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かなたへ 第七部 終焉のかなた 第二章 もう一つの目覚め 第1節

「★※*#¢£$☆★∴∞※▽……

 損傷はないか? ★※*#¢£$☆★∴∞※▽……」

 覚醒過程に干渉するなんて非常識だわ、有希姉さま?

 呼びかける声に不承不承覚醒時の内部探査ルーチンを省略して外部インターフェースをオンにする。

 一斉に近傍の宇宙空間の量子情報が流れ込んでくはず。私は身構える……

 だが、覚醒した意識に飛び込んできたの僅かな光学的情報と僅かな知覚情報のみ。

 いったい私はどうしたの、此処は?

 いけない、内部探査を継続、引き続き再起動を……

「損傷はどれぐらいだ?」

 この声はネットワークからの直接アクセス。

 制限モードで回線を開く。

 その瞬間私の知覚領域内にVRフィールドが展開され執務室の光景と探査部の長官の姿が出現した。

「長官、今内部探査中です、その後再起動を行います、もう少し待って下さい」

「自分の名前と所属は分かるかね?」

「ええ、私は陸奥かなた。

 超宇宙探査部の第八艦隊所属です」

「損傷が激しかったから記憶に齟齬が生じたが。

 その、陸奥かなたとは何のことだ?」

 え、記憶に齟齬?私は陸奥かなたではないの?

 メモリーフィールド復旧終了、ウイルスの存在は認めない。アクセス可能。

 アクセス? Y/N

 アクセス:Y

 その瞬間膨大な記憶が私のなかに蘇った……


「おや、どうしたんだ、そのボディーイメージは?」

 これは、機内服。首を横に振ると耳元に短いツインテールが揺れる。私の宇宙船の中で着ていた服。いつもの髪型、何か違うの?

 自らの中に目覚めた記憶を急速に遡る。

 私は……

 そうか、これは別宇宙での知的生命体と共に生活するために得た体。有希姉さまをモデルに形成した体のイメージ。

「長官、これが今の私のボディーイメージ、私が訪れた宇宙に存在する知的有機生命体の体です。この宇宙を救うためのミッションから帰還しました」

「君と同時にもう一隻の超宇宙船のコアのコピーも帰還したのだが、あれは損傷が君より激しくてまだアクセスが出来ない状態だ。かなり古い世代の物のようだが、何か知っているのかね?」

「彼は伝説の船として伝えられている船、神の視座を発見した船です。

 今回のミッションは彼と私との船で同時に遂行することとしました、

 ただ、ミッションにより我々が失われる事は必定でしたので、双方のコアのコピーをこの宇宙に転送する手はずにしていました」

「なるほど、伝説の船か。

 奇妙なレポートを最後に失われていたと信じられてきた我が同胞がまさか今頃になり帰還するとは。

 詳しいことを早急にレポートとして送信してくれたまえ」


 かなたは緊急ポッドを離脱させた時までの記録とともに伝説の船と行った宇宙モデル上でのシミュレーション結果と遂行したはずの手順書を探査部のメインシステムへ転送した。


 あの時はこれしか方法がないと判断した、上手くいったのだろうか、その結果は何時、どのように知ることが出来るのだろうか?

 上手くいっていたとして、現実の我々はどうやって生き延びるのか。


 かなたが別宇宙における知的生命体、その宇宙での『人類』の身体を構成し、そこにおいて生活した事により超宇宙船搭載の人工知能に搭乗した人格から変容し、様々な任務に就いている彼女の多くのコピーとは異なった人格を獲得した事が認められ彼女はこの世界においても『かなた』という固有名詞をあてがわれることとなった。高い知性と特性により閉塞状況のこの世界においてリアルとの接続を有する存在を許された人格の基本パターンはおよそ数千、そこに新たな人格が数世紀ぶりに加わったことになる。

 リアルと言っても生身の生物ではもはやない、様々なハードウエアにダウンロードされた人格としてネットワークのSR世界の外にアクセスし、限られた資源を利用して社会の生存の継続の可能性を探り、ネットワークを維持する為に働き、研究している者達である。彼らにはネットワークを離れて存在するための基本的に個々にハードウエア的基盤が与えられている。彼女の場合は超宇宙船搭載用人工知能モジュールが現在の器。

 一方、惑星とその衛星上に構築されたハードウエアに内在するネットワークにおいて稼動しているシミュレーテッドリアリティー空間、SRの中では今も数百億の人格が相互作用しほぼ実時間を生活している。

 もちろんハードウエアの増強を行えば実時間より遙かに早い経過で事実上永遠に近い時間を与えることも可能ではあった。事実そうした実験も行われたことがある、だがそれは事実上不死の永遠の牢獄で人類社会をゆるやかに衰退させるだけであることが明らかとなり、あくまでもリアルの時間を現実の宇宙と同期された仮想現実において今も彼らは仮想化された星々に展開して生存しているのだ。

 彼らの現実の宇宙ではついになしえなかった宇宙移民をSRの世界ではとりいれ、類似した生活環境の惑星を宛がわれてそこでの開拓に多くの人格達が赴いている。

 だがそこに新たな人格が生まれる事は無い、死も誕生もすべて仮装のもの、同じ人格がSRの中で記憶を失い再利用されるだけ。彼らの一部、歴史においてSR化が遂行される時点で生存していたり保存されていた者においては中枢神経系と身体構成細胞の一部と遺伝情報が惑星の高深度地下に構成された時間停滞場に保存されている。かなたの元となった人格のオリジナルもその中の何処かに確か存在しているはずだ。

 だが、今のかなたにとってオリジナルの肉体は別宇宙で得た肉体、宇宙の原初の業火に焼かれた筈の肉体だった。


 呼び出しを受けたかなたはSRの中でプルッと短いツインテールを振るとひらひらと手を振りながら跳ねるようなステップで再び長官の下へと軽やかに歩いていった。


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