第138話 球技大会幕間、彼女のお労い(初級)
「おー。疲れさんさん!」
「はい、お疲れ様」
「ういー」
初戦を勝ち抜いた三人はコート内で集まって、軽いハイタッチを交わす。
まだまだ元気が有り余る颯人に、一番活躍した割に涼しい顔の奏太、普通に萎びている庵と三者三様に汗を流していた。
試合は奏太が三点に関与、颯人が一得点などチームは計五点を取っての圧勝だった。
サッカー部の次期主将とチームの中盤に君臨する二人で殆どを支配した事と、他にも経験者がいたのが大きいだろう。
また庵に関しては、全員がサッカーを知っている訳ではなくボールに群がりイケイケで手薄になった守備に奔走していた。
「奏太ー! お疲れっ! カッコ良かったわ。はい汗拭ってね」
「ありがとう胡桃。応援聞こえてたよ」
「力になった?」
「そりゃあもう」
「ふふっ。良かった! 後でぎゅーしてあげる」
先にコートを出た奏太が駆けてきた胡桃に出迎えられる。
試合中も黄色い声を飛ばしていたが、今も尚声は一段と高く瞳はとろんと奏太だけを捉えていた。
後でなんて言っているが、ほぼ抱きつくようにしていて颯人は「あともくそもないだろ」と羨ましそうに見ていたからくすりと庵が笑う。
「颯人も頑張ってたよ」
「庵、お前……!」
慰め程度に労わってやると、颯人は感動したように庵を見る。
のだが、「いや、そっちには水瀬さんが居るじゃねぇか」と一瞬で真顔になっていた。
煽ったつもりはないのだが、颯人にはそう捉えられたのか、こちらにやって来る明澄を見つけて「ほら、来たぞ」と不満気味に背中を叩かれてコートを出た。
「庵くん、お疲れ様です! 暑かったでしょう? ドリンクとタオルです」
「ありがとう。助かるよ」
はい、と可愛らしい笑を向ける明澄から先にタオル受け取り、ぱっぱっと布を当てて吸わせるように汗を拭く。
その間、明澄は汗を拭く庵を健気に待ち、終わるとドリンクを手渡してくれる。
運動部にいた事はないが、マネージャーとやり取りするならこんな感じだろうか。
しかも奏太が日頃堪能しているであろう、恋人兼マネージャーなので格別なものがある。
大人びている庵もきちんと男の子の部分があって、こういったシチュエーションに憧れを僅かに残していた。
正しく彼女持ちの特権だろう。
そして、その他にも彼女持ちの男子は彼女からサポートを受けており、庵や奏太たちに向かって爽やかなグラウンドに羨ましさから怨嗟が渦巻いていた。
「ふふ。庵くん凄く頑張ってましたね。体育だとあんなに積極的じゃないので、新鮮でした」
「頑張るのは約束だからな。あと、普通に楽しいっちゃ楽しい。くそ暑いけど」
「それは何よりです。でもお怪我だけ気を付けてくださいね」
「手だけは守りながら頑張るよ」
庵は怪我をすると仕事に影響するので、コンタクトを伴うスポーツでは控えめにしている。
バスケとかハンドボールとかになると特に大人しいし、そもそも普段の体育は最低限しか活動していない。
女子とは別れる体育だが、同じ場所でやることもあるからたまに明澄たちが覗いている。
出来るなら情けないところは見せたくないが仕方なかった。
ただ今日は頑張ると決めていて、しっかり役割はこなしたつもりだから、胸を張れる。
何より、試合中に明澄が聞いたことないくらいの声で「庵くーん!」と応援してくれたので驚きつつ、よりやる気が出ていた。
「はい。次も楽しみにしてますね!」
いつもと違う庵が見られて嬉しいのか明澄は眩しい笑みでそう言って、木陰に二人で隣合って座る。
「後で明澄のバスケも応援に行くよ。シードだから俺らのもう一試合あとだよな?」
「はい。トーナメントの端なのでだいぶ遅いんですよね」
「ゆっくり出来ていいじゃないか。俺は大分ヘタってるから羨ましい」
「庵くん、別に体力ない事はないと思うんですけどね。軽くでもなんだかんだジョギングしたり毎日筋トレしてますよね」
「まぁな。座ってばっかだと弱るし、あと肉が付くから」
ずっと机に向かう職業なだけあって身体がバキバキになることもあれば、将来的な心配もある。
庵は絵の師匠から絶対に運動しろ、と技術のアドバイスよりも一番強く指導された。
最近は明澄の目もあって、だらしない身体は晒したくない。上半身でも服を脱ぐと慌てるので、そういう機会は殆どないが見えるところもあるし、きちんとしたいのだ。
「偉いですよ。私は意外とサボっちゃうので、ほらちょっと太く……」
翻って明澄は二の腕を摘みつつ恥ずかしそうに笑ってそう零す。
明澄の美しい見た目は天性のものと、3Dライブの為の体力作りやスタイル維持の努力から成り立っている。
サボるとは言うもののきっと忙しいのだろう。
摘んだ二の腕も許容範囲で全然太ましくは見えないし寧ろほっそりしているから「太くないよ」とフォローしておいた。
「庵くんに比べたら全然。というか、結構筋肉ありますよね」
いやいや、と手を左右にぶんぶん振る明澄は、庵の腕に手を伸ばしてきた。
細ましい指先に掴まれ、その肉質を確かめるようにぎゅっぎゅっと遊ばれ、それから無言で楽しまれる。
そうは見えないのだが意外と筋肉がお好きなのだろうか、と庵は新しい発見だった。
「ちょ、擽ったい」
「まぁまぁ良いではないですか」
「おい。やめてくれ。恥ずかしい。それともそんなに筋肉が好きなら上脱ごうか」
「えっ、いやだめです。それはだめです。何言ってるんですか!」
人の身体をぺたぺたと触る癖に服の下は目にも出来ないらしく庵が体操服の裾を掴むと、赤い顔の明澄に素早く手を抑えられる。
触られるのは嫌ではないがだんだん人の目も集め始めていたたまれなくなってきたのだ。
周りはもう「あいつ、なんて羨ましい」「ヤバい始まった……!」とざわついてる。
「こらー。お前らー不純異性交遊するなよー。家でやれー」
「……、せ、先生! 違いますっ。私はちゃんと家でするつもりで、庵くんが……!」
おまけに騒がしい生徒に混じって、通りすがった担任教師から茶化し気味に注意される始末だ。
真っ赤になって抗議する明澄は焦ってとんでもない事をバラしていた。
その後、男子から激詰めされたのは言うまでもない。
気付いたら全然サッカーしてなかった。
ごめんなさい。次はちゃんと球技大会します。
庵くんが活躍しますので、許してください。





