混乱の中での依頼
梅田はオフィスのデスクに肘をつき、頭を抱え込んでいた。SPPとの共同調査は思った以上に複雑で、タカマガハラの問題まで絡み合っている今、彼の頭の中は混乱していた。
「こんなにややこしいことになるなんて、まさか思いもしなかったわ…」彼は深いため息をつき、机の上に広げられた資料を眺める。そこには、タカマガハラの地図や異次元空間に関するレポート、そしてSPPの最新報告書が雑然と並んでいた。
ふと、彼の目に一枚の写真が映り込んだ。それは、先日スーパーで再会した明美と吉崎の写真だった。彼らが失踪した事件を解決するために、あらゆる手段を考えたが、今のところ決定打は見つかっていない。
「どうしたものかしら…」彼は呟きながら、デスクの端に置かれた電話に手を伸ばす。今、最も頼りになる存在が思い浮かんだのだ。それは、蒼華だった。
蒼華は、自宅で一息ついていた。最近のアルバイトで少し疲れが溜まっていたが、やりがいを感じていることも確かだった。だが、明美と吉崎の失踪事件が彼女の心に影を落としていた。彼女は何か自分にできることはないかと、ずっと考えていた。
そんな時、電話が鳴った。表示された名前を見て、彼女はすぐに電話に出た。
「もしもし、梅田さん？何かあったんですか？」
「蒼華ちゃん、ちょっと話があるの。すぐに会えるかしら？」梅田の声は真剣そのものだった。
「もちろんです、すぐに行きます！」蒼華は急いで支度を整え、指定された場所に向かった。
梅田が待っていたのは、如月地所の一室。普段は社内の打ち合わせなどに使われる小さな会議室だが、今日はその雰囲気が異様に重苦しく感じられた。梅田は部屋の隅で蒼華を待っていた。
「蒼華ちゃん、来てくれてありがとう。」彼は椅子に座る蒼華に向かって軽く頭を下げた。
「どうしたんですか、梅田さん？何かあったんですか？」蒼華は心配そうに問いかけた。
梅田は少し躊躇いながらも、意を決して話し始めた。「実はね、蒼華ちゃん。これまでのアルバイト…実は君にある能力があるかどうかを確かめるために、私が仕組んだものなの。」
「え？」蒼華は驚いて梅田を見つめた。「どういうことですか？」
「君は、無意識に現実を改変する能力を持っている。」梅田はその事実を告げた。「それがわかったのは、タカマガハラや今回の事件を通じてなんだけど、君の力は普通の人間のものじゃない。」
蒼華はその言葉に唖然とし、しばらく言葉が出なかった。「そんな…私はただの普通の人間だと思っていました。どうして私がそんな能力を…？」
「それがわからない。だけど、その力を使って、君には協力してほしいんだ。明美ちゃんと吉崎君を救うために。」梅田は切実な表情で言葉を続けた。「もちろん、君一人では難しい。だから、星熊博士や茨木精密機械、轟工務店、そして如月地所の力を借りて、一緒に問題を解決しよう。」
「でも、そんな…私ができることなんて、本当にあるんですか？」蒼華はまだ半信半疑だった。
「あるわよ。」梅田は力強く頷いた。「君の力は、この状況を打開する唯一の手段かもしれない。私たちは亜空間移動の技術を使って、強制的に二人を呼び戻そうとしているんだけど、そのためには君の力が必要なんだ。」
蒼華は梅田の言葉に真剣さを感じ取り、彼の意図を理解した。「わかりました…私にできることがあるなら、やってみます。明美ちゃんと吉崎君を助けるためなら、何だって協力します。」
「ありがとう、蒼華ちゃん。」梅田はほっとしたように微笑んだ。「君の力が加われば、きっと何とかなるわ。さあ、星熊博士のところに行きましょう。みんなで作戦を練り直す必要があるわ。」
星熊博士のラボに到着した二人は、すでに準備が進められている様子を見て取った。巨大なコンピューターや、見たこともないような機械が部屋中に配置され、その中心には星熊博士が立っていた。
「おお、梅田君、蒼華さん、来てくれたか！」博士は嬉しそうに迎え入れた。「いよいよだな、二人を亜空間から引き戻す準備はほぼ整ったぞ。」
「博士、蒼華ちゃんが協力してくれるって。」梅田が報告すると、博士は満足そうに頷いた。
「それは心強い。蒼華さん、君の力は今回の鍵になる。君の意識をこの機械にリンクさせて、二人の居場所を特定し、強制的に呼び寄せる作戦だ。」博士は操作パネルを指し示し、計画を説明した。
