21話 幕間 1&2
今回は話のストックが切れたので番外編ということになりました。すみません。
「なぁ、水瀬って確定申告はどうしてんの?」
確定申告。
それはフリーランスだったり、個人事業主にとってあまり考えたくはない四文字だろう。
一月頃から次第に頭によぎり始め二月中頃には申告期間がスタートする。
ここにいる庵と明澄も個人事業主という括りの中にいるので、当然確定申告をしなければならない。
確定申告自体はもう少し先だが、今のうちから準備をしておかないと大変なことになる。
そんなわけで、今日はその確定申告のために領収書などの整理を行っていた。
「私は事務所の詳しい方に指導を頂いて、済ませていますね」
「あーそれいいな。税理士とかに頼んでも良いんだけど、説明とか面倒くさいからな」
「こちらは基本的に経費になる物がはっきりしているので、意外とすんなり行きますね」
「俺は理由次第で経費に出来る分、大変なんだよなぁ」
明澄の経費は配信で使った機材やゲームや課金、また庵に頼んでいるイラスト関連ぐらいだし、収入関係は事務所から書類を貰えたりする。
他にもいくつかあるが、大きく分けるならそれくらいだろう。
一方の庵は、イラスト制作に使用する道具などがメインになる。
また資料である小説や漫画、ゲームやフィギュア、衣装など経費に出来るものが多い分かなり大変だ。
一年間の総決算ともあって、領収書だけでも膨大な量が鎮座していた。
「お手伝いしますから。頑張りましょう」
「そうだな。やるしかないな」
何が楽しくて積み上げられたレシートや明細書と戦わねばならないのか。
やりたくは無い。
だが、やらねば脱税だ。
それだけはまずい。
脱税するつもりは微塵も無いが、やはり面倒くさいというのが本音だった。
「このレシートはどうしましょう」
「それは書籍関連のやつだから、こっちの箱に頼む」
「本当に大変ですね。毎年、これをやってたんです?」
「ああ。見ての通り適当な人間だからな。都度都度、纏めてたりなんてしないし」
「何故、こうなると分かっているのにしないんですか」
「初めはやるんだけどなぁ。確定申告が終わった後の三月とか四月はな。けどその後からしなくなる。夏休みの宿題と同じだ。最初の三日だけ威勢がいい。情けないことにな」
領収書や書類の整理を明澄はそう言いながらも纏めてくれる。
その様子は庵が夏休みの宿題を引き合いにしたように、夏休み最終日に叱りつつ手伝ってくれる母親みたいだった。
「あーもう税理士と結婚するかぁ」
「あなた絶対、病気になったら看護師さんと結婚するって言うタイプですよね」
「そうだよ?」
「そうだよ、じゃありません。あなたの面倒を見る奥さんの身にもなってあげてください。全く、世話の焼ける人ですね」
「冗談だよ。冗談。世話については申し訳ないとしか。その代わり新衣装もめちゃくちゃ良いモノにするし、今日は俺がメシを作るからさ」
せっせっと二人して整理する中、庵は唐突にそう言い出す。
そんな彼をじとりとした目で軽く怒りつつ、ため息を付いたりしながらも明澄は手伝ってくれる。
本当にありがたい限りだ。
その分、彼女に出来ることは全力で返していこうと庵は考える。
ギブ&テイク、持ちつ持たれつつ良い関係を保つ為になら頑張れる気がした。
「まぁ、私も好きでやってるから良いんですけどね」
「世話好きってのいいな。今度の新衣装は保育士さんとかどうだ?」
「なんであなたから提案するんですか……でもちょっと良さそうなのが悔しいです」
新衣装のアイデアをライバーから尋ねることはあっても、イラストレーターが勝手に提案するのはあまり聞いたことがない。
彼の私欲を垣間見た明澄は呆れ気味だった。
ただ、彼のファンでもある彼女は見てみたいという葛藤に駆られる。
そうしてその数ヶ月後、本当に氷菓の保育士衣装が実装されたのだから、欲望というのはバカには出来なかった。
