3 炎の巨人 前
次のお話から戦います。
まりあがガルーとパペマペを床に正座させ怒っていると、開いた扉からフワリと1本の赤い花が部屋に入ってきた。花は部屋にいる全員の視線を集めたままふわふわとシャルの前まで行きそこで浮いたまま止まる。
花を見ていたシャルは大きくため息をつくと花に手を伸ばす。伸ばした手が花に触れるとポンッと軽い音がして夥しい量のハートマークのエフェクトが起こり、視界が遮られる。そのハートのエフェクトが収まると花に触れるために伸ばしたままだったシャルの手に合わせるように手を添え、机の上に騎士のように膝をつく深い森のような緑の瞳と輝く金髪を持つ耳の長い整った顔をした青年がいた。
「遅くなって申し訳ない、僕のお姫様。」
「いや、時間ちょうどなんですが」
キラッと白い歯を見せながら話す青年に思わずツッコミを入れてしまうシャル。たしかに壁の大時計を見ると時刻は集合予定時間ちょうどの午後5時を指していた。
青年はふむ、という顔をして、
「なら―――」
「どこに乗ってるんですかアッカさん!」
何かを言おうとしてまりあに怒られていた。
まりあによるお説教は5分ほど続き、まだまだ続きそうだったのでシャルが止めて、全員を席に着かせる。
「さて、あんまり遅くなってしまうとお相手のうに丸さんにも迷惑が掛かってしまうので、手短に今回戦う国丸さんお手製の『炎の巨人』の教えてもらっている情報の整理といきましょう―――」
今回、7人が集まったのはとあるプレイヤーから戦いを挑まれていたからだった。それは自身の作ったモンスターを倒せるかという申し出だった。
ワールドクリエイターの中では、プレイヤーのレベルやギルドの拠点ポイントを使用し、モンスターやNPCを生み出すことが出来る。さらに、マスターした職業によってはボスクラスのモンスターを生み出すことができ、今回挑んできたうに丸は何度も挑んできている相手だった。
「―――――ということで炎の対応だけ考えていれば大丈夫だと思います。では、頑張りましょう。」
シャルが話を締めようとすると、
「いや、いつものやんねーのかよ」
と、ガルーが不満そうに口にする。それを聞いたシャルは、
「は、恥ずかしいから・・・」
と顔を赤くする。それにアッカとまりあが興奮するがイサジとアイデハルトに止められる。
「ふぅ・・・じゃあやりますよ。」
息を吐き、意を決したように前を向くシャル。そして大きく息を吸い込みいつものを始める。
「『愛でたい血塗れ吸血鬼!シャルロッタ・ファシウル・ヴァネン』!」
「『絶対聖女まりあ』!」
「『石頭の頑固おやじドワーフイサジ』!」
「『・・・壁アイデハルト』」
「『漆黒の狼人ガルー』!」
「『爆弾型妖精パペマペ』!」
「『シャルちゃんの嫁は俺だ!地獄に落ちろ!アッカ!』」
「「「「「「「我ら7人合わせて、ギルド『七英雄』!」」」」」」」
決まったなという顔をするメンバーとため息をつくシャルとアイデハルトの二人。
「な~にしょぼくれてんだよ」
「「不服だからですよ(でござる)!!」」
「まっ、掲示板の評判だしね!アタシは好きだよ!」
「いや、でも壁はないでござろう・・・」
「ボクは前半部分がなければなぁ・・・」
いつしか始まった最近掲示板で呼ばれている多い通り名を言うようになったこのいつものと呼ばれているもの。毎回大なり小なりダメージを受ける者が現れるがガルーとパペマペの、あと意外にもまりあが希望するので行っているのである。
その後、心にダメージを負ったシャルを先頭にうに丸が指定したエリアへと向かうのであった。
エリアに着いた7人を待ち構えていたのはむわっとした暑さとごろごろ転がっている岩とその中でも一番大きな岩の上に座る小さな人影だった。黒い髪をツンツンに尖らせた少年は、にこにこと笑いながら
「待ってましたよみなさん!」
と岩から飛び降り、両手を広げ7人の方に向かって歩いてくる。
「今日はよろしくお願いします。うに丸さん。」
「こちらこそ、皆さんに何度も頼んでしまって申し訳ないです!ですが、今回もなかなかの自信作ですよ!」
生き生きと話すうに丸と握手するシャル。その後、蘇生回数の上限や各々の敗北、勝利条件など今回のボス戦のルールを確かめていき、装備を整えいく。準備ができたところで、うに丸は攻撃判定外のエリアへと移動し、7人に向けて演説でもするかのように手を広げる。
「では!今回の僕の愛娘、燃え盛る炎の体を持つ魔人!『炎の巨人』!その熱い体をご堪能あれ!」
最後にお辞儀をすると指定されていたエリア外からの侵入と攻撃が内外に出ないように青白い結界が張られる。
うに丸の方を見ていた7人は背後からゴゴゴゴと大きな音が聞こえると振り返る。するとうに丸が座っていた大きな岩が動きだし、その中から真っ赤な炎が溢れ出す。さらに周りの岩を集めながら大きくなっていく。
やがて全員が見上げるほどの大きさになると、かかってこいとでも言うように全身の炎をさらに激しく燃え盛らせるのであった。
いろいろなことが難しい・・・