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日本国は手を抜けない ―IF― 日本国はスターゲイザーのパイを食うか?(3-ハレー彗星ルート3)

「臨時ニュースをお伝えします。臨時ニュースをお伝えします。

 先程、気象庁から全国に対し、彗星飛来警報が発令されました。

 落ち着いて行動してください。ラジオのスイッチを切らないでください。

 緊急車両の通行の邪魔にならないよう、車に乗っておられる方は、直ちに路肩に停車してください。

 避難にはまだ十分な時間が残されています。避難にはまだ十分な時間が残されています。

 防災ヘルメットを着用してください。防災ヘルメットを着用してください。

 彗星が海や湖に墜落した場合は、大津波が発生します。最寄りの高台にある避難所へ徒歩で移動してください。

 避難所への移動が困難な場合は、なるべく頑丈な建物の四階以上のフロアへ避難してください。

 繰り返しお伝えします……(当時の日本放送協会のアーカイブより文字起こし)」


「今から十二時間ほど前、月の向こう側に於いて、国連常設平和維持軍宇宙艦隊は、地球に飛来するGAU彗星に対し、第一次邀撃を実施いたしました。

 その結果、GAU彗星は大きく六つのグループに破砕されました。

 地球から見て近い順に、アルファ、ベータ、カイ、デルタ、イプシロン、ファイと呼称されております。

 この内、アルファ、カイ、イプシロンについては、地球に大きな被害を齎すサイズ、または軌道ではありません。

 ベータ、デルタ、ファイにつきましては、それぞれ、直径三キロメートル、一キロメートル、五〇〇メートル程度の岩石質の破片であると推定され、内、デルタ、ファイについては地球へ確実に墜落する軌道を取っております。

 ベータにつきましては、月から見て相対速度秒速二十三キロで月面のサクロボスコ・クレーターに激突し、大量の岩石を地球軌道へと巻き上げ、どれほどの量になるかは想像不能ですが、最終的には人類の対処能力を大きく超える量の岩石が地球全土へと降り注ぐことが予想されます。

 デルタ、ファイにつきましては、現在の状態ですと、グリニッジ標準時七月七日二時三分及び同二十分頃にインド洋上、恐らくマダガスカル島の上空で大気圏に突入し、アフリカ大陸南部、南大西洋、南アメリカ大陸の上空を横断。ペルー、エクアドル、コロンビア沖合の太平洋中東部から、メキシコ、アメリカ、カナダの西海岸からオーストラリア大陸東部までの太平洋東部から中部・南部にかけての広い範囲のどこかに、相対速度秒速十六キロ程度で激突。太平洋全域に高さ三〇メートル以上の極めて巨大な大津波を到達させる見込み、であります。

 現在、国連常設平和維持軍宇宙艦隊の第二次邀撃がベータ、デルタ、ファイの三グループに対して行われている頃合いでありますが、この第二次邀撃がどの程度奏功するか、また第二次邀撃によってどの程度落着地点が変化するか、全世界が総力を上げて鋭意計算中でありますが、今の所発表出来る段階ではありません。

 引き続き、政府指定の避難所や、海抜四〇メートル以上の高台にある頑丈な建物の中に於いて、避難を続けてください……(日本国気象省の報道発表より抜粋)」


「神岡鉱山跡地の地下深くに設置された、日本国兵部省自衛隊統合防空司令部(JAD)は沈鬱な空気に包まれていた。

 国連常設平和維持軍宇宙艦隊が投入した、運動エネルギー込みで二十ギガトン相当のキラー衛星群による猛爆は、ベータ、デルタ、ファイと呼ばれる大きなGAU彗星の破片を、大凡で大気圏内から破砕可能なサイズまで砕くことに成功していた。

 そう、「大凡」である。


「「カフカスの森(NORAD/北アメリカ航空宇宙防衛司令部の呼び出し符牒)」より入電中! これは……先の計算結果と変わりありません!」


 オペレーターの悲鳴の様な報告と共に、メルカトル図法の世界地図が投影された三菱電機製オーロラビジョン上に、新たなGAU彗星の破片の落着地点の計算結果が表示される。

 ベータ、デルタ、ファイの三群の内、大きく三つの塊に破砕されベータはそれぞれ、ベータ・ワン、ツー、スリーと呼称される様になり、その内ベータ・ワンとツーは月面に墜落する見込みだったが、以前として直径一キロ余りの巨体を維持――少なくとも地球からの観測データ上は――しているベータ・スリーは、第二次邀撃の結果、地球から見て大きく減速し、デルタ、ファイの二群の後続として、地球への落下軌道に乗った。

 ブラジル上空で大気圏に突入する見込みのベータ・スリーは、デルタ、ファイの残骸多数を伴いながら、日付変更線以西の西太平洋の、北はソ連、南はオーストラリア、西は北海に至るまでの極めて広い範囲のどこかに落着すると予想された。

 予想が広範囲になっているのは、ベータ・スリーがデルタ、ファイの残骸と衝突を繰り返し、最終的な軌道が中々定まらないからでもあり、また突入してくる破片の数々が、「それなりに大きく地上に到達し得る岩塊」だからでもある。

 詰まる所、それら全てが邀撃対象であり、そして特に最優先目標であるベータ・スリーは、「それら全てを避けながら邀撃する必要がある」という、後世で言う所の「無理ゲー」とか「リアル弾幕系シューティング」とかと化していたのだった。

 現在、地球全土から第三次邀撃が果敢に行われているが、第二次邀撃により指数関数的に増大した無数の破片の驟雨を前に、その成果は余り芳しくない。ごく僅かに手元に残った大威力核弾頭で小さな破片を掃蕩しても、発生する電磁パルスにより後続のレーダー誘導邀撃ミサイルが使用不能になるのでは意味がない。

 故に、JADは沈鬱な空気に包まれていたのだった……(福田・定一作「彗星が降った日」より抜粋)」

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