけますか?」


 ミアはお水を飲ませてくれると、毛布をかけ直して先生と部屋を出ていった。


「あ、私の名前聞くの忘れてた」


 記憶以外、特に痛いところも無いので、ベッドから降りて姿見に向かった。


「ふあぁ〜。これがわたし?髪の毛が赤いわ〜目はグリーンなのね。かわいい!」


 7歳ぐらいかしら? 目の端がちょっと下がっていて、大きくなると儚げな美人?なんて想像していると……。


 ドタドタ……ガシャン!……ドタドタドタ!

 と、何かにぶつかったのかしら?すごく慌ててる足音がする。

 バタン!!

「ソフィア!!」

 赤い髪の男の人が、部屋に入ってくるなり、鏡の前にいた私を抱きしめる。


「記憶が無いんだって? お父様だよ? あぁ! かわいそうに!!」


「おとうさま。おとうさまのことは覚えています」


 うん、覚えてる。この人はすごく私を愛してくれている人だ。

 急に涙が溢れ出す。歓喜の涙だった。だって、日本にいた頃の私に親はいない。初めてできた家族だ。この人はとても可愛がってくれて、愛してくれて、私が大好きな人だ。嬉しい。


「おとうさま、おとうさま。ごめんなさい、心配かけて。うぇ〜ん」


「あぁ、いいんだよ。泣かなくて、そうか、お父様のことは覚えているんだね?」


 優しく頭を撫でて、涙を拭ってくれる、大きくて優しい手。


 それから、私を抱っこしてベッドの端に座ると、そのまま膝に乗せ、医師の話を聞いていた。

「……そうですか。では、記憶が戻るかもしれないし、このままかもしれないと」


「はい、ヴィリアーズ卿。ですが、お嬢様はまだ幼い。もし思い出せなくても、これからが大事だと思われます」


 !! ヴィリアーズと言った?? で、私がソフィアってことは。ソフィア・ヴィリアーズ……。

 親1人子1人で大切に育てられ、わがままに育ち、使用人には恐れられ、し、しかも、本の中では、わがままゆえに好きなだけ食べ、スクスクとブクブクに育って、巨漢の悪役令嬢!!! 何をして追放になったんだっけ。 

そ、そういえば、ミアという名前にも見覚えがある。


『スチュアート城 ー王子と愛の奇跡ー』という小説だったはず……。


 もし、これで城の名前がスチュアートだったら、確実だわ。

 確か、なんの捻りもなく王家の名前を付けてたから。


「スチュアート……」

 ぽろっと声に出てしまった。


「ん?ソフィア。王家の名は覚えているのかい?」


「……王家の名?」

 やはり、スチュアート城だわ。


「そうだよ?王子様が好きだって言ってたから。覚えてたんだね?」


 王子様を好き? あぁ、違う。訂正しなきゃ!

「いえ! ち、違います。好きではありませんわ!」


「ん? そうかい? ふふっ。照れてかわいいね」


 ヒーーー、訂正になってない! ただ、言い過ぎると不敬になるし〜〜〜!

