五章
星と海が激突した。
あまりに荒唐無稽な話だ。そこいらの子供に聞かせるおとぎ話にしても、少々面白味に欠けるかもしれない。
唯一面白いのはこれが事実であるということ。
「ははははは! 良い景色だなおい!」
"宿敵"日比谷健伸は腕を広げ、声を大きくして笑う。
海は勢い良く星に叩きつけられ、そのまま、強い勢いで押し返していく。
「面白い」
星を産み出したゲルドラードの魔王は、楽しそうな顔で星に魔力を込める。
勢いに負けていた星は、魔力の支援を得たことで海に負けじと押し返そうと勢力を取り戻す。
「へへへ、やるじゃねえか」
「ゆ、勇者殿!」
「脇役は引っ込んでろい!」
隊長が大声で呼び掛けるが、健伸は振り返らず、傲然とした台詞で黙らせる。
誰の目にも、健伸が調子に乗っていることは明白ではある。善神から授けられた"チート"のおかげであるにも関わらず、彼はその力を自分に元々備わっていたものと考え出してもいた。
それが幸い願望を主動力とする"チート"と最高の好相性を生み、ゲルドラードの魔王を相手にしておきながら好転の兆しを生んでいたのは、日比谷健伸の運命にどう影響するかはわからない。
わからないが、とにかく彼はノリノリなのだ。
「俺様はなあ! この世界で一番強いんだよ!! その俺様か負けるわきゃねえだろうが! オラオラ! そんなデッカイ石ころぶつけるなんてケチなことしてんじゃねえよ! 俺様の方がスケールあんだよ! 海なんて誰が想像したよ!? 俺様だったろなぁ、この世界を作り替えることもできるんだよ! その俺様に敗北はないね! 覚えておくんだなセンスのない黒マント軍団!!」
しかし、世の中はそう上手くはいかないもの。
「第二、第三の策は既に」
いつの間にか姿を消していた"賢王"サルトナの声がする。彼は第二の策の為に備えているので、不本意ながら首領の傍から離れていた。
第二の策。
これはかなり、戦場でなければこれほど下品というか、悪趣味な伏兵戦術だ。
「さぁ蘇り、従え死人共!」
聖なる結界に覆われた城壁の前に立つ賢王が、地面に広大な魔方陣を敷いた。
城壁都市アーガウは街の形をした要塞だ。それだけ魔国と戦を経験した。
"戦を経験した"、ということはそれだけ人が死んだということ。
被害を受けない戦争なぞない、少なからず一回の戦で数百規模の死人は出る。
その死人は今はどこに?
城壁の向こうにある、墓地の中に眠っている。
「総勢一万弱の軍勢が、要塞の内部に出現したらどうなるか、これでわかる」
賢王は笑う。
アーガウは地獄と化した。
何故なら、完璧な守りを売りにしていた要塞の、まさに心臓部から敵が現れたのだから。
非武装の住民は阿鼻叫喚、元々ゲルドラードの魔王と彼女の魔術"星"により恐怖と不安は渦巻いており、それが一気にお釣りが貰えるほどの狂騒と化す。
死人たちのほとんどは兵士である。
肉は腐り、まともな攻撃は出来ず、移動速度はない。足の肉が削げ落ちて這いつくばっている者もいた。中には武器を持ったまま、鎧を着たままの死人も。
はっきり言って戦力としては期待は出来ない。が、兵士たちも人間である。
見覚えのある、自分と関わりのある死人と対面したときに挙動が遅れてしまう。
「敵を倒すのではない。井戸、食糧庫、生産の拠点を狙うのだ」
賢王は指示する。
彼の目的は敵の混乱ではない。それは二次的副次的なものにすぎなかった。
アーガウの最も厄介な籠城戦への適応性を破壊するために、死人たちを使っているのである。
ちなみに、何故神聖巫女たちによる強力な結界をこうもあっさり破ったかというと、実は破るのではなく素通りしただけなのである。
アーガウ周辺は鉄や強度のある石が取れる。地質も硬く、地下を掘って侵入することは困難だ。
故に神聖巫女たちは地面まで気が回らなかった。空中や城壁などを中心に結界を張ったのである。
彼女たちに非はない。何故なら、このような悪辣な手を考えるのは賢王くらいのもの。
「井戸は一人か二人、特に肉が腐っている者を突き落とせばよい。食糧庫も自身に火をつけて燃やせ。畑はすべて刈り取れ、いやわざと余らせろ。奪い合いになって仲間割れを起こすやもしれぬ。死人が道端に三十人ほど倒れていれば、死人から病が生まれる。倒れても利用価値があり、死体ゆえに反抗はせぬ。これほど便利なものもあるまいて」
賢王は微笑んだ。
「おおおおおお!!」
"宿敵"日比谷健伸は少し押された。
死人が城壁の向こうから大量に発生したという報を受けた直後、ゲルドラードの魔王が動き出したのだ。
健伸に焦りが生まれた。
焦ることで考えが、願望がまとまらない。
まずい。
健伸の頭の中を支配している単語である。
これこそゲルドラードの魔王が望んでいる戦法であった。
確かに健伸の能力"チート"は強大で、自身の力を上回るかもしれない。だが、それは願望を描ける余裕があればの話。
余裕がなければ、ただの引きこもりのニートである。
負けはしない。
「あのままじゃダメよ!」
「ど、どうするのジャンヌちゃん!?」
城壁にて、ジャンヌとアンヌの二人は動いた。
ジャンヌは弓を持ち、アンヌは杖を。
何か援護を出来ないか模索するが、あんな巨大な星を相手にどうすれば良いのか検討もつかない。
「我々の力では到底割り込めないのか!」
ジャンヌは悔しさで唇を噛んだ。
その時だ。
「は~い、調子良い? あらあら良いお尻ね」
下品な善神がジャンヌの尻を揉みながら現れた。
やっと続き書けました、頑張ったで