かなたへ 第七部 終焉のかなた 第五章 再会 第2節
暫く前からかなたの居た未来から新しく生まれた過去の居住可能な惑星への物資とアーカイブされた幾多のデータ、すなわち人格達が輸送されてきている。それらの機材とデータは一旦軌道上の建設されている巨大ステーションに運び込まれている。惑星は新地球と名付けられ、その巨大な衛星、ノイエと名付けられた月にに資材受け入れ基地と空港、工場群ならびに新たな居住都市の建設も平行して行われている。当面ノイエの地下に複数の巨大サイバー空間を維持する為のハードウエアを建設しそこに眠りについた状態で移送されてきた人格データとその記憶を移植するのだ。現在稼働してる人格はかなたの武蔵の姉妹、兄弟を含めおよそ二万、現実の宇宙空間で作業する訓練を受けたスペシャリスト達と科学者ならびに移民準備省のメンバー達だ。シミュレーションでは未来世界は間もなく宇宙の広汎な歴史書き換えの影響で消滅する。データ化された情報はほぼ移送を終え、あとは厳選された凍結標本や歴史的に貴重な遺物、残っていた文化的遺産の内移送可能な物の搬送、そしてあちらに残って居作業しているメンバーの搬送が残っているだけ。
かなたは作業の合間に先輩の様子と姉さまの宇宙船の様子をモニターする。無事彗星の撃破が成功したらしい、良かった。次は天蓋領域の探査、あの宇宙船のままでは荷が重い、でも銀河平面からある程度離れてノイズのない領域まで出ることが出来ればこちらからハードとソフトの支援ができる、それを待とう。かなたは計画した思考とシュミレーターの中で手順を反芻しながらその時をまった、もう少しで安定領域……
その瞬間ペンダントとも、宇宙船ととも一切の連絡が取れなくなる、突然のブラックアウト。
何が起こったのだろう、他の高次元マイクロチューブに敷設したゾンデを介して先輩のいる時空への接続を試みる。接続は可能。高次宇宙での乱れによる断絶では無いようだ。ならば何が起こった? 強力な妨害が行われたと判断すべき、相手は恐らく天蓋領域。かなたは危険を冒してでも緊急に先輩の居るはずの宇宙、時空へ赴くための用意を開始した。一方でペンダントへの接続要求も出し続ける。何か、きっととんでも無い事が起きている。かなたの不安は恐怖の感情へと姿を変えつつあった。
今、まさに出発しようという時、突然何事もなかったかの様にペンダントとの接続が回復した。情報を読み込み状況を解析する。時計に残された更新記録からかなたは恐ろしい状況にあった事を知った。思わず全身に力が抜け操縦席の上で天を仰ぐ。ぎりぎりだったんだ、先輩、感謝します。ペンダントを経由して先輩の時計へアクセスする。
『キョン先輩、有希姉さま、それから、もう一人の私、かなたです』
『かなた、無事だったんだな、良かった』
『キョン先輩が結界を破ってくださったからです』
『何が一体起こったんだ?』
『ノートパソコンがハッキングされたんだと思います。
それで有希姉さまの宇宙船の居場所が特定されてしまい、結界に支配されてしまった……』
姉さまの状態もぎりぎりだけど、意識は回復した様だ。
『いま、有希姉さまを起こしました、姉さま、居住ブロックに戻ってください、早く』
『了承』
先輩が必死になって姉さまに呼びかけている。もう一人の私、手伝って!
よかった、姉さまも無事。ペンダントと時計を介して姉さまと直接情報交換をする。
ノートパソコンがハッキングされそれによってお姉さまの船の位置情報などが漏れ、攻撃を受けたという判断で意見が一致した。
『今、有希姉さまと相談しました、有希姉さまとの光子ペア通信、私との高次元マイクロチューブを介した通信以外は危険です。ノートパソコンはもう、そこでは使わないでくださいね』
『ああ、もう電源を切った、多分大丈夫だ』
かなたはほっと息をついた。