幕間 2
「ふぅ。とりあえずある程度纏まったし、後は経費のために働くとするか」
「何をするおつもりで?」
午後を少し回ったところで、ようやく整理の目処が立ってきた。
すると、庵はクローゼットを開けてゴソゴソとし始める。
「経費の為の自撮り」
「どういうことでしょう?」
「買った衣装でまだ使ってないやつがあるんだよ。経費にしないと勿体ないからそれをイラストにするんだけど、そのイラストを描くのにはやっぱり衣装を着てみないとな」
「ああ、なるほど。そういう事ですか。で、何を着られるのですか?」
庵はこうして確定申告が近づくと、経費のために纏めて使わなかった衣装などを落書きやラフとして描いたりしていた。
それをクリエイター系のパトロンサービス(所謂、FANBOXなど)にアップしておくと、ちゃんと経費になる。
庵が自撮りするのはそのイラスト用の資料にするのが目的だった。
「ん? バニーとナースとチャイナ服、その他諸々」
「は?」
庵が淡々と言えばこの人は何を言っているだ? と明澄は首を捻った。
「だから、バニーとナースとチャイナ服……」
「それは分かりましたけど普通、女性が着るものですよね?」
「でも、露出系のやつは水瀬には着させられないし、去年まではこうしてたぞ」
「あのイラストやあの衣装の資料もこんなことをしていたんですか?」
「ああ、仕方なくな。言っとくが俺のスマホとPCのファイルは地獄だぞ」
「知りたくなかったです」
明澄もまさか推しの絵師が女性モノのコスプレをして、その自撮り画像を元に絵を描いていたなんて思うまい。
けれどこれは割と良くある話だ。
特に絵描きはイラストレーターに限らず、自分を資料にすることは普通だったりする。
そうして明澄がショックを受ける中、庵はバニー服を手に取っていた。
「本当にやるんですか?」
「もちろん。流石にグロいと思うから、悪いけどまた後で」
「はぁ、仕方ないですね。…………着てあげます」
男のバニー姿など見せられるわけが無いし、見られたくもない。
庵はそう言うのだが、明澄がぼそりと零したその言葉に耳を疑った。
「え、なんて?」
「だから私が代わりに着ると言ったんです。二度も言わせないでくださいっ」
聞き返した庵に明澄は語気を強め、顔を赤くしながら口にする。
「良いのか? お前の嫌がってた露出系だぞ?」
「正直な話このままだと今後、朱鷺坂さんが描いたイラストを純粋な目で見られなくなりそうです。そっちの方が嫌なので」
庵のイラストを楽しみしている彼女からすると、真実を知った後ではモヤモヤするということらしい。
となれば自分が着た方がまだマシという判断を明澄は下した。
いかに彼女が庵のイラストを好きであるか、ということが如実に現れた瞬間だった。
「まじか。頼めるならそうしたいけど無理はするなよ?」
「ちゃんとセーラー服も用意して頂けるなら良いです。前は着るのを忘れていたので」
「約束しよう」
「では、着替えるので部屋の外に行ってください」
真っ赤になりながら、明澄が告げると庵は間髪を容れずに了承する。
これは、願ってもないことだ。
流石に露出のある服までは求めるつもりもなかったし、罪悪感しかないので諦めていたが、まさかバニーまで着て貰えるとは思わなかった。
こうして、明澄によるコスプレショーと二回目の撮影タイムが始まるのだった。
前書きの通りストックが切れてしまいました(;∀;)
今回は初回ということで、二話ほど載せて纏めましたがこの幕間は基本的に短くなります。
またストック切れの時に本編の合間に載せるシリーズとして掲載していく予定です。
なので次話は本編に戻りますので、彼女のコスプレショーはまたストックが切れた時になります。
申し訳ありませんが、お待ちいただけると幸いです。





