サンシャインでの解雇と謎の少女
「今日もお疲れさま、妻良さん。」
店長の穏やかな声が、ファミリーレストラン「サンシャイン」のバックヤードに響く。蒼華は一息つき、制服のエプロンを外していた。
「こちらこそお世話になってます、店長。」蒼華はにこやかに応じた。このアルバイトは、これまでの奇怪な経験とは無縁であり、普通の生活を送れるかもしれないという期待を抱かせてくれていた。少しだけ懐かしい気持ちもあり、蒼華は以前のOL時代を思い出していた。
しかし、その穏やかな日々も長くは続かなかった。勤務を終えてエプロンをたたんでいたとき、店長がためらいがちに口を開いた。「実はね、妻良さん、少しお話があるんだけど...」
店長の様子に、蒼華は少し不安を感じた。「何かありましたか？」と尋ねると、店長は申し訳なさそうな顔をしながら目を逸らした。
「えっと、申し訳ないんだけど...うちの都合で、今日限りで契約を終了させてもらうことになってしまったんだ。」
その言葉が耳に入った瞬間、蒼華の心に重いものがのしかかる。何か問題があったのかと問いただしたが、店長は「いや、特に問題はないんだけど...いろいろと事情があってね」と、はっきりとした理由を言おうとしない。
「でも、私はちゃんと仕事をしていたと思うんですが...」
蒼華は食い下がるが、店長の態度は変わらない。店長は深く頭を下げると、「本当に申し訳ないんだ。君に非はない。だけど、これは本部の決定で、どうしようもないんだ」と、まるで自分自身を納得させるように言った。
仕方なく、蒼華は静かに荷物をまとめ、店を後にした。彼女は歩きながら、またしても仕事がうまくいかないことに失望していた。何度目だろうか、こうして突然仕事を失うのは。いつも何かがおかしくなり、普通の生活を送ることができない。これまでの数々の奇怪な出来事が頭をよぎる。
疲れ切った気持ちで夜道を歩いていると、ふと前方に不思議な雰囲気を纏った少女が立っているのに気づく。その少女は、蒼華をじっと見つめていた。
「何かご用ですか？」蒼華が声をかけると、少女は一歩近づいてきた。彼女の腰のあたりに目が行くと、驚くべきことに、そこには小さな尻尾が揺れていた。
「アンタが妻良蒼華？」少女は問い詰めるような口調で言った。蒼華は戸惑いながらも、頷いた。「そうだけど、何か？」
少女は蒼華を鋭い目つきで見つめ、「ふん、やっぱりそうか。アンタのせいで、私の力が弱くなったんだよ！」と叫んだ。
蒼華はますます混乱する。「何の話？」と尋ねるが、少女は苛立った様子で続ける。「アンタがサンシャインで働き始めてから、私は何もできなくなったんだよ！普通ならこんなことあり得ないのに！」
「私は何もしていないわ。」蒼華は戸惑いながらも反論する。「ただ、普通に働いていただけよ。」
少女はさらに一歩近づき、怒りを露わにする。「そんなことない！アンタのせいで私の力がどんどん失われていったんだ！」少女は言葉を吐き捨てるように言い放つ。
蒼華はその場で立ち尽くし、目の前の少女を見つめた。彼女はただの少女ではない。何か得体の知れない力を持っているようだった。しかし、何故その少女が自分を責めるのか、蒼華には全く理解できなかった。
「それにしても、何で尻尾が生えてるの？」蒼華は思わず尋ねた。少女はその質問に一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに冷たく笑った。「アンタには関係ないことだよ。でも、私は絶対にアンタを許さないからね！」
その時、不意に背後から聞き慣れた声がした。「あらあら、タモちゃん、そんなに怒らないで。」
蒼華が振り返ると、そこにはお馴染みの隣人、**梅田**が立っていた。彼はにっこりと微笑みながら、少女に近づいていく。
「タモちゃん？」蒼華は首をかしげる。「この子、知り合いなの？」
梅田はうなずき、少女の肩に手を置いた。「そうだよ。彼女は**タモちゃん**っていうんだ。まぁ、ちょっといろいろあってね。説明するから、少しだけ待っていてね。」
蒼華は少し安堵し、梅田の言葉を待つことにした。彼女はようやく、この奇妙な状況に何かしらの説明がつくのではないかと期待していた。タモちゃんと名乗る少女がなぜ自分に対してこんなに敵意を抱いているのか、その理由が知りたかった。