蒼華は一瞬戸惑ったが、すぐにその機械に向かい、決意を固めた。「わかりました。やってみます。」
「よし、それでは始めよう。」博士が操作を開始し、部屋中の機械が一斉に動き出した。
蒼華は目を閉じ、自分の力を信じて集中した。今、明美と吉崎の姿を思い浮かべ、心の中で彼らを呼びかけた。すると、機械が反応し始め、異次元空間に強制的な波動を送り込んだ。
「成功するかしら…」梅田は不安そうに見守りながらも、蒼華の力に希望を託した。
機械の動作が最高潮に達した瞬間、空間が歪み、何かが引き戻される感覚が部屋中に漂った。そして、突然、明美と吉崎が床に現れ、驚いた表情でその場に倒れ込んだ。
「明美ちゃん！吉崎君！」蒼華は駆け寄り、二人の無事を確認した。「よかった、無事で…」
「蒼華ちゃん、うまく行ったわね！」梅田は涙ぐみながら、蒼華に感謝を伝えた。
こうして、彼らは二人を無事に救い出すことができた。しかし、これで全てが解決したわけではなかった。背後にはまだ大きな謎と危険が潜んでいる。タカマガハラ、SPP、そして如月地所のすべてが関わる、この複雑な事件はまだ終わりを迎えていなかった。
明美ちゃんと吉崎君は、無事に戻ってきたものの、まだその時の記憶が曖昧で、二人は自分たちが何が起こったのかを理解するのに苦しんでいた。SPPの調査に協力するように依頼された二人は、事情を知る梅田さんからも説明を受け、SPPの職員と一緒にショッピングモール内のあらゆる場所を歩き回りながら、自分たちが体験したことを少しずつ思い出していく。
一方、妻良蒼華は、自分の現実改変能力が問題の鍵だと知りながら、それを秘匿することに努めていた。彼女の能力が明らかになれば、問題は解決するかもしれないが、同時にそれがどんな影響を及ぼすか予測がつかないからだ。星熊博士もまた、妻良の能力に依存することなく、科学的に問題を解決しようとしていた。
星熊博士は、ショッピングモールの各所で計測を行い、異常なエネルギーの集中を発見する。彼女はその結果をもとに、モール内の特定のエリアに時間の歪みが存在することを確信し、妻良たちに知らせる。博士は慎重に計画を立て、歪みを無効化する装置を組み立て始める。
「これで行方不明になった人たちを見つけ出せるはずだ。時間の流れが歪んでいる場所を正確に特定し、その場に適切なエネルギーを送り込めば、消えた人々を元の時間軸に戻すことができるだろう。」
梅田さんは博士の言葉を聞き、少し安心するものの、まだ心配が尽きない。彼は、妻良がこれ以上巻き込まれないようにするために、彼女の能力をうまく活かすことを考えていた。
「博士、この装置が完成したら、僕たちも協力していいかしら？時間の歪みなんて、ちょっとやそっとじゃ解決できないと思うの。何かあったときのために、僕たちも後方支援に回るわ。」
「もちろんだ、梅田さん。君たちの力があれば、さらに安全に進められるだろう。」
そして、ついに博士の装置が完成し、調整が行われた。博士は装置をモールの中心に設置し、計測器を確認しながら最後の準備を整える。蒼華は心の中でそっと祈りながら、全てがうまくいくよう願った。
装置が作動し始めると、モールの中の空気が一瞬にして変わり、まるで時間が止まったかのような感覚が広がる。そして、その静寂を破るかのように、装置から発せられたエネルギーが周囲に広がり、まるで巻き戻しのように時間が逆行し始めた。
突然、行方不明だった人々が次々と姿を現し始める。彼らは何が起こったのか全く理解していない様子だったが、無事に戻ってこれたことに驚きと安堵の表情を浮かべていた。明美ちゃんと吉崎君も、再び混乱していたが、徐々に安心していく。
「やったわね！」梅田さんが喜びの声を上げる。「これで一件落着ね！」
博士もまた、満足げに微笑んだ。「予想通りに動いてくれた。これでみんな無事に戻れて本当に良かった。」
蒼華もホッと胸を撫で下ろした。しかし、彼女の中にはまだ不安が残っていた。自分の力が今回の事件にどれだけ影響を与えたのか、そしてそれがこれからもどんな形で現れるのか、彼女にはまだ分からないのだった。
全員が無事に戻り、事件は解決されたが、蒼華の能力に関する謎は依然として解けぬまま、次の物語へと続いていく。
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