日本国は手を抜けない ―IF― 日本国はスターゲイザーのパイを食うか?(3-ハレー彗星ルート2)
第三次中東戦争を強引に終結させた世界各国は、米国を始めとする西側諸国主導の元、全地球規模の対GAU彗星防空網の構築を急ぐことになった。
基本戦略は国連総会に於いて採択された、通称「代替案」と呼ばれるそれの、
・月公転軌道以遠での、徹甲質量弾頭による直接打撃、及び大威力核弾頭の熱線と衝撃波での破砕(第一計画)
・破砕しきれなかった破片の、月公転軌道から静止衛星軌道上での対衛星弾頭の直接打撃による破砕(第二計画)
・大気を貫通し地表に核兵器級の被害を与え得る破片の、静止衛星軌道から大気圏外での対衛星ミサイルによる破砕(第三計画)
・それでも残った破片の、大気圏内での陸海空からの対空ミサイルによる破砕(第四計画)
から成る四段階であり、人口希薄地帯に落ちるからといって見逃しはしない、という基本方針が定められた。
GAU彗星墜落に於ける様々なシナリオのシミュレーションの結果、例えばサハラ砂漠のど真ん中や、ポイント・ネモのような人口希薄地帯に、秒速十八キロで直径百メートル程度の破片が落下した場合、莫大な量の砂塵が巻き上げられて「核の冬」が訪れたり、高さ数十メートルにも及ぶ大津波が太平洋沿岸全域を直撃したりすることが明らかになった。
仮令自らのイデオロギーに拘泥して、戦争どころではないという説得にも耳を傾けず、已む無く攻め滅ぼされたイラクやシリアやイスラエルに落下する場合でも、それを見過ごした場合、地球全土に看過し得ない重大な被害が及ぶことから、早々に地球経済の枢要部――例えば世界都市だとか穀倉地帯だとか大水源だとか――のみを守る、という考えは捨てられた。
どんなに気に入らない相手の所に墜ちるとしても、それを座視することがあってはならない、という共通認識の下、各国軍は国連常設平和維持軍へ人員を差し出し、国連常設平和維持軍から委託を受けた西側諸国が、自らの持つ最新鋭の防空システム群の運用教育を行い、それらを全世界に等配分する、という計画が策定された(無論、余裕のある国々はそれらとは別枠で自国の防空要員を編成したのではあるが)。
その様な人材育成をする傍らで、宇宙開発に於いて飛び抜けた先進国である米ソは、代替案第一から第三計画に於ける邀撃計画に使用する弾頭の仕様をさっさと決めて製作してしまうと、自らの持つ宇宙往還機やありとあらゆる打ち上げ機を使って、ほぼ毎週の様に宇宙空間に邀撃兵器群を並べていった。
代替案第一計画に於ける投射量は、質量弾頭が運動エネルギー込みのTNT火薬換算で十ギガトンと、核弾頭が十ギガトン。これらをGAU彗星が地球から見て月の影に隠れるタイミングで撃ち込み、宇宙空間で核兵器を炸裂させることによる強力なEMP(電磁パルス)の影響をなるべく避ける計画だった。
余談ながら、この時宇宙空間に放たれた核弾頭は、冷戦中に米ソ両国がしこたま製造して貯め込んだ核弾頭の内、即座に対彗星邀撃に転用可能だったICBMやSLBM用のそれのほぼ全てであり、「どうせ地球に墜ちたら無用の長物になるんだから、ここで景気良く使っちまおう」という、半ばヤケクソじみた関係者の一種の諦念が垣間見える。
閑話休題。
代替案第二計画に於いては、これもまた米ソがアホほど宇宙空間に投げ出したキラー衛星(対衛星衛星)がそのまま転用された。こちらは邀撃に支障を来たす恐れがある為、核兵器の使用は早々に諦められ、純粋に運動質量弾頭のみで四千発・二十ギガトン相当が用意された。
代替案第三計画に於いては、アメリカが既に開発を終えていたASM-135・ASATミサイルが大量生産されて用いられることになった。このミサイルの運用・誘導のためだけに、地球全土に防空管制レーダーサイトが滑走路付きで建設され、適当な島嶼が無い地域には空母を浮かべるなどして対応することになった。
そして最終段階である第四計画に於いては、対航空機用指向性破片弾頭に代わって二八〇キロ余りの極上の劣化ウランまたはタングステン運動エネルギー徹甲弾頭に換装された、AIM-54MS「フェニックスMS」空中発射型対彗星邀撃ミサイルや、「パトリオット」地上発射型対弾道弾邀撃ミサイル、「スタンダード2」水上発射型対彗星邀撃ミサイルが用いられることとされた。
特に最も発射高度が高く、邀撃地点の高度を高く取れて運用の柔軟性が高いフェニックス・ミサイルには大きな期待が寄せられ、この運用のためだけに、米国はF-14・F-15及びその派生型の大量生産のみならず、アホほど作ってモスボール保管していたF-4戦闘機を現役復帰させAN/APG-71レーダーとF100型エンジンを載せるという魔改造を施したり、搭載機器をソリッド・ステート化して空いたスペースにデータリンクを押し込み、共同交戦能力(CEC)を持たせて単なる随伴ミサイル・キャリアー化したF-104を大量に用意したり(※一応、ミサイル側のシーカーを使って単独で彗星邀撃を行うことが可能ではある)するなどした。
逆に言えば、それが当時の人類がGAU彗星に対して用意することが出来た邀撃手段の全てでもあった。
※二八〇キロ余りの極上の〜
元ネタはこちら。
www.nicovideo.jp/watch/sm4320523