プロローグ
金色の雪が落ちてくる。
いや、雪ではない。寒さも、暑さも、歴史も、未来さえ既に過去のものだ。
黄金の羽根が、光どころか暗闇さえも去った虚無の終わりに降っている。
無意味となった光の残り香が、ただうつくしく、それだけだった。
──願いを。願いを。願いを願いを願いを願いを寄越せ。
ああ、面白い。
こんな、世界の骸さえ残らない無極の中で、願い乞えとのたまうその尊大さが。
愉快で愉快で、面白い。だが、同時に、こいつらしいとも思う。
誰よりも傲慢で、不遜で、わがままで、だが憎めなかった。
血の雨の下でも、息の焼ける炎の中でも、文明の欠片さえ残らない荒野でも変わらずに輝いていた赤を。
すべての終わり、願いの塵となった今でさえすこしも憎めない。
いとおしく、懐かしいとさえ思う。
目の前にいる、子守の童話で語られてきた、破滅の鳥を。
それは金色の羽根、赤い瞳、龍のような鳥のような無限の体躯をした黄金の破滅であり、もっとも聞き慣れた、うつくしい女の声で歌っている。
何もない世界で、幼子をあやす子守唄のように。
──我に願いを。願いを捧げよ。願いを願いを願いを願いを。万物の願いを我が舌の上に。
万物とは大きくでたな、と苦笑したが、なるほどこいつの姿を見れば納得もする。
うつくしい。
うつくしいという他ない豪華絢爛な黄金の輝き。
破滅のかたちをした願望器。
人類がその歴史上、血で血を洗い求め狂ってきたものの全てがここにある。
狂気の原子がここにある。
ならば、滅ぼされても許すしかないじゃないか。
だって、こんなにもうつくしいのだから。
――例えそれが、ワールドエンド、世界の終わりだとしても。
「……願いってわけじゃないけど」
昔、同じことを言っていたバカがいた。
こんなにも綺麗なのだから、世界ぐらい滅ぼしても許されるんじゃないかな、と。
当時はふざけるなと思ったものだが、今ならわかる。
世界ぐらい、終わっても仕方ない。
文明を、人類を、万物の願いをくべてこの煌めきが増すのならば、それこそが真の幸福の成れの果てだ。
「お前と友達になれてよかったよ。レイゼル」
赤い瞳が、虹色に閃く。
永劫を殺す音がした。
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運命に踏まれた時、如月至恩はまだ子供で、十三歳だった。
それを、今は懐かしく思う。
運命は、銀髪で、赤い瞳をした、かわいい女の子の姿をしていた。