1話 主人公との出会い
オッス! オラ高宮!
…………改めて『パルス』
どうやらそれが今の俺の名前らしい
意識は有るけど、身体はあまり動かない……いや、動きが鈍い
これは俺が赤ん坊だからだと、小さな手を見て理解した
美人な女性は母親
ダンディーなおっさんは父親の様だ
……なんか見覚えがあるような
てかパルスって……いやいや、まさかな?
取り敢えず状況を整理しよう
俺は今は赤ん坊だ
そして目が開いた……赤ん坊が目を開くのは個人差があるが……平均的に2週間から1ヶ月の間と聞いたことがある
つまり生後2週間以上は経っている
これは……あれだな、うん
転生ってやつか?
生命は死んだら、転生して来世を迎えるとか何とか言ってたしな
いや~正直信じてなかったけど……来世とかあるんだな
普通前世の記憶とか無くなるもんだと思うがな
だってそうじゃないと前世の高宮幸一の時にも前々世の記憶がある事になるからな
つまり今の俺の状態はイレギュラーって事だ
「あら? パルス? 飲まないの?」
お母様……乳首を口に押し込むのやめてください
普通の赤ん坊なら吸うんだろうけど……
前世の記憶がある分……なんかキツイ
イメージ的にキツイ
身体は赤ん坊でも中身は青年だぞ?
青年がバブバブ言いながら授乳とか……羞恥プレイにも程がある
ぐぅぅぅぅぅ
お腹が鳴る……
「ほらパルスちゃん、お腹空いてるでしょ?」
「…………」
吸いたくない……
でも吸わないとどうなるかわからない……
・・・・・・・・・
「けぷっ」
「はい、ゲップ出来ましたねぇ」
もうやだ死にたい……
いや死なないために吸ったんだけど……
気分的には死にたい……
前世の記憶があるとこういうのが辛いんだな……
早く……早く成長して離乳食になってくれ!!
ずっとこんな目にあうのは嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!
・・・・・・・・
なんて苦しんでた時もありましたねハイ
もうね、慣れって怖いよね
3日くらい経つ頃には何も思わなくなったよ……
いや、諦めてたな……うん
「パルス様! おめでとうございます!!」
そんな俺も漸く5歳になれた
そして今、祝いの言葉を言ってきたのは雇われてるメイドだ
そう、家は裕福な家庭だった……てか貴族だった
……てか大公だった
『レーガルン家』それが家の家名だ
つまり俺はパルス・レーガルンになる
その名前を知って、今の俺の顔を鏡で見て
漸く俺はこの世界があの『おと魔女』の世界だと理解した
だってパルス・レーガルンって主人公の親友キャラだもん!!
Q パルス・レーガルンってどんなキャラ?
A 一言で言うならお人好し
ギャルゲーやエロゲーでよくある、主人公にヒロインの好感度や情報を教えてくれるキャラだ
それだけじゃなくて、ヒロインルートでも主人公を様々な方法で手助けしている
例えば、暗殺者に主人公が襲われた時は一緒に戦って捕らえたり
ヒロインの1人が不治の病で死ぬ事が判明した時も、絶望している主人公に喝を入れて奮い起たせて、一緒に病を治す方法を見つけたり
あと、ヒロインの1人が元々はパルスの婚約者なんだが、結果的に主人公が寝取る形になっても普通に祝福したりな
そんなキャラだ
見た目は……中の下か下の上くらいか?
まあ不細工だな……
両親は美形なのに……奇跡……いや、悲劇的に悪いところを組み合わせた感じになってしまった
まあ、それでも性格は明るいし、お人好しだからか友人は主人公を含めて多いし
主人公が婚約者以外と結ばれたら、婚約者と結婚してるし
婚約者が主人公と結ばれても、別の女性と運命的出会いがあって結ばれてるから……独身はない!!
それが救いか……
そんなこんなで俺……パルスは5歳になったのだ
「パルス! 出掛けるよ!」
父親……『レッド・レーガルン』が呼ぶ
「はい! 父上!!」
そして今日は運命の日でもある
俺は屋敷の外に出て、レッドの手を借りて馬車に乗る
これから俺の誕生日プレゼントを買いに行く……
5歳の誕生日プレゼント……それは主人公である『キュルン』との出会いである
専属の使用人としてキュルンが買われるのだ
先ずはここだな、何もしなくてもキュルンを買うと思うが……何が起こるかわからないからな
確実にキュルンを買わないと……そして彼の青春をサポートしなくては!!
