音を奏でる蒼い地下空洞
どこまでも続く深い暗闇の中で、水滴の音色だけが響き渡る。
ここは地下の巨大空洞の中。地上は灼熱砂漠だが、ここは肌寒いくらい。容赦なく照りつける陽射しはなく、暗闇には時折水滴が放つ蒼白い光が震えては、さわさわ消えていく。
隣に立つクセラは何かをじっと待っていたようだが、さすがに二日もここに居るので諦めたらしい。衣擦れの音が聞こえた。きっと立ち上がったのだろう。
「もう行く?」
そう聞こうとしたとき、遠くのほうで『ズッ……ン』と低音楽器のような音が鳴る。と、同時に巨大なクジラのような生き物が地下空洞のさらに地底から現われ、虚空に躍り出る。
実際にはクジラではないのだが、地球にいたクジラにそっくりだ、そう思う。
クジラは水滴の蒼い光を浴びてキラキラと光っている。クセラによると、水滴には光虫と言う極小の動物が生息しており、衝撃を受けるとそれが光るのだそうだ。異世界を放浪しているのだというクセラはものしりだ。
クジラの飛び跳ねる衝撃は凄まじく、弓矢も届かぬほどの距離なのに衝撃音で立っている場所がビリビリ振動していた。そして光も今までの比ではなく、クセラの特徴的な横顔が照らされて暗闇に浮かび上がる。
「幻想的だね」
「地上ではただの腐れた魔物なのにな」
クジラを見ながら皮肉そうにそう言って笑う、クセラの幻想的な横顔をこの先忘れることはないだろうと僕はそう思った。