宙を浮遊するクラゲ
そういえば僕は落下系ジェットコースターが苦手だった。そんなことをクラゲに乗りながら思い出す。
「こいつは落ち着きがないな。あのちっこいやつの方にするか」
クセラが指さしたクラゲは、たしかに動きが小さそうだ。
僕らは今宙を浮遊するクラゲの上にいる。この巨大なクラゲたちは透明だけどカラフルで、それが青空一面に漂っているものだから、はじめはこのクラゲの群れ自体が絶景なのかと思った。
でもクセラはクラゲの上に乗ろうという。クセラの言う通り、クラゲの上からみる景色は絶景だった。背景は砂漠。
激しく上下運動する今のクラゲから、落ち着きのある小さなクラゲへと移動する。移動は完全にクセラにおまかせ。僕は魔法なんか使えない。だって日本人だもの。
クセラは器用にいろいろな魔法を使うけれど、今回使ったのは透明な橋。そこを普通に歩いてわたる。
クセラは異世界の絶景を見ながら放浪の旅を続けているというけれど、僕にとってクセラ自身が絶景を創り出すことが多いと、よく思う。
『聖人。君は異世界人なのか。僕も異世界人なんだよ』クセラは以前僕にそう教えてくれた。
この世界のことをとてもよくわかっているのに、彼もまた異世界人? 一瞬不思議に思ったけれど、同時になるほどとも思った。
だって、彼の作り出す光景は、この世界を凌駕している。
なぜ僕がこの世界にやってきたのか。理由も分からぬまま、誰も教えてくれぬまま、不安と恐怖に毎日胸が押しつぶされそうだけれど、クセラの作り出す魔法は僕の心を慰めてくれる。
「カラフルな方がかわいい」という横暴な理由で、魔法で色とりどりに染め上げられた、宙を浮遊する巨大なクラゲたち。
その上でたゆたう僕ら。
こんな景色が見られるなら、この世界に来たのも悪くない。誤魔化されている心を自覚しながらも、僕はクセラと旅を続ける。