八話
遊田がRe2と死闘(模擬戦)を繰り広げ自信を取り戻したその翌日のこと。
5人は再び帝国アイラン・サイラルの郊外、楓華を失ったあの地へ来ていた。
今日の目的は全員が神器の扱いに慣れ、問題なく魔獣を討つために原初の草原に来たのだ。
しかし、その目的を忘れさせるほどの痕跡が5人の前に広がっていた。
それぞれが過ちを犯したあの日を思い出し、次は無いぞと覚悟を決める。
そうして少しの時間を過ごし、歩みを進めた。方向はゴブリンやオークが攻めてきた方向である。
◇遊田視点
…ここは、いつ来てもあの時を思い出すな。あの時、みんなが戦うと行った時賛成せずに反対していたら…賛成しても慎重に周囲に気を配りながら戦っていたら…なんて、今更後悔しても今は変わらないか。そうは言っても後悔しかない。悔しいんだよな。そして、心の拠り所にしていた存在を意図も容易く失った悲しみがある。自信こそ昨日の朝取り戻したがな。だが…クヨクヨしてたら迷惑をかけるだけだ。気合いを入れ直そう…。
遊田が深呼吸し、その場で軽いストレッチをした。
過去への決別そして、未来への覚悟。
齢16程の人間にはあまりに厳しいはずなのに彼はそれを乗り越えたのだ。
「よし!気を取り直して行くぞ!」
◇中鳥視点
楓華。あいつには地球にいた頃何度も迷惑をかけられたな。俺自身が迷惑をかけることもあった。突然仲が悪くなったこともあったし少ないが喧嘩もした。
でもなんだかんだ時間がかかってもまた仲良くして…。
こっちに来てから神の手違いで性別を変えられたりその詫びにチート能力、アイテムを手に入れた。正直俺はお前に嫉妬している。
でも。急に会えなくなったんだぞ、少しばかり寂しいじゃないか。次会ったら1発ビンタ入れてやんねえとな〈急に居なくなりやがって‼️どれだけ心配かけたと思ってるんだよ!〉ってな。
メンバーの他の4人がどう考えてるかわからねぇ。だけどこれだけは言わせて欲しい。
俺は、友人としてお前が好きだ。
◇満帆視点
楓華。正直あなたと交流をし始めたのは地球でもつい最近の事だった。きっかけは、あなたが趣味で小説を書き始めたことからだったかな。どうせ素人が書くものだし成績最下位の頭じゃ面白いものは書けないだろうと見くびっていたけど、割と面白くてハマって…。
友達としての関係を持ってもいいかなと考えてたり考えてなかったり。早く続きが来ないかと待ち気づけば異世界転生。私はあの全次元神統括神 ルーナから神聖魔法と不壊のノートパソコンを手に入れ、前世から好きだったゲームをプレイして気持ちをとどめてる。正直異世界に来て異世界のゲームをするなんて不思議だけどね。
それはさておき作者であり仲間である楓華が突如消えたのは悲しいし、何より続きが来なくて暇だよ。
はよ、戻ってこい。
◇燈威視点
僕はこの世界に来てから様々な体験をし、その度に疲れたり驚いたり困難に陥ったりもした。でも神が与えた楓華の新しい身体、元は暗い性格で面倒な野郎だったのに明るく振舞って暴れているギャップ。そこに萌え、癒された。正直可愛いと思ってるし、本当のことを言うなら好きなんだよなぁ。元男だとわかっていても抑えられない。
そんな楓華がいなくなって寂しい。
はやく戻ってきてよ。
◇アイリス視点
私はここにいる4人と楓華ちゃん達と違い別の国から来た人間。でも私に初めて接触してきたのは楓華ちゃん。あの時私は嬉しかった。正直見た目はかっこよくないし暗めなところがちょっと好きではなかった。けど、この世界に来てから性転換してとっても可愛い女の子になったね。最初は可愛いゴスロリ服なんか着てなくてチューブトップとミニスカだけのとーってもエッチな格好してた。しかも下着が付けられないとかいう最高の状態。何度あなたを縛り付けて鳴かせて見たいと思ったことか。あぁ、早くこの僕の脈打つ棒を君の奥まで入れて何度も鳴かせたいな。早く、戻ってきてよ//
