四章
星が降ってくる、我々を殺しに。
「迎え撃つぞ! 俺様の力見せてやるよ!」
あまりに無謀なことを即座に宣言したのは、誰あろう"宿敵"日比谷健伸。
次いで動いたのが、城壁守備隊隊長。
「持ち場を離れるな! 離れた者は誰であろうと切り捨てる! いいか、我々が踏ん張るんだ!!」
剣を抜き、呆気に囚われている兵士達を鼓舞する。もう少し彼等の動きが遅ければ、兵士達は逃げ出し、恐慌状態に陥っていたはずだ。
寸でのところで恐慌を防いだが、現実にまだ"星"が無くなったわけではない。
厳然とそこにある。
(神聖巫女様方の結界を信じるしかない・・・・・・もしくは)
隊長は城壁をよじ登って仁王立ちする日比谷健伸を見た。
"勇者"であるならばこの状況を打開する術を持っているははず。
ここは彼に任せるしかない。
と、思ったまでは良かった。
彼は腕を組んだまま、星を睨むだけ。
「ゆ、"勇者"殿?」
隊長はたまらず声をかける。
先ほど大言を吐いたものの具体的行動をとっていない。
事態は刻々と動いている。即座の判断と行動が求められるのだが。
「勇者殿! 見ている暇があるならすぐにっ!」
「思いついたこれが良い!」
隊長の怒号を無視して、"宿敵"日比谷健伸は嬉しそうに声をあげる。
彼はキョトンとする隊長や近くの兵士など存在していないかのように、"星"の方へ飛んでいった。
「勇者殿!?」
隊長が驚愕するのも無理はない。
空を飛ぶことは魔国との戦いで見慣れている。それではない。
あの、ゲルドラードの魔王が放った魔術に向かっていくことに。
自殺行為と言えばそれまでだが。
「そっちが星なら、こっちは"これ"だ!」
健伸が両腕を広げた瞬間。
奇跡と呼ばれる現象が起きた。
「う、海だ!」
「まさかっ? 嘘だろ!?」
「こんなことが!?」
「星とか海とか、もうわけわかんねぇよ!」
兵士たちは混乱する。
"宿敵"がどこからともなく産み出した"海"もとい、潮の香りがする大量の水は、城の堀どころか、平原を呑みつくし、近隣の林や畑にまで広がっていく。
「安心しろ、俺様が造った海はカンキョーに優しいからよ。畑とか木にはなんの影響もねーよ」
と、わざわざ農民向けに宣伝を入れておく。
「ほう?」
ゲルドラードの魔王は星を動かしつつ、広がっていく異常な光景を興味深そうに眺める。
"宿敵"に何か考えでもあるのか、それとも。
「何か仕掛けるとは思いますが、まさか"この程度の力"を持つに至っているとは。面白いですな」
"賢王"サルトナは特に動じてはいない。
さほど珍しいことでもないのだろう。
しかし、"宿敵"がやったことである。という事実に首領と同じく興味はあった。
「ふふふ。面白い」
「では、用意しておいた策の一つを? 幸い手間が省けますが」
「うむ。任しゅ」
賢王の進言を聞き入れる。と、同時に。
「氷のカドレに海を出すなんて良い度胸してるわね!」
炎よりも熱い咆哮をあげて、海原に呑み込まれていない巨木のてっぺんに立つ氷のカドレが、両手を海面に触れる。
瞬間、すべてを凍りつかす勢いで海が氷った。
「カドレの力によって街の気温を極端に下げさせる。この地域は雪は滅多に降らないほど暖かい。寒さ、という敵と。戦ってきた経験はない為心理的にも肉体的にも大きな負担になる。それを狙った策でございます、王」
「どう出りゅか」
賢王の説明にゲルドラードの魔王は、
「おっとそっちに来たか」
"宿敵"日比谷健伸は氷っていく海を見て一言だけ洩らす。
呑気ではある。しかし、待っていたとばかりにカドレの方へ飛んでいく。
「や~っと出てきたなぁおい!」
「!?」
一瞬で間を詰めて現れた"宿敵"に驚愕しつつ、
「舐めるな!」
氷を操作して鋭く尖ったつららを造り、放つ。
また瞬時に氷の巨腕を創造し、更にこれで殴り付ける。
「おっと! 避けないとな」
軽妙な動きでつららを避け、氷の巨腕は"最強のパワー"を願ってから殴る迎撃で粉砕。
続いて放ってくるつららの雨を避けつつ、再び高速で飛び上がって距離を取る。
彼の目的は十分に達せられた。
"宿敵"日比谷健伸は星が現れたときこう思っていた。
『あ、多分これは囮でほんとは別の奴が悪どいこと考えてるんだな。だって味気ねーっつうか、ただ派手なだけって何かありそう』
と。
海を造ったのも敵を動かして炙り出すため。
3分の1ほどの海が凍ったが、それでも彼には十分だと思った。
「津波って知ってっか?」
健伸は海を操る。水が壁のように垂直になっていく。
それは城壁すらを大きく上回り、その背だけで星に届くほど。
「ざっぶーんってな!」
造った津波が、健伸の指示の元、まるで大剣を降り下ろすかのような勢いで、星へと叩きつけられた。
お久し振りです、ちょっと時間かかりました。