 真っ赤になって1人ワタワタしてると誤解されてしまった。


 その後、医師は帰って行った。


 父も私の頭をひと撫ですると、もう少し仕事があるからねと言って部屋を出て行った。


「……どうしよう」


 自分の手を見る。


「ううん、まだ、大丈夫。これから食べ過ぎなければいいし、王子に近づかなければ……きっと大丈夫」


 それと……本の内容を書き出したいわね。私がなんの罪で追放になるのか、思い出さないと


「ミア、書くものある?」


「書くものですか? 今、お持ちしますね」


 ⭐︎


 ミアが紙とペンを持ってきてくれた。目が荒いけど、ちゃんと紙だ。


「ミア、少し1人になりたいの。お願い」


 と、言ってミアを部屋から追い出し、机に向かう。

 見られてもバレ無いように日本語で書く。まずは、ざっくりとあらすじから……。

 確か、世界観は剣と魔法が使えるのよね、私も使えるのかしら。


「ステータス……なんちって」

 ボゥンと音を立てて現れる半透明のウィンドウ。

「……出るんだ。え?いいの? まさか、私のやってたゲームも混ざってる?」

 困惑しながらも画面を見る。


 種族:人 性別:女 年齢:7歳

 名前:ソフィア・ヴィリアーズ

 状態:健康

 HP/MP 1000/500000

 職業:聖女

 スキル:祈り/天啓/料理/投球/強化

 魔法:ヒール(回復)/ヒールレイン(範囲回復)/キュア(毒消し)/キュアレイン(範囲毒消し)/ライトボール(攻撃用)/天の怒り(攻撃用)/結界/

 注)スキルや魔法は使うほど成長します。

                    ⇨アイテムは次ページ


 ……ん〜、なんだか、つっこみ所満載だわ。追々検証していく必要があるわね。

 でも、すごく私に優しい内容。こんなにいろんなスキルや魔法が使えるなんて、この先何があっても生きていける気がするわ!


「優しさでできている……まるでバファ○ンね」


 コンコン。


「わわわ、どうしよう。これ消すのは……」


「入るよ? ソフィア、お茶を一緒に飲もう?」


 お父様だわ。

 カチャッと開くドア。固まる私。


「ん?どうしたの? おいで」

 まだ開いているウィンドウを通り抜けてお父様の腕が私を抱き寄せる。


(っほ。見えないんだ)


 何も言わないお父様の様子に、ウィンドウが見えてないことに気づく。

 よかった〜。まずは、お茶を飲んでからにしましょ。


「おとうさま、私、歩けるわよ?」


「記憶が無くなったんだ、今日ぐらいは抱っこさせて?」


 ふふ、そんなに甘やかすから小説のソフィアはわがままになったんですよ?


「では、今日だけは抱っこさせてあげますわ。うふふ」


「ありがたき幸せ。では、参りましょう」


 と、ちょっとお芝居がかって言うお父様。

 こんなに優しいお父様を泣かせるようなことは絶対にしないわ!

 


 ⭐︎


 あれから、『クローズ』と言うとウィンドウが閉じるのがわかった。

 

 お茶を飲んでる時、閉められなくて、ずっと目の前に開きっぱなしだったけど、誰も気づかずにいた。

 

 どういう仕組みなのかしら。そうだわ!


「お父様、ステータスってご存知?」私の言葉に反応し、開くステータス画面。


「うん?すてーたす?ってなんだい?」お父様の言葉に反応し、開くお父様のステータス画面。


「ううん、……なんでもないの」

 見えないんだわ!お父様には。いいえ、それだけじゃない。お父様のステータス画面が私に向けて開いている。


(お父様のステータス、クローズ)


 と、念じてみる。シュン!と消えた。


 ……私にだけ見えるのはわかったけど、お父様が開いたのに、私が閉じれる。


 それからは会う人を見て、(この人のステータス)と念じると開くのがわかった。

 ただ、聞いてもいないのに名前で呼びそうになったので、あらかじめ自己紹介してもらってから開くようにした。


 なぜステータスを覗き見るようなことをしているのか……お父様のステータスの状態が“腰痛”と出ていたから。


 そっと耳打ちしてヒールで治してみた。

「お父様、腰が痛いのですか?あの、私、ヒールという魔法が使えるようなのです」


「ヒール?治癒魔法じゃないか。本当に?」


「はい。いいですか? ヒール」

 お父様の腰に手を当て、小さな声でヒールを唱える。


「!!おお、痛くないぞ? どれ、抱っこしていいかい?」


 私は両手を広げ、抱っこしてのポーズ。


「うん!すごい!私のお姫様は治癒の魔法が使えるのか!素晴らしい!」


 お父様は嬉しくて、私を掲げる形でくるくる回る。きゃっきゃと笑う私。

 それから口外は無用と言いながら、使用人たちのステータスをのぞいてはヒールをかけまくった。

 使用人達はそれはもう喜んだ。ひどい者は骨折していたり、軽い者はアカギレまで治すものだから「うちのお嬢様は女神様です」といい、憚らなかった。

 ただ、やはり王家に知られると何かと面倒なので、使用人周りでのみ言い伝わった。


 ⭐︎


 ある日、お茶会に参加することになった。と、お父様が俯いて私を抱きしめながら告げる。

 

