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かなたへ 第七部 終焉のかなた 第五章 再会 第4節

 待ちに待ったその時はようやく近づいてきた、先輩達の船がこの神の視座へと通じる高次元マイクロチューブにへ到達した。生身のかなたは武蔵の船体へと乗り込む。かなたの宇宙船としての本体は数あるマイクロチューブのトンネルの一つへと身を潜める。武蔵と最後の打ち合わせを行う。用意したシミュレーション画像を点検する。動き、会話内容をチェック。大丈夫。SRの中で三人を演じた仮装人格はそれぞれかなたと武蔵の分身。万が一に備えてSRでもスタンバイして変わった事があれば直ぐにSRからの生放映に切り替えるべく最終チェックも行う。

「かなたさん、大丈夫です。

 きっと彼は受け入れてくれます。

 これだけ準備したんですから。

 後のことは任せて下さい。

 かなたさんの妹さん達と協力して絶対成功させますから」

「武蔵さん、お願いします。

 これって、私の我儘なのは分かってます。

 でも、あちらの世界の情報を安全に入手するための方法でもあるし、これはきっと故郷の世界にとっても必要な事だと信じてるんです。

 お願いします」

 緊張の時間が過ぎ、先輩達の乗った船が現れた。武蔵が先輩達の船と交信を行っている。さあ、ここ、ちゃんと二人でこちらに来て貰わなくては。

『セ・ン・パ・イ

 キョン先輩と、もう一人の私とで来てください。

 お願い』

 先輩が機転を利かせてくれた。あとは無事にこちらに辿り着いて貰わなければ。

 モニターに先輩達の姿が映る。上手い、そう、ジェットを重心線で吹かせている、ずれたら体の回転が起こってちょっと大変になっただろう。そうしたら向こうの船のモニターにはSRの画像を送って救援に飛んでいくつもりだったが、大丈夫なようだ。

 二人がエアロックからこちらへやってきた。

「キョン先輩、船内は空気で与圧されています。ヘルメット、取ってくださっていいですよ」

 ヘルメットを外したもう一人の私。

「うん、新鮮な空気だ」

 先輩がこちらに向かって近づいて来る。ああ、どうしよう。体が震える。

「本当に、かなたなんだな?」

「はい、私です、キョン先輩、とうとう、逢えました。

 ぎゅっと、してください」

 先輩が私を抱き寄せてくれる、力一杯抱きしめてくれる。

「ああ、そう、かなただ。間違いない」

「すっと、ずっと待ってました、来てくださると信じていました、よかった、逢いたかった」

「俺も、逢いたかった、長門も、この、陸奥さんも、それから、消えちまったもうひとりのかなたも、みんな、物凄く頑張ってくれた」

「キョン先輩の想いがそれだけ強かったから、有希姉さまはキョン先輩の悲しみを見たくなかったから、あんなに頑張ってくださったんだと思います」

「陸奥さんだって、本当に、良くやってくれた、ありがとう」

 そう言った瞬間、先輩の顔に不安がよぎる。先輩、気がついたんだ。先輩の宇宙に戻れるかなたは惟一人だけだという事に。

「大丈夫、キョン先輩、大丈夫ですよ。

 優しいキョン先輩の心配、分かっています」

 私は先輩の頬に口付けをすると先輩の首元から、あのいるかのペンダントをそっと引き出す。

「全部、うまくいきます、キョン先輩、信じてくださいね。さあ、もう一人の私、ここへ」

 ペンダントを私の胸に下げるともう一人の私を立たせる。

「もう一人の私は有希姉さまがキョン先輩の宇宙の物質で構成してくださった身体、私の身体は私の宇宙で再構成された身体、そして……」

 ペンダントに残された情報から向こうの世界で消滅した私をもう一人の私と一緒になって再構成する。二つの宇宙の情報から校正された三人目の私が光の粒のなかから姿を現した。

「私は、キョン先輩のお家で消えてしまったかなたです、消えるときに、ペンダントに刻んでおいた私の情報を、キョン先輩がこうして届けてくださいました。そして、今、二人の私が、私を再構成してくれたんです」

 さあ、最後の仕上げを……・

「今から、三人の私が一つになります、そうして両方の宇宙の物質が高次元で重なっているに私に生まれ変わります。生まれ変わった私はキョン先輩の宇宙でも、前の時間軸の私より、ずっと安定して存在できる私になります」

 三人の私が縦一列にならんで重なり合おうと下瞬間、第四の私が空間に突如出現して溶け込んでくる、何? 一瞬パニックになる。何を間違えたのだろう、でも、このプロセスは途中で停止出来ない、極めて繊細な処置……・

 重畳化が終わった瞬間莫大な思いと知識が私のなかに流れ込んでくる。

 ああ、これも私。あの時永劫に失ったと思った私。

 そうだったのか、私がこの宇宙をこの形に意志をもって生まれ変わらせたのだ。

 居住可能な惑星を用意し、そこへ未来から辿り着いた私たちを導いた私の姉妹船は宇宙誕生の炎の中から蘇ったこの私の分身だったのだ。

 大きな宇宙の歴史の環の中で私は再び自身と巡り会い一つになった、先輩の元へ戻るために。

 先輩の乗ってきた宇宙船にはSRの画像を転送している。その間にもう一つの大仕事。宇宙船としてのかなたを先輩達の船に重畳させるのだ。

 そろりと居住ユニットを放出した宇宙船にかなたの宇宙船が近づき、輝く光の粒をまき散らしながら静かに重なり合っていく。機能を確認、大丈夫。

 そろりと居住ユニットを再度その船腹に飲み込んだ瞬間、生身の体で宇宙服に収まった私は先輩の手を引いて武蔵さんの宇宙船のエアロックから出たからそろりと離れた。

 再びあの世界へと戻るために。


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