表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

日本国は手を抜けない ―IF― 日本国はスターゲイザーのパイを食うか?(2)

 第三次中東戦争の期間を通じて、最も神経を尖らせた部門がどこだったかと言えば、それは勿論、相手方からの先制核攻撃を真っ先に見つけ出し、邀撃し、反撃命令を下さなくてはいけない、各国の監視哨レーダーサイトと防空司令部であっただろう。

 冷戦最末期のおよそ十五年間に於ける緊張の高まりは、各国をして地球文明を何回滅ぼしても飽き足らないほどの核戦力を積み上げる、いつか来る未来に於いてこちらが受ける被害よりも大きな被害を相手方に与えることを目的とした、一種のチキンレースをスタートさせると同時に、それに対する索敵や邀撃手段の発達をも促した。

 米国に於いては所謂スター・ウォーズ計画こと戦略防衛構想・SDIが構想され、衛星軌道上を始めとする多種多様な索敵・邀撃手段を整備し、アメリカ合衆国本土のみならず同盟国をも包摂して防衛する、気宇壮大だが幾らなんでも米帝の手には余るんじゃないかでも米帝だし実現しかねないよなあ、的な印象を各国の人々に与えた。

 これに対しソ連は自らの持つ核戦力が無効化されることを恐れ、西側諸国の邀撃能力を圧倒すべく更なる核戦力の整備に狂奔して最後は経済的に自滅するのだが、当事者達は洒落にならないぐらい至って真面目に取り組んだ結果であるので、単に愚かと扱き下ろすのは些か浅薄な考えである。

 兎も角として、SDIはそれまでの相互確証破壊に基づいた危うい核の均衡を覆し、被弾による犠牲を負うことを前提とした報復戦略から脱却出来る可能性を示した事で、特に大量のソ連軍と対峙する西ポーランドの様な前線国や、一発でも大威力核兵器の攻撃を受ければ国土全土に渡って潰滅的な被害が発生する日本国や英国の様な島国からは、諸手を挙げて賛意が示され、米国もこれらの国々の参画を大いに喜んだ。

 この時期、敗戦国から死に物狂いで先進国に喰らい付いてきた日本国は、今や国家総力戦遂行能力に於いて世界の五指に入る製造力・技術力を身に付けており、特に固体燃料のロケットや、軍事転用可能な民生技術(下町にゴロゴロ存在する町工場が、人工衛星クラスが要求する精緻かつ高強度の精密部品製造技術を有しているとか、小型化・軽量化・高耐久化を突き詰め過ぎて軍用クラスに到達している電子機器であるとか)など、一部の分野では世界一に達していた。

 あるいは戦後上手く高度経済成長の波に乗り、逸早く国際標準規格に準拠した物作りに転換を果たした英国を始めとする(西側の)欧州諸国も、個々の技術力では決して遅れてはおらず、逆に理論的には米国より先行している分野さえあった。

 これら西側各国が連携して得られた成果の一つが、全天早期警戒システム、通称「スターゲイザー」である。

 スターゲイザーは、元々は西暦一九八六年に地球に接近する(と見込まれる)ハレー彗星を二十四時間体制で観測し続けるため、比較的低い衛星軌道上に二十四から四十八機程度の観測用人工衛星群を等間隔に打ち上げるという、英国単独の計画であった(※所謂、GPSに代表される様な衛星コンステレーションである)。

 しかし流石にこれだけの数の人工衛星を揃えて打ち上げることは、英国単独では困難であるため、話は欧州宇宙機関(ESA)へ持ち込まれ、更に米国航空宇宙局(NASA)や日本国宇宙開発事業団(NASDA)にも協力の打診が行われた。

 当初、スターゲイザーはハレー彗星を観測するためだけの、比較的単純・単機能な天文衛星が予定されていた。しかし、スターゲイザーはその規模・能力に対して、ハレー彗星の観測だけに使用するには余りにも「勿体無い」と考えられた。

 そこで、スターゲイザー衛星の内、地球の影に隠れてハレー彗星を観測できる位置に居ないものについては、その間は他の天体観測に使用し、またハレー彗星が地球から遠ざかった後は、普通の天文衛星として地球全天を観測し、超新星爆発や未知の天体の飛来を覚知するために使用することが構想された。

 それに目を付けたのがSDIである。

 未知の天体。

 即ちソ連が打ち上げるであろう弾道ミサイルであるとか、軍事衛星であるとか、そういう物騒な類のものである。

 これらは勿論、地球の全表面を観測・警戒する米国の早期警戒衛星によって既に観測網が整備されていたが、これらは飽く迄も「地球表面上での発射を知る」ものであって、その「具体的な飛翔コースと最終到達地点(軌道要素)を知る」ためには様々な観測データが必要であり、大抵の弾道ミサイルは高度一〇〇〇キロ以上の遠地点高度まで上昇後、目的地まで落下することから、スターゲイザー衛星群によって観測することは不可能ではないと考えられた。

 西暦一九八四年、スターゲイザー計画は欧米日による国際共同観測計画の体を取って打ち上げを開始。西暦一九八六年二月までに全て(四十八機プラス予備機四機)の打ち上げを完了した。

 スターゲイザー衛星のスペックは大凡、広角・広色域の半天(※反対側は地球を向いている通信用アンテナが占めている)観測望遠鏡と、ハレー彗星観測用(※公称)高倍率望遠鏡、そしてアクティブ電波望遠鏡(※つまりレーダーである)から成り、その運用は参画国が共同で設立した「宇宙危機早期警戒機関(Space Emergency Early-warning Detection Agency)」によって行われ、建前の上では中立的な国際機関による運用の体を取っていたが、実際には同組織はNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)などの軍事機関への通報義務も負い、殆ど一体的に運用されていたため、西側諸国の非武装(警備の為の武装をしていないとは言っていない)の準軍事組織によって運用されている、というのが実態であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