日本国は手を抜けない ―IF― 日本国はスターゲイザーのパイを食うか?(3-ハレー彗星ルート7)
「――たった今入りました政府関係者の話によりますと、大気圏に突入した彗星群の内、主要な破片は東部太平洋上での邀撃・破砕に成功したとの情報が寄せられました。
然し乍ら、中米パナマ付近に落着したとの未確認情報もあり、現在中米各国との通信が不通になっている模様です。
また周知の通り、邀撃・破砕に成功した場合でも、地球環境を激変させるほどではないにしても、彗星は太平洋全域に津波が押し寄せる様な威力を維持している場合があります。
この為、気象庁は依然として彗星飛来警報、及び全海岸線への大津波警報を解除していません。
皆様に於かれましては、引き続き高台の避難所への避難を続けて下さい。ラジオやテレビなどを通じ、常に最新の情報を入手してください。
繰り返しお伝えします……(当時の日本放送協会のアーカイブより文字起こし)」
「国際連合常設平和維持軍・地球圏防空邀撃司令部は、先程、地上に被害を及ぼす様な彗星の破片の殆どが、既に大気圏に突入したか、または数年単位の安定性を持った地球周回軌道に乗ったことを確認いたしました。この為、彗星飛来警報につきましては、これを注意報に切り替えます。
各国の彗星邀撃部隊については、即応邀撃体制を解除し、通常の警戒体制へと移行します。
また、地表に落着した彗星による影響、特に既報の通り全世界に発されていた津波警報についてですが、各地の検潮所で観測している潮位の変化が警報基準を下回りましたので、津波警報につきましてはこれを注意報へと切り替えます。
大半の場所では、今後、陸地に大きな被害を及ぼす様な潮位変化はないものと見込まれていますが、地形によっては被害が出る恐れが依然としてありますので、不用意に海岸線には近付かない様、注意してください。
津波により海底のゴミや危険物が陸地に打ち上げられている場合があります。後片付けの際は怪我をしない様、十分注意を払ってください。
私からは以上ですが、この後報道各社からの質問を受け付けます。指名されましたら、社名とお名前を明言の上で質問をお願いします。……(当時の国際連合常設平和維持軍・地球圏防空邀撃司令部の報道官による記者会見より文字起こし)」
「――松山空港から中継でお伝えいたします。
私が今居りますのは松山空港の展望デッキです。第一滑走路を挟んだ空港施設の反対側に、海上自衛隊松山基地があります。この松山空港に今、ご覧の通り、沢山の人が詰め掛けています。
関係者の話によりますと、今回飛来し大気圏に突入した彗星の主要な破片に最も接近し、共に突入してきた小さな破片の雨を避け乍ら邀撃ミサイルを直接叩き込む、危険で過酷な任務に従事し成功させた彗星邀撃隊は、この松山基地から空中空母に乗って出撃した、特別編成の部隊だとのことです。
あ、今、向こうに光が見えました! 一つ、二つ……四つです。帰還した件の部隊の機体でしょうか?
手元の情報では、この部隊は特別仕様のF-14J2を装備しているということですが……カメラのズームで追えますかね、どうでしょう……あ、見えました! 蒼い海洋迷彩のF-14J2が四機です!
通常の空母飛行団の所属機の場合は、一度滑走路上空を通過して旋回した後、着陸するのが手順だそうですが、こちらはどうでしょうか……あ、高度を落とし……ませんね。戦闘機としては非常にゆっくりと、松山空港の第一滑走路を、今……、通過していきました! あ、F-14J2が翼を振って旋回していきます!
ご覧ください、詰め掛けた人々から物凄い歓声が上がっています! あ、松山基地の方ですが、手隙の隊員の方々でしょうか、F-14J2に向かって帽子を振っているのが見えます! どうやらこの四機が件の部隊で間違いなさそうです!
群青の空を超えて見事彗星を撃ち墜した英雄たちが、飛行場をぐるりと回って……あ、二機ずつに散開しましたね、先に二機が着陸する模様です。今……着陸しました! 群衆から拍手と、「ありがとう」「お疲れ様でした」「お帰りなさい」の大歓声が上がっています! 残りの二機は滑走路をフライパスしていきました!
着陸した二機が誘導路の方へ入っていきますが、そこへ消防車が二台、近付いていきます。二機の頭上目掛けて、放水を始めました! 放水のアーチの下を、二機のF-14J2がくぐっていきます! 歓迎放水ですね! あっ、放水で虹が出ました! 美しい……感慨無量です。言葉では言い表せない巨大感情で、すみません、ちょっと涙が止まりません!
あ……今、残りの二機も着陸体制に入りました! ふらつくこともなく、綺麗なアプローチで、今、タッチダウン! お帰りなさい! お帰りなさーい!
(当時の日本放送協会のアーカイブより文字起こし)」