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日本国は手を抜けない ―IF― 日本国はスターゲイザーのパイを食うか?(3-ハレー彗星ルート4)

「在空各機、傾注アテンション

 良いニュースが二つと、悪いニュースが一つある。

 先ずは悪いニュースからだ。

 第三次邀撃は、所定の目標を達成出来なかった。地表に影響を及ぼし得る彗星の破片の凡そ四〇パーセントの邀撃には成功したものの、最優先目標であるベータ・スリーに到達した邀撃ミサイルは僅かに二。

 次に良いニュースの一つ目だ。

 ベータ・スリーに邀撃ミサイル二発が到達した結果、ベータ・スリーは四つの岩塊に分裂。この内特に大きな三つが、四十五分後に我々の担当空域を通過する。

 二つ目の良いニュースは、戦力の再配置が間に合う見込みであることだ。

 喜べ野郎共。お前達が束になっても堕とせなかった彗星邀撃隊メテオ・スイーパーズを載せた空中空母が、四十分後に戦域に到達する見込みだ。

 我々の任務は、先に、あるいは同時に突入してくる、「地上に致命的な被害を及ぼす程ではないが、邀撃ミサイルがベータ・スリーに到達するには邪魔な破片」を排除することに変更された。

 良いか、お前達は彗星邀撃隊の進路を啓開し、連中の強烈なビンタをベータ・スリーどもに呉れてやる一助となることだ!

 そして、お前達の双肩に、地球人類の命運がかかっていることを忘れるな!

 彗星との戦いはこれで終わりじゃない。これが始まりだ!

 この先何十年と降り注ぐ彗星の欠片と、人類は長いお付き合いを始めることになる。

 お前達の命は、この一戦だけで喪失って良いものではないことを肝に銘じ、任務に臨め!

 そして、必ず帰って来い!

 以上!……(東部太平洋方面彗星邀撃任務部隊空母「コンステレーション」より発せられた指揮官訓示)」


「ジリリリリリリ、と待機室のインターホンが鳴り、ノーマルスーツ(薄手の大気圏内用気密服)を着用した飛行長エアボスが即座に受話器を取った。


「シーグルズ、スクランブル!」


 飛行長の号令一下、「SCRAMBLE」の赤ランプが点ると同時に、「私」達はヘルメットを被りエアロックに入る。エアロックの扉が閉じると同時、プシュ、と微かに空気が抜ける音。エアロック内の気圧計が本当の外気圧と同じ〇.二気圧を指すと、反対側の扉が開く。

 扉の先にあった階段を駆け上がって走り出せば、非与圧環境の格納庫内でずっとスタンバイしていた機上整備員達が、既に壁面の柵に命綱を走らせ乍ら、機体の最終チェックをしている。

 そこには、インテーク後方に使い捨て補助ロケットを載せ、それでも飽き足らず機銃を下ろして空いたスペースに液体酸素を詰め込み、エンジンから抽気した圧縮空気を後縁フラップのみならず翼端や機首からも噴き出し可能として、従来機では不可能な超高高度での戦闘機動を可能とした、海洋迷彩が施された彗星邀撃用の「特別な」F-14J2が二機。

 翼下に露払い用のAAM-3が四発と、AAM-4が十二発。そしてエアインテークの間の胴体にAIM-54MS対彗星邀撃ミサイルが四発。それが、「邪魔な破片の群れを避けながら邀撃ミサイルを叩き込む」ことを任務とする我々彗星邀撃隊が携えられる武器の全てだ。

 兵装士官(WSO)の相棒バディと一緒にコックピットまで駆け上がり、機体の電源を入れる。前に駐機する僚機からの排気炎を吸い込むのを防ぐ、ジェット・ブラスト・デフレクターが起き上がり、同時に「私」達の機体の後方から光が差す。「私」達を載せている空中空母こと、バンシィ級彗星邀撃機母機「ノルン」のカーゴランプが開いたのだ。

 機体の前に躍り出た整備員のハンドサインに従い、機体に備わっている圧縮空気タンクからの空気を用いてエンジンを緊急始動。F110-IHI-400エンジンに火が入る。自己診断オーケー、フラップ、エルロン、ラダー、スタビレーター、全て正常。エンジンも規定回転数に到達。ハンドサインでそれを示すと、外からも目視点検してそれを確認した整備員は、横の退避区画へ退避する。


「ノルンよりシーグルズ・ツー、いつでもどうぞ!」

「了解! シスター、ブレーキリリース!」

「シーグルズ・ツー、行くわよ!」


 宣言した瞬間、F-14J2の車輪を前後から拘束していたフライトデッキの車輪止めの内、後ろ側のそれが床に沈む。

 同時にF-14J2の機尾からドラッグ・シュートが放出され、突然生じた強力な空気抵抗に従って、F-14J2はバンシィ級彗星邀撃機母機のカーゴランプから機外へと放り出される。

 あっという間に逆加速して、「ノルン」から十分な距離を取ったF-14J2の機尾から、ドラッグ・シュートが切り離された。ガクン、という浮遊感の後、自動で使い捨て補助ロケットが点火し、一旦「ノルン」の右下方にF-14J2は加速して抜け、十分に安全な距離に達してから今度は上を向く。

 バックミラーに同様の手順で発艦した僚機を捉えながら、「私」達は視線の先、水平線の向こう側、正面から放射状にやって来る流れ星のその向こうに居るであろう、未だ見ぬ彗星本体を睨み付けた。……(実際に彗星邀撃戦に参加したある一自衛隊員の手記を脚色したもの)」

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