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16/21

#16 顛末

 あの追撃戦から、5日が経った。

 クヌートを中心として逮捕、捕縛した者達への尋問が行われ、真実が次々と明らかになる。


 まずは、王都で起きた一連の事件、農場放火未遂やモンフォルニュ公お屋敷倒壊、電撃幽霊事件についてだ。結論から言えば、あれは全てクヌートが仕掛けた事件だった。

 農場のセキュリティシステムは、ベルリネッタ損保が受注した。どうして保険会社がセキュリティに関わるのかと思ったのだが、ここは保険以外にもそういう事業を手掛けているらしい。また、自身のシステムを導入した相手には、保険代を割り引くというサービスもやっている。それほどまでに、自前のシステムに自信を持っている。

 だが、その施工をあのクヌートという男一人に任せてしまった。農場建設時に入り込み、この会社が受注した範囲を都合よく作り変え、しかも正常に動作しているかのように振る舞う仕掛けまで施した。恐ろしい奴だ。

 同様に、貴族街のあの幽霊騒ぎのあった街灯や、軍病院の防犯カメラなども、クヌートが手掛けていたことも判明している。他にもクヌートが関わったセキュリティシステムは、20にも及ぶ。それは、クヌートの雇い元だったベルリネッタ損保が今、洗い出しているところだ。


 モンフォルニュ公のお屋敷の見張り塔倒壊は、共鳴装置を用いた破壊だった。土台の2つの石を予め共鳴装置で粉々にしておく。その真上の塔を人が歩くと、その振動で石が崩壊し、塔が一気に崩れるというものだ。もちろんこれも、クヌートがモンフォルニュ公の屋敷に忍び込み行ったことだ。

 実はその日、クヌートは保険の勧誘でモンフォルニュ公の屋敷を訪れている。だがその日は当主のヴェルテラード様は不在で、奴は手ぶらで帰ったはずだった。だがその時、あの塔の下に忍び込み、石を破壊して去った。

 調べてみると、同じく勧誘に訪れたオルヴァーニュ公の屋敷にも、怪しい仕掛けが施されていることが判明する。中庭に入る手前の別邸の一つに、小型の爆薬が仕込まれていた。使われる機会がなかったからよかったものの、これもオルヴァーニュ公の屋敷に出向き、保険の勧誘を行った際の帰りに仕掛けたようだ。なんて奴だ。


 驚いたことに、連盟軍の艦艇を招き入れたのもクヌートの仕業だという。どうやら外惑星系において連盟艦艇と接触し、監視の薄い航路を連盟に漏らした疑いがある。これは、連盟軍の捕虜の証言から明らかになった。だが、クヌートはこの点は否定している。しかし、海賊船の他の船員の証言や連盟軍の兵士の話などをまとめると、クヌートが手引きしたことは間違い無いというのが司令部の見解だ。


 鉱山崩落事故は、確かに連盟軍の仕業だった。しかし、あれを手引きしたのもまたクヌート。もちろん、本人は否定しているが、これもその他大勢の証言から……いや、それ以前に、よくまあ、あの場に調査員としてのうのうと現れたものだ。僕は正直、呆れ果てる。


 そして最後のあの橋の下の出来事だ。あれは橋の崩落事故を起こすため、爆薬を仕込んでいたのだという。

 その話だけでも呆れ果てるが、さらに驚いたのが、あの脱走したとされる4人の連盟兵の行方だ。

 4人はその橋の下で、遺体で発見された。もちろん、殺したのはクヌートだ。

 4人を脱走させたのちに、あの橋の下まで連れてこられ、その場で頭を銃で撃たれた。そしてそのまま4人を、橋の下に隠す。

 で、橋を爆破しようとしたわけだが、その橋の爆破を4人の犯行に見せかけようとしたようだ。脱走した連盟兵が橋を爆破して逃亡を図るが、その爆破に巻き込まれて4人とも命を失った……というのが、クヌートの描いたシナリオだ。

 たったそれだけのために、哀れ4人の連盟軍捕虜は殺されたというわけだ。要するにクヌートは、この一連の騒ぎをすべて連盟兵の仕業にしようと企んでいた節がある。


 で、ここからが肝心なことなのだが。


 どうしてクヌートは、王都周辺でこれだけの事件を引き起こしたのか?


 本人は決して動機について口を割らない。だが、我々には脳波読み取りによる脳内に隠れた本人の意思を読み取る技術がある。それを使って探った結果、呆れた話が飛び出した。


 クヌートは海賊だ。だが彼は海賊から足を洗い、堅気の仕事に専念しようと考えていたようだ。

 そこで保険会社に入り、この発見されたばかりの惑星にやってきて、保険の勧誘を始める。海賊の頭領をやれるほどの人物だから、営業能力も技術力も優秀だったらしく、保険会社の中ではかなり期待された人物だったようだ。

 だが、この星のこの王国に派遣されて、彼は大きな壁に直面する。

 ここ、エスタード王国の人々は、保険というものを知らない。特に貴族は「保険」に対し無知であるばかりか、嫌悪感すら抱く。


 これはオルヴァーニュ公ヴェルナール様もそうだが、この王国の人々、特に貴族は、不吉なことを口にすると、その通りの不吉なことが起こると信じている節がある。いわゆる言霊信仰の一種だが、だから保険などという有事を想定したサービスは、それ自身が有事を招き入れることになりかねないと彼らは考える。だから、なかなか保険の勧誘が進まない。