「タモちゃん、少し落ち着いてお話ししようか。」梅田は柔らかい口調でタモちゃんを宥めようとするが、タモちゃんは苛立ちを隠しきれない様子で梅田を睨みつける。
「でも、梅田さん！この女のせいで私の力が弱まって、タカマガハラに、タカマガハラに、、、」タモちゃんは半ば泣きそうになりながら訴えた。蒼華は彼女の言葉を聞き、ますます困惑する。
「タカマガハラ？それって何なの？」蒼華は眉をひそめて尋ねる。タモちゃんは舌打ちしながら、尻尾をぶんぶんと振り回す。「アンタには関係ないんだから！」
梅田はため息をつきながら蒼華に向き直り、「実はね、タモちゃんはタカマガハラから来た霊獣で、私の守り神でもあるんだ。でも、彼女はタカマガハラから離れると、力が弱くなってしまうんだよ。」と説明する。
「それで、タモちゃんは自分の力が弱くなった原因を探していたんだけど、どうやら蒼華ちゃんがその原因なんじゃないかって思っているみたいなんだ。」梅田は申し訳なさそうに言葉を続けた。
蒼華は驚きと戸惑いで言葉が出なかった。彼女はただ普通に生活し、仕事をしていただけだった。しかし、何かがタモちゃんに影響を与えていたというのだ。
「でも、どうして私が原因だと？」蒼華は不安げに尋ねる。タモちゃんは苛立たしげに腕を組んで、「アンタの周りで起こる妙なことが、私の力を邪魔しているんだよ！そのせいで、私はタカマガハラに帰れなくなっちゃったんだから！」と怒りをぶつけるように言った。
「ええっ！タカマガハラに帰れないって、それって大変じゃないの？」蒼華は驚きながらも、タモちゃんの困難さを感じた。
「だから、何とかしてこの状況を解決しないといけないんだよ。」梅田は深刻な表情で頷く。「でも、正直に言うと、タモちゃんが帰れなくなった原因は、完全にはわかっていないんだ。蒼華ちゃんに何か心当たりはないかな？」
蒼華は困惑しながらも頭を振った。「何も心当たりがないわ。ただ、普通に働いていただけなのに...」
その時、轟が慌てた様子で駆け寄ってきた。「梅田さん、蒼華さん、ちょっと話がややこしくなりそうです！」彼は息を切らしながら言葉を続ける。「どうやら、タモちゃんが帰れなくなった原因を特定するために、タカマガハラから使いが来るらしいです！」
「ええっ！？」梅田と蒼華は同時に驚きの声を上げた。タモちゃんも目を見開き、さらに焦燥感を増した。
「タカマガハラから使いが来るなんて、ただ事じゃないわよね。」梅田は深刻な顔をして考え込んだ。「これは急いで何か対策を考えないといけないわ。」
轟は頷き、「とりあえず、茨木精密機械の天候操作装置を使って、このエリアを一時的に安定させることはできます。ただし、それは一時しのぎに過ぎません。本格的に解決するには、タカマガハラ自体に行く必要があるかもしれませんね。」と提案した。
「でも、それってどうやって？」蒼華は不安げに尋ねた。タカマガハラに行くなんて、まるで神話の世界の話だ。
「そのためには、特別な儀式や装置が必要なんだけど、幸いにも如月地所にはその手の装置が揃っているのよ。」梅田は意味深に微笑んだ。「ただ、その前にタモちゃんの力を一時的に回復させるため、まずは天候操作装置を試してみましょう。」
その後、蒼華たちは如月地所の倉庫に向かい、轟の指導の下、天候操作装置を準備することに。装置は非常に複雑で、細心の注意を払わなければならなかったが、轟の手際良い操作のおかげで装置は無事に稼働し始めた。
「これで、タモちゃんの力も少しは回復するはずだわ。」梅田はほっとしたように息を吐いた。
「うん、これでなんとかなるかもしれない。」タモちゃんも少し安心した表情を浮かべた。
しかし、轟はまだ心配そうな顔をしていた。「ただ、これでも完全には解決しません。本当にタモちゃんが元の力を取り戻して、自由に出入り出来るようになるためには、実際にタカマガハラに行って、原因を直接解消するしかないんです。」
蒼華は頷き、決意を新たにした。「そうね、私も一緒に行くわ。私が原因でタモちゃんが困っているなら、私が責任を持って解決しなきゃ。」
「ありがとう、蒼華ちゃん。」梅田は微笑み、タモちゃんも小さく頷いた。
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