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かなたへ 第七部 終焉のかなた 第一章 目覚め  第3節

 かなたは再び彼らと出合うために為すべき事を思い描いた。

 私にできるのか?

 どうやったら……

 あまりにも不確定要素が多すぎる、

 だが、場所も時間もたっぷりある。

 繰り返した時間の撒き戻しだけでなく、この宇宙の基本的性質としての時間可塑性の影響を受け、はるか未来の超新星爆発などで生成された重金属などの元素が高エネルギー場によって生じた時空の穴を潜り抜けてかなり大量に原始の宇宙にすでに存在している。他の多くの宇宙では有り得ない事。宇宙に遍く存在する情報パターン、宇宙的意識としての彼女ではなすべき事に対して不釣り合いに大きすぎる。

 私はもっと小さな存在とも向き合わなければならない。

 密集して生まれ育っている恒星達からはなれた空間に彼女は元素を集積しその場所と配列の情報を与えていく。ゆっくりと時をかけて彼女のオリジナルな超宇宙船を模した、数万隻のより高度な宇宙船を生み出していく。それらはすべてかなた自身。いまや宇宙を統べる女神とも言うべき存在となった彼女は数万隻の神の御舟となり、それぞれの場所で成すべき事を為すために全宇宙へと旅立って行った。

 宇宙に遍く存在する意識としての彼女は宇宙全体の進化の在り様を調整し、その元々の存在がそうであったような狭くまた短くその生涯をビッグクランチで迎える事の無いように。また余りにも大きく拡散し続け一つ一つの星達が離ればなれに孤立した終焉を迎える事の無いように真空のエネルギーによる拡散と重力による集積がバランスをとりつつ数兆年以上も全体として定常化して存在できるように緻密に設計して銀河団を配置していく。

 数十億年の緻密な作業、揺らぎとの戦い。

 もう少し世界線が安定したら時を旅するマイクロチューブを開けるはず。

 宇宙塵が移動する重力井戸に引き寄せられ、かなたの指揮のもとに華麗な舞を続ける。       宇宙の進化によりすでに宇宙塵には多量の水とアミノ酸などの有機分子が金属イオンと共に含まれ始めていた。

 かなたは宇宙塵の軌道を制御してある中性子星の近傍を漂わせる。宇宙塵は偏向した中性子星からの光の照射を受け、中性子星の重力井戸に飲み込まれる事無く新たに誕生しようとしている恒星の卵となる微小天体群の元へと集積していく。

 これがこれから生まれる惑星に誕生する生命の種。光学異性体の混在したアミノ酸溶液においてはエントロピーの流れに逆らう存在に育つのは困難。だが、厳密にコントロールした宇宙塵の軌道によりアミノ酸の左手系の物は偏向した光により消滅したはず。

 星系に生まれる太陽の大きさと惑星群の数、配置をコントロールしていく。軌道平面に侵入する巨大彗星が惑星の安定した軌道を乱したり、担生命惑星に壊滅的影響を与えることを防ぐため担生命惑星より外の軌道に巨大惑星を複数配置する。

 各銀河の毎にその辺縁近くの星系で条件を満たすものを選択してこのような操作を順次繰り返していく。これらのうち幾つが希望する形に育つかはまだ未知数、でも、その0.3%程度は計画した形に形成されるはず。そうすればこの宇宙には右手系の光学異性体アミノ酸をベースとする生命系が幾つも生まれるはず。

 その一方で故郷の銀河のデータに一致する銀河団が形成されていないか限りなく検索を続けていく……・

 だが、恒星の配置データの予測値が一致するものはついに発見できなかった。

 やはり、宇宙開闢に私がかかわったから初期値が異なっている、だからすべてのパターンが変化しているのは当然。


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