妹のおっぱいは柔らかかった
妹の――梢のおっぱいは、柔らかかった。
なんて書くと過去形みたいだけれど、実際はバリバリの現在進行中だったりする。
「お兄ちゃん、ちょ、ちょっと。手、動かさないでよ。変なところに当たってるから~っ」
「動かしてないって! 俺の手じゃなくて、梢が動いているからっ」
「うー。そうかもしれないけど……」
バスタオル越しに梢のおっぱいの感触を感じつつ、俺はため息をついた。
話は少し前にさかのぼる。
☆☆☆
両親が不在の日曜日の昼下がり。
「はぁ。さっぱりしたー」
そんな声とともに、梢がキッチンへと姿を見せた。
シャワーを浴びて出てきた直後なのか、バスタオル一枚を巻いただけのだらしない格好だった。
もっともそれは、見慣れた光景なので特にどうも思わない。妹だし。
だがCかDカップだったはずの、バスタオルの下のおっぱいが全く気にならないかといったら嘘になる。
梢の付属品なので、おっぱいを目で見たいとは思わないが、これまで触れたことのない未知なる感触は、確かめたい気持ちもある。
そんな俺の視線を気にすることなく、梢はマイペースに冷蔵庫まで行き、麦茶が入った瓶を取り出し、隣の食器置き場からコップを手に取って、麦茶を注いでいる。
これ以上梢を見ていたら変に思われるかもしれないので、俺は視線をリビングのテレビへと移した。ちょうどやっているクイズ番組で珍回答が出ていて、思わず笑ってしまった。
「あ、何なに? ん、どうしたの?」
俺の笑い声を聞いた梢が、気になったのか両手に麦茶の瓶とコップを持ったまま、リビングへとやってきた。
だが、どこでどうなったのか。
梢がリビングに足を踏み入れたその瞬間、胸元を押さえていたタオルが緩み、はだけてずり落ちそうになったのだ。
梢もそれに気づいた様子だが、両手は麦茶の瓶とコップで埋まっており、手で押さえることはできない。
そんな状態で、慌てて俺に声をかけてくる。
「わ、あ、落ちるっ。お兄ちゃん、ヘルプ!」
「危ないっ」
だから俺は迷わず手を伸ばし、梢の胸元からずれ落ちそうなタオルを手で押さえた。
ぷにっとした感触が、俺の手のひらに伝わった。
「ちょ、ちょっと! お兄ちゃんっ、おっぱい触ってるぅぅー」
「やかましっ。耳元で騒ぐな。不可抗力だって。助けを求められたからとっさに行動したまでだ。そもそも触らずにどうやってタオルを抑えるんだ?」
「えっと……その。タオルじゃなくて、両手の麦茶とコップをどうにかしてほしかったんだけど」
「あ」
――そういうこと、ね。
そして俺たちは間抜けな態勢のまま、動くに動けない状態になってしまったのだった。
この膠着状態から脱するのは簡単だ。俺がタオルを押さえる手を離せばよい。それだけだ。
ただそうするとタオルがずり落ちてしまう。その結果待ち受けているのは、梢も俺も望んでいない光景である。
俺が手を放す前に梢が手でタオルを押さえてくれれば良いのだが、彼女の両手は麦茶ズで埋まっている。それら麦茶を俺にいったん手渡そうにも、俺の両手もタオルとおっぱいで埋まっている。
麦茶を置けそうなテーブルも近くにない。
タオルを押さえるため、どうしても俺の手はタオルを梢の胸に押し当てるように触れてしまっている。タオル越しとはいえ、ブラをしていない生乳は、信じられないほど柔らかくて、それでいて手を押し返すような弾力もあって。何気に少し感動してしまった。
一方で梢も、普段あまり羞恥心が見られないけれど、さすがに胸を掴まれているのは恥ずかしいのか、赤面して動揺している。
「そ、そうだ。お兄ちゃん。そのままの状態で、タオルをずり落ちないように結ぶことできない?」
