良い家族を持ちました。
「フローレンス様!?目を覚まされたのですね!」
私が決意を新たにしていると、メイドのサラがいつの間にか扉の前に立っていました。さて、記憶がないふりを始めましょう。
…と思ったのですが、サラはそのまま回れ右して走っていってしまいました。いつもの冷静な彼女からは、全く想像できません。
「───旦那様、奥様、シエル様!!フローレンス様が!」
サラのそんな大声が遠くから聞こえ、少しするとバタバタと足音が聞こえてきます。
何かしら…、と思っていると、お父様たちが必死の形相で部屋に駆け込んできていました。
「フローラ!大丈夫か!?」
「もう頭は痛くないかしら?」
「目が覚めて良かった…!」
「え!?あ、あの…」
(…三人とも必死すぎて、顔が怖いです)
少し心苦しいですが、さっそく記憶喪失のふりです。
「あの、私は大丈夫、ですが…。すみません、どちら様でしょうか?」
私がそう口にした瞬間、三人の顔が強張りました。まるで氷漬けにされたかのようです。
(…やっぱり言わなければ良かったでしょうか)
ですが、もう後には引けません。
「お前の父と母、それに兄だよ。…本当に覚えていないのかい?」
「ご、ごめんなさい…。自分のことはわかるのですが」
お父様たちの顔を見れずに俯いていると、ふと温もりを感じました。お母様とお兄様が、私のことを抱きしめて下さっていたのです。
「謝らなくて良いのよ。大丈夫だから」
「記憶が無くても、フローラは僕の大切な妹だ」
一瞬、涙が溢れそうになりました。
私はただの我儘で、こんな嘘を吐いているのに。そんな私を大切だと言ってくれる家族がいるなんて。
「…私は良い家族を持ちました」
気付けば自然と微笑んで、そう呟いていました。罪悪感は無くならないけれど、今だけは嬉しさでいっぱいだったのです。
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