 王子のお茶会である。

「お父様、私はヴィリアーズ伯爵家の一人娘なのに、王子様のお茶会に出るのですか?」


「今回は避けられないんだ。今まで一人娘だからと断っていたんだよ? でもね、6歳〜10歳の貴族子女は全員参加って言われてね……本当は行きたくないんだ! ソフィア〜」


「お父様……。大丈夫ですわ!きっと美しいご令嬢ばかりですから!私は会場の隅っこで静かにお茶してますわ!」


「うん、でもね、多分ソフィア狙いだよ。急に全員参加なんて言い出すなんて。どこからかヒールが使えるのがばれたんだ……ただ、本当はソフィアには好きな人と結婚して欲しいんだ。もしそれが王子様だったら、その時はその時で養子とかもらうから、ソフィアは心配しないで、ね?」


「お父様……」

 お父様の優しさが心に沁みてくる。まだ、小説の中で何が原因で追放になったか思い出せないけど、大丈夫です。王子様とはできるだけ関わらないようにすればなんとかなるわ。


 ⭐︎


 王家主催ー王子様お茶会当日。


 馬車で宮廷に到着し、お父様のエスコートで降り立つ。


「ようこそいらっしゃいました。ヴィリアーズ伯爵殿」


 見ると、ロマンスグレーの頭髪を撫で付け、口髭を生やしているおじさまが出迎えてくれた。


「ご招待を賜りました。娘のソフィアです。」そっと背中を押される。


「初めまして、ソフィア・ヴィリアーズです。」膝を曲げ、カーテシーを披露する。


「ご丁寧に、王家執事をしております。オリバーと申します。ささ、どうぞ、お嬢様はこちらです。ヴィリアーズ殿はあちらの席へどうぞ」


 どうやらお父様とはここで一旦離れるみたいね。心配そうな目で私を見ているけど、大丈夫よ、お父様! はじっこ探して座ってるから!


 会場に入るとすでにグループに分かれている様子。


(わ〜〜、あの女の子の塊がきっと王子様がいる所ね。……とりあえず、参加したんだから、好きにしてていいわよね?)


 見渡すと、美味しそうなお菓子や軽食が並んでいる。


「まぁ、もったいない。誰も手をつけていないなんて」


 では、私がいただきましょ〜。美味しそう〜。


 とり皿に少しずつ取り分け、端っこの席につく。


「いただきます。ん〜〜おいしぃ。さすが宮廷料理人ねー」


「お嬢様、お飲み物はいかがですか?」と、使用人が近づく。


「えぇ、いただくわ。何があるの?」


「はい、紅茶はフレーバーティーを用意しております。メープル、マンゴー、キャラメル、オレンジとございます」


「たくさんあるのね、キャラメルをお願い」

 キャラメルがあるなんて、日本の頃はプリンが好きだったわ。と、懐かしんでいると


「お嬢様、こちらのサンドイッチはいかがですか? 今、出来上がったばかりです」


「まぁ、ありがとう」


「お嬢様、こちらも……」


 ん?不思議に思い周りを見ると、私の周りに何人もの使用人が集まっていた。

「ええと。もしかして……」


「はい、私ども使用人はソフィアお嬢様の話を聞き及んでいます。皆、ファンなのです」


「まぁ、そうなのね? うふふ。いいわ、内緒ね? 具合の悪い方とかいるの?」


「!!あ、ありがとうございます。実は……」と言いながら後ろの女性を見る。


 顔が青い。


「先ほど調理場で足を滑らせ、転倒したのですが。足首が非常に腫れてしまって……」と、男性の使用人が説明する。


「見せてね……。うわ〜、痛かったでしょう。(ヒール)」


 小さな声で唱える。ふわっと光ると、足首の腫れは無くなっていた。


 わっと、歓声が上がる。


「ふふ、よかったわ」


「「「ありがとうございます」」」


「ううん、でも、ナイショよ?」


「何が内緒なんだ?」


 振り返ると男の子が腰に手を当て、少し首を傾げて見ている。


「え、ええと。……キャラメルフレーバーの紅茶の話? だったかしら」

(なんでここにくるのよ。金髪にブルーの瞳って、王子じゃないかしら……)


