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異世界恋愛短編

軽薄な公爵令息様に「絶対君を虜にしてみせるから」と甘やかされて困ってます

挿絵(By みてみん)

作:あさぎ かな様

「どう? 俺のこと、そろそろ好きになってくれたでしょ?」

「迷惑です。ふざけるのも大概にしてくださいっ!」


 スプーンでデザートを『あーん』されながら、私はいやいやと首を振る。


 「嫌がっているようには見えないけど」と揶揄うように意地悪く笑うニルス様。その美しさに目を焼かれそうになったが(こら)えた。


 これをおとなしく受け入れ、絆されるわけにはいかない。

 たとえすでに手遅れだとしても――。


  ◆


 名門公爵家の嫡男にして女好きの放蕩息子。そんな悪評を持つニルス様に目をつけられてから、しばらく経つ。

 彼に執着されるきっかけは、とある夜会での出来事だ。


『俺と一緒に踊らない?』


 当たり前のように誘われたのを、私はバッサリ切り捨てた。


『お断りします』

『そう言わずにさぁ。君みたいな可愛い子が壁の花なんてもったいないよ』

『私は壁の花で構いません』


 初対面なのに口説いてくる彼の軽薄な態度が気に食わず、塩対応をしたのだ。


 でもニルス様は首を縦に振らないどころか、他の令嬢と違って簡単に靡かない私が面白いとかで『絶対君のことを虜にして見せるから』などと言い出す始末。

 そしてニルス様からの溺愛が始まり、今に至る。


 大勢いた遊び相手の令嬢は、いつしか彼の周りから消えていた。


「いい加減、踊るくらい許してくれてもいいんじゃない?」

「ダメです。私、貴方のことが嫌いなので」


 触れ合いそうな距離。耳元で囁かれる心地のいい声。胸がキュンキュン高鳴り、意識せずにはいられない。

 それでも私は「嫌い」と繰り返す。


 拒絶し続けなければきっと好きになってしまう。

 それだけは避けたかった。


  ◆


「ニルス様、お願いです。もう、終わりにしてください」


 そう頼み込んだのは、ニルス様に絡まれ始めて半年になる頃だった。


「嫌だけど。なんで?」

「――私、もうじき売り飛ばされるんです」


 没落間近の子爵家の娘である私は、身売り同然の結婚が決まっていた。

 嗜虐趣味があると噂の伯爵様の後妻として嫁ぐ。嫌だが拒否権はない。


 人妻になるのだから、ニルス様の遊びには付き合っていられなくなる。

 覚悟を決めて別れを切り出した……のに。


「ねえ、それ、俺じゃダメなの?」

「えっ」

「別にその伯爵を愛してるわけじゃないでしょ? 同じ嫌いな相手なら、俺を選べよ」


 ニルス様の両手が、私の肩を優しく引き寄せる。


「で、でも……」

「俺がなんとかする。だから、俺に任せて。こう見えても本気で君を気に入ってるんだ」


 そんな馬鹿な。

 そう思うけれど、ニルス様の瞳から嘘を感じられなくて。


 気づけば私は頷いていた。


  ◆


 ニルス様の動きは早かった。

 私が嫁ぐはずだった伯爵を、前妻に虐待と殺害を(おこな)っていたとして摘発、監獄送りにしたあと、私に縁談を持ちかけてきた。

 大量の支援金付きで。


 両親は大喜びで飛びついた。

 かくして私はニルス様の婚約者、不相応ながら未来の公爵夫人となったのである。


 婚約者として参加した初めての夜会で、私たちは手を取り合って踊った。


「ところでさ。俺のこと、好きになってくれたよね?」


 向けられるのは満面の笑顔と曇りなき眼。私の胸に想いがあると信じて疑っていない顔だ。

 そんな顔をするのは本当にずるいと思う。


「……大好き、です。自覚しまいとしていただけで、簡単に虜にさせられた雑魚ですよ私は。これで気は済みましたか!?」


 今まで我慢していた分、勢いよく本音が出た。


 言ってしまってから、かぁぁっと頬が赤らむ。

 さらにニルス様に「嬉しいな」と頭を撫でられ、羞恥心でどうにかなりそうだ。


 それでも私の胸は、どうしようもなくときめいてしまう。

 ニルス様の顔面が迫り、互いの唇を重ね合わせる瞬間も、ただただ嬉しかった。


 だって、もはや拒む理由など何もないのだから。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘くてキュンキュンしました! 素敵なハッピーエンドでニヤニヤが止まりません!!
[一言] 拝読させていただきました。 ヒロイン、ニルスをおもんばかって冷たい態度をとっていたのでしょうか。 健気な娘が幸せになるハピエンは良いのです。
[良い点] あまーい(*´艸`)1500文字で超トロトロ甘。 ごちそうさまでした♪ ニルス様がどうしてそんなにヒロインのことが好きなののか知りたいです!(*´▽`*)/ えっ、靡かないから? いやい…
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