梢が提案してきた。
俺はゆっくりと首を横に振る。
「今は下から手で何とかタオルを押さえるように支えているだけだから、このままだと無理だな。もちろん手を動かして位置を変えればできなくもないが……そうなると、思いっきりおっぱいを触ることになるぞ。下手すれば、先っぽの桜色のつぼみに触れかねない」
「うう……それはやだなぁ。って、お兄ちゃん、なんで桜色って知ってるのよ」
「そこは言葉のあやというか、適当に言っただけだが……」
なるほど。桜色なのか。
結果的に誘導尋問みたいになってしまい、梢がさらに顔を赤く染めた。
「じゃ、じゃあ。お兄ちゃん。目をつぶってから手を放してよ。少しはだけちゃうかもしれないけれど、その隙にお兄ちゃんに麦茶渡して、あたしが手でタオルを押さえるから」
「――目をつぶった状態で、どうやって麦茶を受け取れ、と」
「そこは努力次第で! そうだ。一度練習してみる?」
「……そもそも、この状況でどうやって練習する?」
練習、即本番のような状況なのに。
「ううっ」
梢がうなだれた。
こんな格好で家の中を歩き回るくらいだから、どこか抜けたところのある妹である。
「よし分かった! じゃあまずはこの麦茶をどうにかしないと……だよね」
梢が両手に持っているのは、ガラス瓶とガラスのコップ。
ペットボトルと紙コップだったら、床に放り投げればいい(濡れるけど)のだが、ガラスではそうはいかない。
かといって、この体勢では床に置くこともできないし、近くのテーブルに移動しようとすれば、俺も一緒に動かなくてはならいないわけで。そうなるとおっぱいタッチの発生率は大幅に上昇してしまう。
「いまさらこの状態で麦茶を受け取れないぞ」
「大丈夫だって。とりあえず、この麦茶、飲んじゃうね」
「おい」
梢が顔を上げて左手に持ったコップを口に付け、麦茶を飲む。
その顔の下で、俺は梢のおっぱいをタオルの上からぷにぷにと触れている。シュールな光景だ。
もし俺の手が、梢のおっぱいじゃなくてお腹に置かれていたら、麦茶の流れてくる音が感じ取れたんじゃないか、ってくらいの勢いで、一気に麦茶を流し込む。
「ぷはーっ。やっぱりお風呂上がりの麦茶は最高だねっ」
「風呂あがり、っていうにはだいぶ時間がたっている気もするけどな」
「よし、それじゃ行くよ……」
俺のツッコミをあっさりとスルーして、梢が言う。
さてコップの麦茶を飲んでどうするつもりなのかと思っていたら、なんと梢は、その空になったコップを、なぜか俺の頭の上に置こうとしてきたのだ。
「お、おい」
「大丈夫……動かないで……」
コップが。頭の上に、乗った。
梢がそぉっと手をコップから引っ込めて……さっと胸元のタオルを掴んだ。
その瞬間、俺もタオルから手を離す。コップは半ば落ちそうになったけれど、なんとか間一髪掴むことに成功した。
「……あ、危なかった……」
「お兄ちゃん、ナイスキャッチ!」
梢が無責任にはしゃぐ。
それを見て、俺は皮肉がましく言ってやった。
「ま、お互い、ぎりぎりだったな」
「?」
梢がこくりと首を傾げ、俺の視線を追って胸元に目をやって――慌ててタオルの位置を直した。
とっさに左手だけで押さえ、代わりに俺の両手がなくなったため、タオルはぎりぎりずり落ちそうな状態だったのだ。
「えっち」
「てか、そもそも、そっちが悪いんだろ」
「えへへ。そうだよね。ごめんね、お兄ちゃん」
梢は素直に謝った。
そして胸を張って自信満々に、改善策を口にするのであった。
「今度から、タオルを巻くときは、ちゃんと下着を着けてからにするね」
「……いや、そこ?」