「ふ〜〜〜ん。俺にもくれ。その紅茶」と使用人に向かって言う。


「っは!ただいま!」

 テキパキと動き出す使用人達。王子らしき人の後ろには大量の女の子達。

 め、目が怖い。


「お前もここに座れ。名を聞いてなかったな、名は何という?」


「お初にお目にかかります。ソフィア・ヴィリアーズです」


 カーテシーをしながら自己紹介をする。


「うん。俺はヒューゴ・スチュアートだ。よろしくな。ほら、そこに座るといい」


「はい……」

(ん〜、やっぱり王子、なぜ来た。とりあえずお茶こないかな〜)


「殿下〜。何かお食べになりますか?とってきますよ〜?」

「殿下〜。お紅茶飲んだら一緒にお散歩はいかがですか〜?」

「殿下〜。お花は何がお好きですかぁ〜私は〜」


(っく、むず痒い。なぜ間延びする。全員!)

 イラついていると、


「お紅茶です。キャラメルフレーバーをお持ちしました」

 見ると、先ほど足を直した女性の使用人でした。


「ありがとう。ふふっ」と、ほっこり見つめ合い笑い合う。


 王子の視線がちょっと鬱陶しいけど、一口飲む。


(おいし〜〜。キャラメル懐かしぃ……。そういえばこの世界ってプリンはあるのかしら?)


「うん。うまいな。キャラメルフレーバーか……」


(お?殿下もお気に召したようね。キャラメルはどの世界でもおいしいものね)


「ところで、ソフィア嬢。君は使用人に人気があるようだね」


「そうですか?あまり自覚はないのですが……」

 と、私が答えている途中で割り込む声……。


「まぁ、使用人に人気があるんですって。仲がよろしいと何かいいことございまして?」


「きっと食事とかがすこ〜し多くなるとかじゃなくって? おほほほ」


(はぁ、どうしてマウント取りたがるかなぁ。まぁ、楽しそうでなによりですが)


「……ソフィア嬢。ここではゆっくり話せないようだ。少し2人で歩こう」

 と、ヒューゴ王子。


「はい。でも、いいのですか?」

 チラッと周りのご令嬢を見る。


「あぁ、彼女達とは何回も何回もお茶会で会っているから。話すことも無いよ」


「わかりました。ご一緒いたします」


 2人で歩き出すと、すぐに護衛が後ろで立ち塞がり、他のご令嬢が追ってこれないようにした。


 花園の中にある四阿(あずまや)に向かっている途中、ヒューゴ王子が。


「あ、ちょっと待って。さっきの紅茶、もう一度持ってくるように頼んでくるよ。そこの四阿で待ってて?」


「はい、恐れ入ります」


 向きを変え、四阿に向かおうとしたその時、目の端に黒い影が見えた。


「何!?」


 影は走るヒューゴ王子に向かっていく。


「殿下!!!頭を伏せて!!」


 咄嗟に叫ぶと、私は構えた。

 今着ているドレスは前から見るとあまりふんわりしていない、お尻にボリュームのあるスタイル。

 大丈夫、足は上がるわ!

「ライトボール」

 と、唱えると右手にちょうどよい大きさの雷の球。


 それを、大きく振りかぶって。


 投げた!


 ギュン!!!と音を立てて走るライトボール。


 あっけに取られた顔をこちらに向けてるヒューゴ王子。


 ぱっこーーーん!!と当たり、はじけ飛んでいくライトボール。


 ぶつかった相手は犬型の魔物だった。泡を吹いて倒れていた。


「大丈夫ですか!殿下!!」と、すぐに駆け寄る私。


 騎士達も駆けつけた。


「あぁ、もちろんだ。ありがとうソフィア」


 抱きしめられる私。そして……。


 ええと、なぜ私はキスをされているのでしょう?


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 俺はこの国の王子だから、婚約者を決めないといけないらしぃ。


