かなたへ 第七部 終焉のかなた プロローグ
かなたへ 第六部 再びの時 http://ncode.syosetu.com/n9445i/ の続編となります
進化の閉塞に置かれ、全宇宙を巻き込む未曾有の大災厄からその存在の歴史の全てが虚無への回帰をなさんとするその宇宙、その宇宙のとある星系に発達し、時間と歴史への繰り返した干渉により極限まで発達したある文明の最期の希望を担い、宇宙存続の鍵を求めて飛び立った超宇宙航行船はその使命を果たすため、宇宙開闢の高エネルギーを正しい時空へ流入させるための超空間トンネルを形成維持するため、時空の果て、宇宙を見渡す神の視座で出会ったもう一隻の超宇宙航行船、『伝説の船』とともにそのトンネルの両端に夫々待機した。
誤った時空に湧き出したビッグバンのエネルギー空間を正しい時空、宇宙の始まりの一瞬へと再還流させるトンネル。宇宙開闢の一瞬だけ、そのトンネルを維持すれば正しい進化を得られるはず。その可能性に二隻は殉ずる覚悟であった。
すでに彼女の中にあったクルーをはその元々存在した宇宙へと緊急離脱ポッドで送り帰していた。唯一人、彼女はその船自身であるが故に共にその超空間へと赴いた愛しい存在と永劫の別れをせねばならなかった。トンネルの両端を開くカウントダウンが始まる。
「私をここまで導いてくれた愛しい人達、
あなた達の慈しみを受け、私は本当に幸せでした。
そして、そのお陰で今、使命を果たす事ができます。
でも、逢いたい、……先輩。
叶うのならもう一度、新たに生まれる世界でもう一度……・」
トンネルが開かれ高エネルギーの奔流にその船は存在の全てが形を失い、光さえも身動きなら無い高密度のエネルギーにより分子は原子に原子は素粒子に素粒子は高次元のエネルギーにむき出しに震える極小の存在へと一瞬の時も待たずに解離していった。
爆発的に拡大する宇宙の始まりの一瞬、宇宙の大きさはその船と同じ大きさであった、否、次元も空間も定まらぬ混沌の時、宇宙の存在の矩を与えたのがその船の存在であった。全くのランダムに生まれるはずであった宇宙はその船に由来するものにより大きな揺らぎを与えられた。船に内包された情報パターンはその存在基盤であった素粒子の揺らぐ配置のまま拡大されインフレーションにより増殖し引き伸ばされ普遍化していく。
やがて宇宙が晴れ上がり最初の星が誕生する頃には遍く宇宙に存在する情報のネットワークがすでに形をなしていた。そして得られた基盤の上に船をあずかる存在であった意識と自我が唐突に蘇った。
そう、かなたは、今、宇宙であった。