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かなたへ 第七部 終焉のかなた 第二章 もう一つの目覚め 第3節

 帰還と覚醒以来続けてきた自己のシステムと記憶の点検ならびに再検討の繰り返しで漸くあの神の視座と後にした時の自分が確実に回復できた事に自信を深めたかなたは、ぐっと伸びをするとSR世界に繋がる自室の扉を開け、エレベーターで地表へと上がると宇宙空港に隣接した探査部の建物から外に歩み出た。

 目映い陽光がかなたを照らし、かなたは思わず腕を額に持ち上げ目を細めた。

 長官の言ってらした事、本当かしら?

 さて、どちらに向かおうかとかなたが逡巡していると今出てきたばかりの探査部からアクセス要求が届いた、いったい何の事なのだろう?

 総務のマネージャーからだ、要求に応えて回線を開く。

『お出かけの所すみません、かなたさん、ちょっと戻って頂けますか?』

 別に急ぐ用事があったわけでも、約束が有ったわけでもない。かなたは言われるまま建物に戻る。

「ご免なさい、お出かけになる前にガイダンスをするように言われてました。

 はい、今の必需品です。

 ケイタイとカードです。ケイタイはご存じですよね?

 普通にこの上でインデックスで検索して相手を呼び出して下さい。

 一応音声通話と映像も使用できます。

 インプラントを使わないシステムって斬新ですね。

 これって、かなた様が情報を持ち帰られた世界で頻用されていたと聞き及んでいます。

 あと、このカードで支払いをなさってください。お買い物の支払いも交通機関の乗車もこれで出来ますしコンビニっていう雑貨店で残高の照会も出来ます。

 でも、かなた様のカードの残高は表示桁数の限界を超えちゃうかもです」

 どうやら社会の基盤となるシステムまでかなたが持ち帰った社会での様相が影響を及ぼしているようだ。もっともさすがに貨幣を直接あつかうところまで退化はしていないがインプラントを介さず携帯やカードを媒介として使う事がどうもトレンドになっているようだ。言葉遣いも以前の記憶と異なっている様な気がするが、はたして彼女だけの事だったのだろうか?

 かなたは礼を言って再び探査部の建物を後にした。

 なんだったんだろう、この違和感は?

 数歩足を進めた所でかなたは先ほどの総務のマネージャーの容姿があの世界の人類とそっくりで有ったことに気がついて再び愕然とした。違和感がなかった、まるで、それに、あの制服、あれは商店街で見かけた銀行の制服。

 かなたは再び建物を出ると道沿いにPTパーソナルトランスポーターを目指してゆっくりと歩いていく。道路沿いに植え込みがあって植物が生えている、これもこの世界では新鮮。

 この世界にはもともと植物は環境維持と再利用工場での合成で得られない食料などの生産のためにごく限られた改良品種が分布・育成されていただけでありバリエーションも多くはなかったはず。こうやって道路わきに植物を植える習慣もなかったはず。はるか古代にはそんな習慣もあったのかもしれないがSR化が行なわれた時代には最早その様な習慣も、植物のデータも失われて久しかったため当時の生き延びるために切り詰めた環境がそのままSRにコピーされ、それが当然のこととして続いてきてたのだ。

 だが、今、より制約の少なかった古代の生活様式に回帰するかのようにかなたが持ち帰ったあの世界の社会と生活の様式を取り入れている、新たな文化のバリエーションを得て若返る、そう、これはこの社会にとっても良い事。

 PTの横には屋根つきのスペースとディスプレーが設置されている。これは、何?

 文字により記載された情報によればこれはコミューターのステーション?

 つまりこれはあちらの世界のバスの様なものかしら?

 以前はこの様な物は無かった。人間の移動にはPTを用いて行きたい場所にある空いているPTへとSR上での位置情報を一瞬で書き換えて移動していた。人が多く集まる場所には何百ものPTボックスが並んでいたのだがどうやらこの生活様式も変化しているようだ。

 運行時刻を確認する。もうすぐ到着、行く先は宙港市街地区。

 かなたもコミューターを利用してみる事にした。あちらでもバスには乗った事が無かった、移動は徒歩か、先輩の自転車か電車に乗る事で行っていたから。でも、私が見聞きしていた情報をこの都市に適応したに違いない。

 道路も以前の様に時折重量物や巨大な構造物が時折通るだけではない、遙かに頻繁に物資や人を乗せた車両が通過していく。この方が遙かに街らしいわ。

 やがてかなたの前に小型のバスそっくりのコミューターが停車した。指示されるままカードを提示してコミューターに乗り込む。中には数名の女子高生が既に座席について談笑している。

「あ、かなたさんじゃないですか?」

「うそ、え、あ、本当!」

 一人の女子高生が立ち上がり会釈をするかなたを自分達の座席に引っ張って連れて行く。

 待って、女子高生って、この世界にはなかったはず?

「皆さん、私の事、ご存知みたいだけど、

 私は戻ってきてから始めてSRの世界に出てきたの、

 で、すっかり変わっていてビックリしてます。

 様子を教えてくださいませんか?」

 かなたを取り囲んだ女子高生達は一斉に嬉しそうに話を始めた。


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