 またお茶会か……。まだ9歳なのに、結婚相手を決めないといけないなんて。


 結婚するのは16歳を過ぎてからなんだからまだいいだろう。


 これまで何回かお茶会をしたけれど、どの令嬢も同じ。


「結婚しなきゃいけないのはわかるけどさぁ、は〜、好きにはなれないよなぁ」


 と、愚痴ってたらヒソヒソと話してる声が聞こえる。


「ん?」と思い、その場にしゃがみ込む。


「そうそう、使用人仲間の話。すごいらしいよ」


「お優しいのね、私も会ってみたい」


「普段はお父様と仲良く過ごしているんだけど、使用人に時々聞いてくれるらしくって」


「何を?」


「体調はどうですか?とか、どこか痛いところありますか?だってさ」


「まぁ!それで?」


「ヒールだよ〜。すごいらしいよ。もうね、すぐ治るんだって」


「今度のお茶会にいらっしゃるのでしょ?ソフィア様」


「うん、俺も楽しみでさ〜。見目もよろしく、可愛らしい方らしいよ?」


「赤い髪に緑の目でしょ?すごく目立つわね!他に無い色だもの!」


 俺はそっとその場を離れた。


「赤い髪のソフィアか」


 どうやら使用人に人気のようだな。


 明日来るのか……。


 ⭐︎


 お茶会当日。


「殿下〜。おはようございます〜」


「殿下〜。本日もご機嫌麗しく〜」


「あぁ、よろしくな……」


 ふぅ、ため息も出るさ。何でいつもいつもいつも同じセリフ?


(何か考えて話すと、人を貶める言葉ばかり。何だろう。頭腐ってるのか?)


 ソフィアって子はまだこないのか?と、会場を見渡してみる。


 はじっこの席に使用人が集まっているのが見えた。


(まさか……)


 ゆっくりと近づく。

 ふわっと何かが光った。


「ううん、でも、ナイショよ?」


「何が内緒なんだ?」


 この娘か、確かに髪は赤い、かわいらしい顔をしている。……かなり、かわいい。


「え、ええと。……キャラメルフレーバーの紅茶の話? だったかしら」


(明らかに嘘だな。くそ、かわいい顔して嘘を言うなど、どうしてくれよう)

「ふ〜〜〜ん。俺にもくれ。その紅茶」 と使用人に向かって言う。


 あぁ、周りの女どもがうるさい。ソフィアと話せないではないか。

 2人で話したいと思ったので、席を立つ。

 すぐに騎士が立ちはだかり、我々と女達を分けてくれた。


 花園の中にある四阿に向かっている途中、俺は気がついた。


(飲み物が必要だな……)


「あ、ちょっと待って。さっきの紅茶、もう一度持ってくるように頼んでくるよ。そこの四阿で待ってて?」


「はい、恐れ入ります」


 今来た方向へと走っていると、その時。


「殿下!!!頭を伏せて!!」


 振り返ると、ソフィアが凛とした表情で構え、左足を高く上げた。


( な!! 淑女が足を上げるなんて!!!)


 次にソフィアの体勢が低くなり、光の球がこちらに飛んできた。


 ぱっこーーーん!!と音が響き、どさっと音がした。


 みると犬型の魔物が倒れていた。


 そうか、俺を暗殺するために魔物が仕込まれたのか。


「大丈夫ですか!殿下!!」と、駆け寄るソフィアが見えた。


 もう、俺は落ちていた。

 

 淑女は足をあげて物を投げるなんてしないんだよ?

 パニエを他人に見せるなんて絶対ダメだよ?

 

 もう、俺が嫁にもらうしか無いじゃないか……。


 使用人に慕われるのも、あまり聞かないよ?

 何より、そんなかわいい顔で必死に駆けつけてくる。


「あぁ、もちろんだ。ありがとうソフィア」


 俺は抱きしめて、キスをした。

 

 もう、君しか考えられなかった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 あれから時が過ぎ、私と殿下は結婚した。


 きっと、悪役令嬢の私に転生した時にいろいろストーリーが変化しちゃったのね。

 

 でも、殿下の前で投球フォームはまずかったのかも。


「いい?淑女は決して他人にパニエを見せてはいけないよ? これからは、俺と侍女だけにはいいけどね」


 って、時々言われるもの。


 足は上げたけど、ドレスの中だったし、裾がちょっと上がっただけだったはず。


 まぁ、いいわ。


 本当はステータスにあった聖女とか、MP50万とか調べたかったし、アイテムとか使ってみたかったけど、ヒューゴ様が優しい旦那様で、生まれた子供がヴィリアーズ家を継いでくれるから、すごく幸せ。


 身よりもなかった私が、優しい家族に囲まれるなんて、これはご褒美ね。

 

 子供はあと何人できるかしら。



パニエとは、ドレスの下に履くふわふわの白いアレです

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