第9話
教室では席が隣で、何度も教科書を貸し借りしている。そうすると、必然的に会話をする時間も増える。自然と私たちはお互いにとって最も話しやすい存在となった─というのは、あくまで私の望んでいる想像に過ぎない。一季が他のクラスメイトと話している場面を、私はほとんど見たことがないからだ。
そしてそれは同時に、一季もこの学校で私と同じように孤立していたことを意味している。
一季と関わるようになってから、徐々に私に対するいじめは止んだ。かといって、クラスに溶け込むようなことにもならなかった。─もちろん、そもそもそんな状況を私は望んでいなかったけれど。
私はあの子をいじめていました。私はあの子にいじめられていました。けれど、やがてお互いに手を取り合って仲良しになりました、なんていう経緯はけっして美談にはなり得なくて、もしそんなものがあったとしても不気味なだけだ。
どうやらひとりでいることとふたりでいることには、いじめる側からすれば大きな差があるらしい。個人であるか、集団であるか。どちらがより攻撃しやすいかというと、無論、前者だろう。
では、なぜ一季は孤立しているのか。
私は考えた。─嫌われている私と親密になってしまったことで、彼も嫌われるようになってしまったのではないか。真相は分からないけれど、それがもっとも私の中で腑に落ちる答えだった。
確かに、いじめが止まることは間違いなく私の望んでいたことだ。その望みは、彼と関わるようになってからいつの間にか叶っていた。
けれど、それに一季が巻き込まれることを私は望んでいなかった。
彼と一緒にいることで、私が攻撃されることはなくなっているのなら。そして、もしも私ひとりだけがまた孤立する代わりに、一季がクラスに溶け込めるのだとしたら。私はどちらを選ぶのだろう。
そんな意味のない選択肢を想像しただけで、少しずつ心を抉られていくような気分になる。
朝、教室で顔を合わせる度に。授業中、鉛筆を持っている彼の指が、私の視界に入る度に。授業が終わって、色々な話をしながら途中まで一緒に帰る度に。
彼がどう思っているのかを知りたかった。それを知るためには、たった一つの質問を投げかけるだけでいい。
私のこと、恨んでる?
そのことを聞くのは、怖い。それでも、いつか聞かなければいけないと思ったのだ。