…数名なにかおかしさを感じたが、各々が何某の理由を持って覚悟を決めているようだね。
「よし、気を取り直して行くぞ!」
遊田が気合いの籠った声を上げる。
「「「「おー!」」」」
全体の士気が上がった。
そしてかの大群が襲いきた方角へ向けて歩みを進め始めた。
†
5人は歩みを進め、現在森の中にいた。
ここは通称「創造神の庭」と呼ばれておりその最奥には一面に広がる花畑があるらしい。
この話は帝国の図書館にあった本の内容で、なんでもいいから強くなるために動こうという考えからこの情報を頼りに今森にやってきた。
しばらく歩いているととてつもなく不気味なものを見つけた。
「…は?」
「こ、これは?」
「…これ、食えるかな」
「無理無理無理無理‼️」
「ふえぇ」
彼らが怯えた理由として、とてつもなく高い気が生え、少し空いた光がこれまで彼らを照らしていたのだが、その木が全て巨大なキノコに起きかわっているのだ。
「そういえば、なんかやたらキノコが生えてるなと思ったんだが、これは…」
もし楓華がいたら速攻泣き叫びながらアイリスか誰かに抱きついて震えながら漏らしているだろう。楓華は実は巨像恐怖症に加え、暗所恐怖症、森林恐怖症、上げの果てにはキノコの裏のヒダヒダが大っっっ嫌いで見るだけで寒気が襲い、近くに持ってこられたら泣く。
それだけキノコが大っ嫌いなのだ。
そしてここにいる5人のうち何故か満帆とアイリスのみそれを知っていた。
おもむろに満帆が空間魔法を使い無限収納袋を出し、そばに生えている太さ4、5メートルの柄に半径25メートルほどの行かれたサイズのキノコをつかみ収納袋に入れた。何をしたいのだろうか。
まぁそれはさておきこの〈キノコの森〉には今満帆が収納袋に入れたものより何倍も大きなキノコも生えているわけだ。
しかしパーティのうち3人が鬼ほどまじビビりしているため、〈キノコの森〉を迂回し数時間後小さな洞窟をみつけ、紐落ちてきたためにそこでひとまず一夜を明かすことにした。
洞窟と言っても奥が深いものではなく5人が入って奥から入口まで10メートルほどしかない。
そしてみんなが収納袋に入れていた食材で料理を作っていた頃突如雨が降ってきた。
雨は次第に強まり遂には雷まで落ちている。
空気は冷え、霧で何も見えない。
そこでアイリスが持っている裁縫魔法と錬金術によりふかふかの絨毯と敷布団、毛布数枚を作り、最後に明かりとしてランタンを3つ作り設置した。
そして洞窟の入口から雨がはいり洞窟内が浸水するのを防ぐため満帆が神聖魔法により自らでとかないとそこにあり続ける結界を貼った。
そしてしばらくして出来上がった鍋を5人で囲み各々布団に入って眠りに着いた。
「明日は晴れるといいね。」
アイリスは一言つぶやき眠りについた。
†
強く吹き付ける風、眼前には雄叫びをあげる古龍の姿。 空は紅蓮に染まり地上に森や草はなく果てしなく荒野が広がる。
その古龍と睨み合うように正面には楓華が居る。
ここは帝国アイラン・サイラル 城下町。
今まさに5000年に一度の大災害、全てを滅ぼさんと襲い来る決戦の開幕の瞬間である。
そして両者が構え、走り出し古龍の剛爪と、楓華の振り下ろした大剣がぶつかり合う。
その衝撃により爆発的な風圧が全てを飲み込んだ。
そこで楓華の目が覚めた。
「イヤァァァァ!!!」
はっ!
ここは?