そんな訳で奴隷市場に到着した
奴隷市場と言ったが、人手の斡旋場でもある
普通に仕事を求めてる人が登録してたりもするのだ
レッドはその登録された人から
1、歳が俺と近くて
2、住み込みで働けて
3、生涯使えてくれる
そんな人を買うつもりで来ている
つまり奴隷を買うつもりは元々は無いのである
それがなんだかんだあってキュルンを買うことになった
さて、そんな訳でレッドは受付に話をして、なんか責任者と話をしている
流石、大公ともなると特別扱いだな……
なんかVIPルームみたいな所に通された
そこでレッドと責任者が詳しく話をしている
俺は訳がわからない振りをして、部屋を見回しながら聞き耳をたてる
「その条件でしたら数人ほど該当する者がいますね……エルフとかどうですか? 長生きですからお坊ちゃんの孫くらいの世代まで働くと思いますよ」
「エルフかぁ……それもいいが、私としてはパルスが学園に入学した時に側に居られる人が良いんだが」
「護衛もするんですか? それならドワーフやビーストなども……」
エルフやドワーフなど、ファンタジーにはあるあるな単語が聞こえた
それはそれで気になるが……俺の目的はキュルンだ
さて、どうやって出会うか……いきなりキュルンを出せと言うのは不自然すぎる
「パルス、男性と女性、どっちがいい?」
「えっ? 友達でしょ? 男がいい!」
「成る程ね、男性なら何人くらい居る?」
レッドは責任者との話に戻る
「…………」
あまり時間は無さそうだな……んっ?
窓から外を見ると、大柄な男が縄で手を縛った奴隷を数人連れていた
商品を運んでる感じだな……
「!?」
って! あれは!
俺は窓を開けて身を乗り出す
間違いない、連れられてる奴隷の中に居た
キュルンだ! 髪がボサボサで薄汚れているが……何度もCGで見たあの顔は間違いない!!
「おっと!! どうしたんだいパルス?」
レッドが俺を支える
窓から落ちると思ったのだろう
「父上! あれ!!」
「あれ? ああ、奴隷かい? 今回は使用人を雇うから関係ないよ」
レッドはそう言って俺を窓から離す
不味いな、このままだとキュルンが買えない……
「父上! あの子がいい!」
ここは無理矢理だが……子供の特権……我が儘を使わせてもらおう!
「あの子? どの子かはわからないけど……奴隷じゃなくてちゃんとした人を雇えば良いじゃないか」
レッドは乗り気じゃない
「あの子がいい!!」
「うーん、そう言われてもねぇ……あの奴隷はこれからどうするんだい?」
レッドが責任者に聞く
「あれはこれから他の市場に輸送しますね、気になるなら見ていきます?」
「見る!!」
俺は元気よく答える
「らしいから、ちょっと輸送を止めてもらっていいかな?」
「ええ、お任せを」
そう言うと責任者は外に出ていった
そして、少ししてから3人の奴隷を連れてきた
「お坊ちゃんが興味を持った奴隷はどいつで? この中に居ると思うんですが……」
居る、並んだ3人のうち、俺から見て左端にキュルンが居た
「あの子!」
俺はキュルンを指差す
他人に指差すのは失礼だが……子供らしい振る舞いだとこうだろ?
「ふむ……」
レッドはキュルンを見る
「かなり痩せてるね……体質かい? それとも管理状況でこうなったのかい?」
「まあ、売れない奴隷でしたから……」
「ならちゃんと食事を与えたらマシになるか……」
そう言いながらレッドは他の2人も見る
「おや? 3人とも女の子なのかい?」
「いえ、こいつは男ですね」
責任者はキュルンだけは男性だと伝える
「ふむ……メイドとして雇うのもアリか?」
お、レッドも興味を持ち出した
「この子達は読み書きは出来るのかい?」
「3人とも奴隷の子供なので……」
「教える必要があるか……」
そんな風に話し合う2人を横目に、俺はキュルンの前に立つ
「君、名前は?」
「…………?」
首を傾げるキュルン……言葉を理解してない?
他の2人の奴隷も同じように首を傾げている
まあ、言葉がわからないなら、これから教えればいいのだが……
「それなら3人セットでこの御値段でどうですか?」
「随分と破格だね?」
「売れ残るよりはマシですからね」
「よし! なら買おう!」
お、どうやら決まったようだ
「パルス、この3人を君の使用人として買うよ……それでいいかい?」
最終確認
キュルンだけで良かったが……まあいい
「うん!!」
俺は頷く
「よし! じゃあ私とパルスは少し街を見てくるから」
「はい、準備はお任せを」
そう言うと責任者は人を呼び、キュルン達に入浴させる様に伝える
どうやら身体を洗うようだ……まあ汚れたまま引き渡す訳にはいかないよな
こうして、キュルンと更に2人の奴隷が俺の使用人として買われた
レッドは俺と街を見る時に、3人の服を買った
戻った時にレッドは3人に服を与えて着させた……そして馬車に乗って帰るのだった