 そこでクヌートが考えたのは、実際に事件を起こし、貴族の考えを改めさせてやろうというものだった。そのためになんと海賊仲間や連盟軍まで使って、この一連の事件を起こした。そして彼のその短絡的で大胆な思惑のために、王都では1人が、連盟軍兵士が14人も亡くなった。


「ほ、本当ですか、その話は……」

「ああ、そう口にしていたという海賊の一味の証言もあるくらいだ。どうやら、本当らしい」


 この話を捜査官から聞いた時は、僕はとても信じられなかった。それはそうだろう。海賊から足を洗うために、海賊を利用する。保険の勧誘で大きな成果を出すために人を殺す。目的と手段が、めちゃくちゃだ。どう考えたって、まともな発想ではない。

 しかしこういう発想の男だから、海賊などというものをやっていたのかもしれない。一見、表向きは紳士な感じの男だったが、中身はとんでもない奴だと言うことが今回、よく分かった。


 ところで、あの海賊船に突入した時に、クヌートが口に入れていたあの最後の仕掛けだが、あれは海賊船の自爆装置のスイッチだと分かった。

 どうせ極刑は免れないから、仲間共々道連れに……クヌートのことだ、そう考えてのことだろうな。もし僕があそこで彼を殴らなかったら、僕と8人の突入隊の命はなかった。


 こうして、一連の事件の謎は解明した。


 だが、僕の心は晴れない。


 あれから5日経ち、毎晩、僕はあの交差点に出向く。しかし……あれからアーダは、現れないのだ。

 そろそろ僕も、諦めた方が良さそうだ。アーダはあの時、天に召されたのだと。僕の命と引き換えに。

 だけど、今夜もう一度、行ってみよう。何事もなかったかのように、アーダがひょいと現れるかもしれない。僕がいなかったら、彼女一人で寂しい思いをすることになる。だから、もう一度だけ……この5日間毎日、そう考えながらあの交差点に立っている。


 そんな僕は今、オーヴァルニュ公のお屋敷に来ている。


「……そうか。そうであったか……」


 この一連の騒ぎの真相を、僕はヴェルナール様に報告し終えたところだ。一通り話を聞いて、腕を組み目を閉じて考え込むヴェルナール様。

 元々この方は、我々宇宙からやってきた者達が気に食わないようだ。だからこの話を報告すれば、さらにこじらせるであろうことは容易に想像がつく。


「まったく、なんという奴じゃ。これだから星の国より来た連中は信用ならぬ!挙句に平民にまで便利な道具をばら撒き、人の精神を堕落させておるのではないか!まったく、この先も思いやられるわい!だからわしは……」


 ああ、始まってしまった。できればこの話を、この方にはしたくなかった。かといって黙っているわけにもいかず、誰かが宰相閣下にご報告せねばならない。司令部も当然、この件は頭を悩ませたことだろうが、ヴェルナール様のところにしょっちゅう出入りしている僕に、この件を押し付けた。

 そういうわけで今、僕は、軍務として宰相閣下の小言に耐えているところだ。


「……しかし、そなたも妙な奴じゃの」

「は、はあ……」


 しばらく小言が続いた後、今度はこちらに批判の矛先が向けられ始めたようだ。だけど、まだ続くのか、この老人の話は。ただでさえアーダに会えなくて意気消沈していると言うのに、この上この老人からネチネチ責められては、僕の精神が崩壊しそうだ。


「それこそ、その海賊とやらが企んでおったように、そなたはわしに『連盟軍の仕業です』と報告すれば良かったのではあるまいか?何を馬鹿正直に、わしに報告しとるんじゃ、そなたは。それこそそんな話をすれば、わしがそなたらをますます信じなくなるだけだということくらい、考えなかったのか?」


 それを聞いた僕は、こう応える。


「いえ、我々はいかに自身に不利な事実であろうとも、必ず真実をお伝えいたします!それが我々の矜恃であり、依って立つところなのでございます!」


 思わずムキになってしまった。だが、我々に向かって嘘をついた方が良かったなどと、とんでもないことをおっしゃる。その件に関しては、いかに怒られ、怒鳴られようとも、僕にはとてもそんな振る舞いはできないし、したくもない。そんなことをすれば、アーダを消してしまった、あの海賊と同じになってしまう……