そうか、ここはにゃいと仁さんが作った拠点。昨日は食事を食べたけれど疲れすぎてそのまま寝ちゃったんだけって。
今の夢はいっt
「楓華さんどうしたの!?」
「んんぅなんでもないよ♪~」
「…怪しい」
「ほ、ホントなんでもないってば」
「疑いのナマコ〜」
「な、ナマコ?!」
「ま、なんでもないなら良かった。急に大声出すから目が覚めちゃったよ。」
「ん、ごめん…」
「気にしないで、久々に心地よい朝を迎えられたし。」
「なら、いい…のか?」
そんな会話を続け、私たちは玉座へと向かった。
2人は玉座に座り、私は創造魔法で浮遊する椅子作り、3人でテーブルを囲み今後の指針を話し合っている。
その中で出た話題は以下。
・楓華がどうしてここに来たか
・楓華はどうしたいか
・3人の今後
「そうだ、楓華ちゃんはこの世界に黙示録からこの世界を救う救世主として呼ばれたんだよね。」
「う、うん」
「ならさ、毎日周辺にいる強い魔物と戦ったり僕らと模擬戦をするのはどう?いい考えだと思うんだよなー」
「いいね、そうしたら私だけでなく2人も強くなれるもんね!」
「うん、なら今日からやっていこうか。兄ちゃんも良いね?」
「おう、にゃい。よし、じゃあ次は俺の番だな。次は今後3人で生活していく上で大事なルールを決めていこう。具体的にはこの拠点での過ごし方やマナー。あとは…ローズさんは女の子だから俺たちと一緒だと難しいこともあるだろう?だからそこを配慮して考えていくぞ」
「はーい兄ちゃん!」
「わかりました」
以下、決められたルールである。
・ひとつ、ご飯はみんなで食べること
・ひとつ、寝る時は毎晩交代で仁さんかにゃいと2人で寝ること
・ひとつ、あまり個人の過去に押し入らない
・ひとつ、料理は毎日交代で行うこと
・ひとつ、快適かつ健康な生活を心がけること
・ひとつ、食材調達は2人以上で行うこと
・ひとつ、悩みがあったらすぐ打ち明けること
・ひとつ、ルールに関して不備があればすぐ言うこと
以上である。
「んーまぁいいけど、なんか少ないね」
「少ないというか…多いんだけどあまり内容がないよね」
「まぁ、最後に書いた通り問題が起きたらすぐ言おう。さ、1つ目の日課〈魔物狩り〉を始めよう!」
「お、「おー!」」
†
拠点から移動すること10分。
3人は高い崖の上に立っていた。
「よーし到着!」
「ここは?」
「ここが目的地だよ。」
「?」
疑問に思いながら周囲を見渡すが魔物の姿はない。
もしや崖の下に魔物が?と思い崖の淵へと歩みを進めると突如そこにとてつもなく巨大な体を持つ魔物…いや、巨大すぎる龍がそこに現れた。
「うそ、なんでここに古龍が?」
「え、えぇぇぇぇえ!」
「ちょちょちょちょ、楓華ちゃんそんなに大声出しちゃ気づかれr(小声)」
GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
私の大声で気づいたのか目の前の古龍が空気を揺るがす轟音を吐き出した。
「イヤァー!」
「あちゃーこりゃ大変だねぇ」
「これは…一旦逃げよっか」
「仁兄ちゃん!楓華ちゃん!逃げるよ!」
「OK」
「行こう‼️あれ、楓華ちゃん?行くよ!」
「ローズさん逃げるぞ!」
「待って!」
「「?」」
この光景デジャブを感じる…なんだか夢で見たあの状況と似てるな。
あの状況はきっと2年後の私。
今はまだ何も出来ない無力な存在。
でも自分で言うのはなんだけど古龍に堂々と正面から向き合う姿はかっこよかった。
それに…
私にはルーナから授かった数多のチートスキルがある。
楓華は1度落ち着くため、呼吸を整えた後に一日ぶりに魔法を唱えだした。
「ふぅ…クリエイト、コピー機能。作成。成功。」
「2人とも、これ受け取って!」
私はコピーで作りだした無限使用可能スマートフォンを2人に渡した。
「これは?」
「それは見ての通りスマートフォンだよ!私は今からこの古龍と戦う。2年後に来たる戦いのため、逃げないで戦わなくちゃ。」
「待って!でも相手は古龍、そう簡単に倒せる的じゃないよ!」
「そうだよローズさん、そいつァ手強いよ!せめてもの援護させてもらうよ」
仁が慌ててそう提案するがしかし、
「いや、いいの。1人で戦うわ!」
「そんな無茶な!援護できないならせめて…せめてそばで見守らせてもらうよ」
にゃいは冷静にそういった。
「うん、でも危なくなったら逃げてね。
クリエイト 絶対防御」
楓華瞳を閉じながらそう唱え、2人を不壊の結界で囲んだ。
「よし、じゃあいっちょ戦って見ますか!」
そう言いながらストレッチを始めた。
正直、古龍いやドラゴンなんて夢物語onlyの存在だと思ってた。まぁいるならあるとも分からない異世界だと思ってた。
私は小説が好きでゲームも大好きだった。そんな中でも私はファンタジー、異世界というジャンルを愛していた。暇さえあれば小説サイトを開いて「異世界」「異世界転生・転移」なんて調べる時もあれば「異世界転生/下克上」や「異世界転生/俺TUEEEE」と検索して読み漁り少しずつ知識を増やしていた。
嫌いな授業や嫌な出来事がある度に突然、異世界に召喚されて本当は自分が一番強いのに数値化されなくていじめられ、捨てられ下克上して復讐してやる、なんて考えることがあれば突如教室に入ってきたテロリストをずっと隠してた力で返り討ちにしてもてはやされる…。
そんな妄想をしながら理不尽な世の中だなぁなんて弱音を吐き続け、社会にとっての掃き溜めでしかないような、底辺を這いずり回るウジ虫のような生き方をし、時には自分と大差ないのに下に見て笑うこともあった。
そんな中身の無い人生を送り続けたわたしが気づけばこんな素晴らしい世界に呼ばれてやってきた。
しかもなんだよ、2年後に5000年に1度の大災害が来る?それに対抗するための救世主だと?ははは、最高じゃないの。
素晴らしい。
さ、気を取り直しましてー。
LET'S GO!!
GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
古龍が熱過ぎて白色になった火の玉を吐き出す。
「楓華ちゃん危ない‼️」
そして、火の玉が楓華を包み込んだかに見えた次の瞬間、どこからともなく取りだしたエメラルドグリーンの刀身に銀色の刃がついた大剣を古龍の脳天へと叩きつけんとする楓華の姿があった。
「…ゴクリあ、あれがさっきまで脅えてた楓華?」
太陽光に照らされ、風に水色と白のゴスロリドレスの裾をたなびかせるその姿はまさに天使。
しかしその反面手に抱えているのはキューピットの弓矢ではなく相対したものを生かさないような大剣。
天使であり悪魔である。
「お前なんかに怯んでる場合じゃないんだよ!クリエイト!重撃!実行!くたばれ!」
その言葉と共に未だ雄叫びをあげる古龍の脳天へと無慈悲な力を叩きつけた。
GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
「オ、オノレ人間風情ガ!ナメヤガッテ!我ガ力ノ元二平伏セ!」楓華の重撃を避ける暇すらなく急所に叩き込まれた古龍はすかさず反撃に出た。
そして口を開け力を込めた。
数秒もしないうちに古龍の口の前には第2の太陽かと見紛うほどの火球が現れた。
「楓華ちゃん「ローズさん」逃げて!」
しかし楓華は古龍に向けて手をかざしその場にたっている。
そんなやり取りが行われている間もみるみる火球は大きくなっていく。
そのサイズは目測りでも半径50メートルほどある。
「ローズさん!死んじゃうよ!」
「楓華ちゃん逃げて!!」
背後から2人の涙声混じりの必死の声が聞こえる。
でもそれでも楓華は動かず手をかざすのみ。
何か策でもあるのだろうか?
あったとしても無謀極まりない。
そうとしか2人には思えなかったのだ。
そしてにゃいが涙で頬を濡らし瞬きをした刹那。
1mほどまで圧縮されついに太陽すら超えるほどの輝きを放つ莫大なエネルギーの塊を槍の形へと変形させ、楓華に向けて放った。
「クリエイト 去なし 」
そう唱えスキルを作成した。
しかし槍が放たれて向かって来ているのに楓華は発動しない。
「まだ。」
着弾まで50センチを切った。
「まだ!」
30センチを切る
「まだだ!」
ついに10センチを切りさらに1センチを切った。
(今!)
「去なし!」
音を置き去りにし光すら置き去りにするほどのスピード感覚の中楓華はそう叫びエネルギーの塊を去なした。
相対していた古龍ですら目で負えないほどのスピードで攻撃を交わした楓華は凄まじい跳躍をし、仁とにゃいが気づいた時には先程の位置には居らず再び古龍の上にいた。
「「な、何が起こったの!」んや!」
「な、なんだと?我の究極奥義、死の光線を既のところで交わしやがったな。」
「これで最後!」
「いいだろう!かかってこい!」
再び口を開け 死の光線を発動させる古龍。相対するは水属性最上級魔法 水の王手を発動させる楓華。
2秒後光と闇とも言える力がぶつかり合う。
衝突と同時に絶対防御の結界で囲まれたにゃいと仁を除く半径1km以内の全てが爆風で消し飛んだ。
その爆発により生まれた煙が晴れた頃、その場には丸焦げで横たわる古龍の亡骸とルーナから貰った装備の内うさぎの形をしたカバン以外を失いありのままになった楓華が手を前に翳したまま仁王立ちで立ち尽くしていた。
「2人とも心配かけてごめん!でも、勝ったよ。」
「楓華ちゃん!」「ローズさん!」
「無事…ではないか。」「ちょ、見えてるよ!楓華ちゃん‼️隠して!」
「あ//」
こうして楓華の初の対古龍戦は幕を下ろした。
ちなみにさんざん2人に迷惑をかけた楓華はこの後しっかり説教されるのであった。
†
夜、拠点外。
不思議な力により服すら着ることが出来ない楓華はありのままの姿で拠点の外に出て星を眺めていた。
幸い拠点までは消し飛ばなかったのだがやや視界が晴れている。
「私、もっと強くならなきゃね。古龍の大群が襲ってくるって言ってたもんね。」
そう決心をするのであった。