3話 あっという間の2年間
メーテルの授業はドンドン厳しくなっていった
そもそも、彼女の予定では……
1年で一般教養を終わらせる
残りの1年で魔法と軍事教養を徹底的に叩き込む
つもりだったらしい……
しかし、彼女にとって予定外の事に、俺は前世の記憶がある
一般教養は前世の世界と大して変わりはなかった……まあ、貴族用のマナーとかは教わったが……
算術とか一般的なマナーはアッサリと終わってしまった
終わらせて……しまった
「ふむ、一般教養はこれくらいで充分ですね」
彼女がやって来て、1ヶ月の出来事だ
「算術も予定よりも教える事が出来ましたし、まるで最初から知ってるようで……教える方としては楽でしたよ」
そう言って微笑むメーテル
これで、少しは自由な時間が出来るはず……
そう期待した俺が馬鹿だった……
「では、一般教養はここまでにして、これからは軍事教養と魔術教養のみでいきましょう♪ これならCランクの魔法も覚えさせられそうですね」
彼女の微笑みが……とても、怖かった……
・・・・・・・
半年後
「魔法使いでも体力は重要ですよ! ほら走る走る」
「んな無茶苦茶なぁぁぁぁぁ!!」
山の中を狼に追いかけられながら走らされる俺
ついでにキュルンも俺の隣を並走している……
多分、狼に襲われた時に俺を護るために走ってるんだろうな
そんな俺達をメーテルは小さな竜巻に乗って、空を飛びながら眺めていた
・・・・・・・・
更に半年後
「では、魔法の基礎属性を全て答えてください、はい、お坊ちゃん」
「っく! 火・水・風・土!」
「はい良くできました、次は複合属性を……キュルン」
「はい! 氷・雷・木・雲!」
「よろしい、では二極属性を同時に!」
『光・闇!!』
「正解♪」
俺とキュルンは逆さに吊られた状態から解放される
キュルンは俺が危ない目にあった時に、咄嗟に魔法で助けたところをメーテルに見られた(俺の手間が省けた
それから、俺のゴリ押しとメーテルの説得でキュルンもメーテルの授業を受けれる事になった
これでキュルンも俺の護衛としてキャンダリオンに入学決定だ
やったぜ!
「さてと……お坊ちゃんは水と風がDランクまで使えましたね?」
「はい!」
魔法には属性がある
さっき言った『火』『水』『風』『土』が基礎属性
基本的な魔法の属性となる
そして、その基礎属性を組み合わせたのが複合属性
例えば『火』と『水』で『氷』
『水』と『風』で『雷』って感じだ
この世界では基本的に、自分の得意な基礎属性を伸ばして、将来に繋げるのが一般的だ
俺は水と風が比較的得意だった
だからこのまま雷の魔法も習得していくつもりだ
そしてキュルンはというと……
「キュルンの方はそろそろCランクに挑戦してみる?」
「よ、よろしいんですか?」
全ての属性をDランクまで習得していた
いやー、ここまで才能があるとは……
ゲームだと入学した時はオールEから始まるからビックリだな
「……」
チラリとキュルンは俺を見る
申し訳なさそうな表情だ
「キュルン、俺の事は気にするな、ドンドン先に進んでくれ、んで俺にまた教えてくれ」
「は、はい!!」
っと、こんな感じで時間が経っていった
・・・・・・
家庭教師が始まってから2年後
俺とキュルンは12歳になっていた
2ヶ月後にはキャンダリオンへ入学する
そんな俺とキュルンは……
「フレア!」
「コールドレイン!」
中庭で俺の出した巨大な炎をキュルンが雨を降らせて消火した
「はい、お坊ちゃんは火のCランク、キュルンは水と氷のCランクの複合魔法……完璧に習得出来ましたね」
メーテルが嬉しそうに拍手する
これは俺とキュルンのメーテルへの卒業試験だった
結果は合格だ
「お坊ちゃんはよくぞ苦手な分野の魔法を習得しました」
そう言ってメーテルは俺の頭を撫でる
「キュルンも、複雑な複合魔法をよく習得しました」
「~~っ」
キュルンは照れくさそうに撫でられる
「これだけ出来たらキャンダリオンで苦労することは無いでしょう……貴方達なら在学中にB……いえ、Aランクの魔法を習得するかもしれませんね」
「メーテルの教え方が良かったからだよ」
俺は言う
最初こそスパルタだと思っていたが……今ならどれだけ効率が良い教え方だったのか理解できる
「そうですよ! 本当に……僕まで教えてもらって……ありがとうございました!!」
頭を下げるキュルン
俺も頭を下げる
「…………全く、泣かせてくれますね」
そう言ってメーテルは目元を覆った
「さて、これで私の家庭教師としての仕事は終わりです、まあパリンお嬢様の家庭教師があるから、もう1年はここに居るわけですが」
「パリンの方はどんな感じなんで?」
俺は聞く
「才能は君よりもありますよ」
ニッコリと答えるメーテル
そーですか……
・・・・・・・・・・
夜
パルス達が寝入った頃
「以上が、2人の成果となります」
メーテルはレッドにパルス達の結果を伝える
「12歳でCランクを習得出来るとは……ありがとうございます」
レッドはメーテルに頭を下げる
「流石、賢者様ですね」
「私は大したことはしてませんよ、坊っちゃん達の努力の成果です」
そう、パルス達は知らなかったが
メーテルはこの世に3人しかいないSランクの魔法を使える『賢者』の1人であった
そんなメーテルがパルスの家庭教師をする事になった理由は、国王が手を回したからである
パルスは将来マリアンと結ばれる
それなら魔法を賢者から教わるべきだと考えたのだ
そんな訳で、国王は親しくしていたメーテルに頼み、メーテルは承諾した
それが彼女が家庭教師に来た理由だった
「メーテル様から見て、パルスはどうでしたか?」
レッドはメーテルにパルスの評価を聞く
「そうですね……キュルンの方は凄まじい才能を感じましたね……珍しいですよ? 光と闇……両方に適正がある人間なんて」
光と闇の二極属性
これは完全に才能で使えるかどうかが決まる
片方だけでも珍しいのに、キュルンは両方使えたのだ
「その報告は私も驚きました……まさかあの子にそこまでの才能があるとは……」
レッドは顎に手をやり、考える
「キュルンはこれからの生き方次第では……私と同じ、賢者になれるかもしれませんね」
そう言ってメーテルは紅茶を飲む
「さて、坊っちゃん……パルス様の方ですが……ハッキリ言って魔法の才能はありません、今まで見た子達の中で最低クラスですね」
「……」
そう言われたらムッとくるのが親である
もっと言い方があるだろうとレッドが口を開こうとしたら
「しかし、努力は認めましょう……あの子は努力で苦手な火の魔法のCランクを習得しました……ある意味、そういう子の方が……人を惹き付けたりするんですよね……」
「…………」
「レッド様、安心してください、パルス様は立派な後継ぎになられますよ」
メーテルはそう断言した
そして紅茶を飲み干し……
「では、私はそろそろ休ませてもらいます」
メーテルは部屋を出ていった
廊下を歩きながら、彼女は思うのだった
今期のキャンダリオンは騒がしいだろうなっと