 するとヴェルナール様は、僕にこんなことを言い出す。


「そうか。そうであるか。やはりそなたは、わしが見込んだ通りの男であったな」

「は?」


 また会話の流れが変わったぞ。何を言い出すのかと思えば、僕を見込んでいただって?どうしちゃったんだ、この公爵様は。


「あ、あの、それはどういう……」

「どうもこうも、言葉通りじゃよ。そなたはわしが見込んだ通り、馬鹿正直で信頼できる男じゃと申しておる」

「は、はあ……そりゃどうも……」


 てっきり、批判の嵐が飛び出すのかと思って覚悟していたが、想定とはまるで逆の反応だ。拍子抜けしたと言うか、かえって居心地が悪いと言うか。

 そもそも僕は、この公爵様に褒められたことがない。毎度毎度、来るたびに何か文句を言われ続けた。それがこの大事件を受けてほめるなど、気味が悪いったらありゃしない。

 いや……これはあれだ。何か企んでいる。あのクヌートという男を相手にしてからというもの、人の思惑というものに妙に敏感になった。第六感という奴だろうか?僕のその第六感が、ビンビンと音を立てて反応している。


「なあ、ラウル殿よ。そなた、このままこの王国に、骨を埋める覚悟はないか?」

「えっ!?お、王国に、ですか?それは一体、どういう意味でございます?」

「つまりじゃ、この王国にずっと住むつもりはないかと聞いておる!」

「は、はあ……派遣された時から、元よりその覚悟ではございますが……」


 妙なことを言い出したな、この公爵様は。まさか僕に、この屋敷の門番にでもなれというのではあるまいな。僕は身構える。


「そうか、ならばそなたには、わしの補佐役になってもらいたい!」

「は?補佐役ですか?」

「そうじゃよ。王国宰相の補佐役じゃぞ、名誉なことじゃろうが」

「は、はい。ですが僕……いや、小官は遠征艦隊所属の軍人でありまして……」

「別に軍人をやめよとは申しておらぬ。今の身分のまま、わしのご意見番をせよというのじゃ」

「はあ、そういうことでしたら……」


 妙な話になってきたな。何か嫌な臭いしかしないが、僕はありのまま、正直に答え続ける。するとこの宰相閣下は続けて、こんなことを言い出す。


「知っての通り、わしはそなたらが宇宙からもたらす新しいものが大嫌いではある。じゃが、この王国の将来、いやこの星の将来を思えば、そんなことばかりも言ってられぬであろう。それゆえにわしは、そなたらがもたらすものについて、わしに正確に公平に意見できる者を探しておるのじゃよ。で、ラウル殿、そなたが適任じゃと考えた」


 なんだ、意外と深く考えているんだな、この公爵様は。好き嫌いだけで言いたい放題な宰相閣下だとばかり思っていたが、確かにこの国の将来を思えば、それは当然の措置だろう。


「そういうわけで、そなたにはいろいろと頼むこともあろうかと思うが、もちろん、ただでとは言わぬぞ」

「いえ、あの、お気持ちは嬉しいのですが、私はすでに軍から給料をいただいている身です。この上に金品を受け取ることは、職業的に……」

「誰が金をやるなどと申したか。そうではない、そなたにはわしの外戚になってもらうのじゃよ」

「は?外戚……?」

「うむ。そこでじゃ、わしの5番目の娘を、そなたにやろう」


 ヴェルナール様から、本日最大級の爆弾発言が飛び出す。


「……ええーっ!?む、娘って……」

「なんじゃ、不服か?公爵家の娘じゃぞ?」

「い、いえ、不服などとは……ですが、あまりに光栄すぎて、その……」

「実はな、すでに娘とも話はついておる。早速、顔合わせといこうかの?」


 おい、このじじい、とんでもないことを提案しやがったぞ。娘をやるだって?ちょっと待て、てことは僕は、このトンデモじじいの義理の息子になるってこと?

 何重もの目眩の波が、押し寄せては引いていく。いかに正気を保とうとしても、この「義理の息子」というパワーワードが脳裏を過ぎるたびに、僕の意識がこの身体を離れようと抗うのだ。

 そんな僕の動揺をよそに、このじじい……いや、ヴェルナール様は、鈴を振って叫ぶ。


「ヒルデガルドよ!参れ!」


 その声に呼応して、この応接間の扉をノックする音が響く。そしてゆっくりと、扉が開く。


「ただいま参りました、お父様。ヒルデガルドでございます」

「おお、来たか。こやつがわしが話しておった、ラウル少尉じゃよ」


 なんて清らかな声だろうか。僕のすぐ後ろには、貴族令嬢が立っているのだ。そもそも女性との付き合い経験のない僕にとっては、貴族のお嬢様など、雲の上の存在だ。

 いや、そういえば今まで、アーダという貴族令嬢の幽霊を相手にしていた。だがこっちは、現世を生きる生身の令嬢だ。そしてその令嬢と、まさに今、僕は、婚姻関係を結ばされようとしている。

 僕は、そっと後ろを振り向く。赤いスカートの裾が見える。その人物は、赤いドレスを身に纏っているのが分かる。

 そして僕の目は、その人物の姿を捉えた。


 僕の後ろの扉から、現れた人物。


 赤い服をまとったその人物の姿に、僕は言葉を失った……


 赤いドレスこそ着ているという違いはあるが、銀色の髪の毛、端麗な顔つき、妖艶な姿。それはまさに「アーダ」そのものだったのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 動機がえらく俗っぽい( ^ω^ ) 堅気になるのって難しいのですね、だからと言って人を死なせたらまずいですよ。 [気になる点] たった一人で連合と連盟を手のひらの上で転がしたのだから、クヌ…
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