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日本国は手を抜けない(蛇足:赤いスパローの皇帝)

 第三次中東戦争は、戦域をイランに限定した東側対西側の国家総力戦であったことは既に述べた通りである。

 双方が自身の主義主張の正当性を懸けて全力を尽くしたこの戦争は、イランとイラク・ソ連国境付近に於いて、第一次世界大戦並みの勢いで弾薬を消費する凄まじい地上戦を展開し(※一説によると第一次世界大戦末期のある一ヶ月に消費した砲弾が八〇〇万発とか、そういうレベルの話)、悲惨な戦禍を同地域に齎した。

 殊更に地上戦の惨禍ばかりが強調される向きの強い第三次中東戦争であるが、戦場は何も地上に限ったものではなかった。ペルシャ湾に出入りする船舶をイラク軍機から守る海上通商護衛任務だってあったし、地上部隊に対する近接航空支援、即ち空爆と、それを護衛する戦闘機部隊同士の空中戦だって、それは激しい戦闘が繰り広げられた。

「初出撃で生き残って帰還すれば一人前、二回目の出撃で無事に帰還すればエース、三回目の出撃で生き残れば鬼神」とは、第三次中東戦争に従軍した某国パイロットが同戦争に於ける空中戦を評した言葉であり、つまりそれほどまでに空中戦が激しかったことを示している。

 同戦争で空に散った作戦用航空機は、一説によると東西双方合わせて四〇〇〇機を数えると言う。年平均で五〇〇機も損耗している計算であり、ソ連経済が傾くのも宜なるかなと言ったところであろう。

 この戦争では双方にエース・パイロット(いわゆる五機から十機の敵機を確実に撃墜する戦果を挙げたパイロットを指す)が多数、誕生しているが、特に西側で名高いのは、「赤いスパローの皇帝」であろう。

「赤いスパローの皇帝」は、開戦当時はイラン空軍の軍人として帝都テヘランを守っていたF-4Eのパイロットであった。

 イラン空軍きっての腕利きパイロットであった彼は、若くして隊長として一隊を率いており、乗機も当時のイラン空軍主力戦闘機であったF-4EIに、特別目立つ赤の塗装を施したものを与えられていた。


挿絵(By みてみん)


 彼は開戦当時、クーデターでテヘランが混乱する中を押して出撃し、オマーン湾から急派された日本国自衛隊の「サムライ・ブルー」のF-4EJと協働し、見事にテヘランの空を守り切った。「赤いスパロー」とはその時テヘランに侵攻を図ったソ連軍機のパイロット(※後に「ソ連邦の白い悪魔」と渾名された新米パイロット)が付けた渾名であり、ソ連軍機が放った「通常の三倍の数のミサイル」を全て回避し、空挺部隊を運ぶ輸送機の後ろの射点に着いて、赤く塗られたミサイル(スパローとサイドワインダー)を全弾叩き込んだ様を指している。

 そして公式記録上では、彼は基地に帰還後、クーデターにより重傷を負い後日亡くなった父と皇太子に代わって、第三代イラン帝国皇帝シャーとして即位し戦場からは退いている筈なのだが、その後もテヘランに空襲がある度に、テヘラン上空を舞う赤い機影を目撃したという証言がしつこく記録されている。

 真相は定かでないが、皇帝シャー本人はその事を訊ねられる度、苦笑してノーコメントを貫いていたことから、恐らくは士気向上の為に流布された戦場伝説の類であろう、と筆者は推測する。

 まさか皇帝シャーとして政務に追われ、戦時国家の最重要人物として厳重に警護されるべき人物が、全てを放り出して戦場に駆け付けることなど、あろう筈もない。

 なお、開戦劈頭のそうした彼の戦果に肖ってか、第三次中東戦争では度々残骸として赤く塗られたスパロー・ミサイルが目撃されている他、軍用スラングとして、


「うるせえ赤スパぶつけんぞ!(※お前撃墜するぞ、の意)」


 という用法が主に西側諸国のパイロットの間に根付いているが、これは完全な余談である。


 ちなみに彼は即位後、日本国の旧将軍家最後の相続人(当時)を嫁に迎えており、世が世なら彼は「大君タイクーン」の称号も得ていたことになる。

 だから何だという訳ではないのだが、何故か記しておかねばならない気がしたので筆者はここに付け加えておく。

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