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かなたへ 第七部 終焉のかなた 第三章 きざし 第3節

『かなたさん、お久しぶり……ですよね。

 漸く私も修復を終えて漸く故郷に戻ったと思ったらカルチャーショックを受けています。

 探査部へのレポートも一段落しましたのでご連絡しました。

 お会いいただけるならご都合の良い日時をお知らせ下さい』

 簡単な文面だが、無事回復した様子にかなたはホッとする。

「涼子さん、出来れば出来るだけ早く面会したいのですけれど、

 スケジュール調整をお願いできますか?」

「勿論です、今日の午後にでもセッティングができると思いますので先様と調整に当らせていただきます」

「いつも無理言ってご免なさい、でも、涼子さんのおかげで助かります」

「私が、オ・ネ・ガ・イって頼めば大抵のスケジュールは通りますから」

「す、凄いですね」

「嘘ですよ、かなた様のご意志はどなたも尊重されるからです、今やこの世界の商業と文化の発信源ですから」

 かなたの仕事のスケジュールを全て調整してくれている涼子にはかなたも頭が上がらない面ががあるので涼子の冗談は聞き流すことにした。個人の接触が濃厚に変わってきているこの文化においては涼子の様に潤滑油としての働きを持つ者がこれからも重宝されていくのだろう。彼女になら今後を任せtも良いのかも知れない、かなたはそう考え始めていていた。


 昼食に出たカレーを食べながらかなたは伝説の船と何を相談しよう方一生懸命考えていた。

 ます最初にすべき事は出会いからあの最後の決断に至る経過についての自分の記憶と判断の検証を行う事、探査部でも恐らく繰り返し検証してはいるだろうが、これだけは自分と伝説の船とでもう一度誤認が無い事を確認したかった。そして私たちの帰還にあたりこれ程までの傷害をもたらした出来事、あの宇宙での広大な宇宙空間にまで及ぶ時間の巻き戻しとこの世界の歴史の書き換えによって起こったに違いない私たちに起きた損傷が私たちが意図していた、この世界を、この宇宙をより良い状態に進化させる企みが成功したことの証と考えたい、だが、それは、何時、どのような形で私たちのいるこの時空に影響が及ぼすのか、書き換わった宇宙の歴史の中にこの人類の世界と歴史を繋ぐために何をなすべきなのか、それについてじっくりと相談したい。多分これが最善よね?

「カレー、漸く気に入っていただけましたか?

 スパイスとルーとの分析に本当に苦労しました」

「あ、そうね、随分良くなってるわね。美味しいわ」

 かなたは涼子の言葉をメモリーから一フレーズをプレイバックしてから答える。

「あと、急で申し訳ないけれど長官はお手すきかしら?」

「カレーの完成品の試食だって言えばどうやってでも時間を作られると思います。

 アポお取りしますね」

 かなたの思惑とは違う受け止め方をしている様だが、まあ、良いだろう。

「伝説の船さんともご一緒願おうと思うので、その様にお願いします」

「長官、苺大福に嵌っておられるとの事でしたから、デザートは苺大福を用意しますね」

「涼子さん、お願いします。

 私ももう一度カレーをご一緒する事になりそうですね。

 食べすぎになるので、悪いですけど残します。

 御免なさい。

 あと、カレーには冷たいお水も添えていただくと良いと思います」

「はーい、涼子了解でーっす」


 午後になり、涼子に案内されてきたその人を見てかなたは息を飲んだ。

「あなたは」

「この姿では、初めまして、ですね。

 私が皆さんが伝説の船と呼んで下さっている者です」

 あの船で映し出した画像はディレイをかけている間にイメージの近い地球人の画像に差し替えていたのだが、その時の画像より、更に若い姿にビックリする。

「あちら風の名前を名乗らせて頂いて良いですか?」

「ええ、どうぞ」

「あちら風の名前、本当に流行ってますものね。

 で、なんとお呼びしたら良いのですか?」

 涼子も興味津々の様子だ。

「何だか恥ずかしいな、

 僕の名前は『武蔵』と呼んで下さい」

「武蔵さん、改めまして、かなたです」

 今風の握手を交わしていると丁度長官が現れた。

 涼子の指示に従い揃ってテーブルに着くとカレーに冷たい水の入ったグラスと苺大福が乗った小皿がそれぞれに運ばれてきた。

「漸く納得のいくカレーが出来たと聞いたが、なるほど、これは流行りそうだな。

 で、君はこれを餌に何の用で私を呼んだのかな?」

「はい、私と武蔵さんがこちらに戻る前に行おうとしていた事が何らかの形で達成されたのに間違いは無いのではないかと考えています。

 超マイクロチューブが極めて不安定になっていると仰いましたよね?

 それが多分その証拠だと考えています。

 この宇宙の歴史が最初から書き換えられたとすると、私たちの存在基盤そのものも書き換えられると考えるべきだと思うのです。

 そうすると、その書き換えのタイミングをかいくぐって私たちの文明と存在を保ち続ける方策を考えなくてはならないのではないでしょうか?」

「やはり君も我々と同じ結論に達しているようだね。

 その通りだ。

 凍結保存されていた我々が淘汰し失ってきた生物の遺伝情報や種子の解析を許可したのもそのためだ。

 いずれ全てが失われる、その前にそれらを情報として取り込み、

 その全てを携えて過去へ跳躍する計画が進行している。

 分かっているとは思うがこの事はくれぐれも内密に頼む」


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