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繋がる世界

作者: 下畑耕司

 二十一世紀も終わろうとするある日、画期的な発明がなされた。

 それは「脳内電話」。文字通り脳内にチップを埋め込み、それを利用して通信するというものだ。

 使い方は至って簡単。相手の顔か声を思い浮かべるだけでいい。相手に応答の意志があればいつでも通信が可能だ。


 さらに、この発明はただ便利というだけではない。この発明はある偉業を成し遂げた。

それは、脳内の情報を言語に翻訳して送信する必要がないため、言語の壁を乗り越えることに成功したということだ。

 これまでの通信、いや、通信だけでなくありとあらゆるコミュニケーションにおいて、我々は伝えたいことを言語に翻訳してから相手に伝え、さらに相手がもう一度その言語を情報に翻訳し直すという形態をとってきた。

 この時、言語が間違って解釈されたり、そもそも両者の間で通用する共通の言語がない場合、情報の伝達は不可能と言っても過言でないくらい困難なものになる。

しかしこの発明はその言語の壁を打ち破ったのだ。

結果、情報の流通は一気に高速化した。

 初めは情報を完璧な精度で迅速に伝達する必要のある医療従事者に流通し、次いで学者、政治家、という順序で普及し、国民の8割が利用するようになるまでに10年もかからなかった。


なぜこんなに早く普及したかというと、それはひとえに「完璧だったから」だろう。

チップの表面は使用者本人の細胞で覆われているため拒絶反応はまず起こらないし、神経回路を流れる電気信号レベルの電力でも十分に動作できる仕組みなので電池の交換も充電の必要もない。

 その上、定期的にメンテナンスもしてもらえるのでバグを起こして頭がパーになるという心配もない。


 この発明から百年後、地球上で言語を話す生物はいなくなった。これまで唯一の言語を話す生物であった人間は今となっては声を使うのは怒った時や悲しむ時などの限られた状況だけになった。

 しかしその脳の中ではどの生物よりも深く結びつき、どの生物よりも高度な文明を築き上げていたのだ。

 優れた文学作品は埋没することなく瞬時に世界に出回り評価を集めた。警察の取り調べでは頭から直接情報を引き抜くので噓の付きようもないし記憶違いによる情報の錯綜も起こらない。

 政治家が汚職や裏金といったことをしづらくなり、一時、裏の社会では記憶を消す装置を開発しようという動きがあった。しかしそのためには脳に電流を流す必要があり、そんなことをしてはチップがショートして脳が破壊されるので結局未然に終わった。

 そういった紆余曲折を経て全人類は一つの種族として団結し、ついに人類が言語を捨ててから三十と二年ののちに地球上から争いは消え、差別も解消した。

 人類はついにこの世界で最も清く誇り高い生物になったのだ。


 と、人類はそう思っていた。


 ある所に二匹の野良猫がいた。

 「とうとう人類は言語の壁を突き破り、個体同士で繋がったね。」

 「そうだな。」

 「今度は種族の壁を突き破って私達野生動物とも繋がれるといいけどね。」

 「まあ、厳しいと思うがな。人類は変なところで保守的だからな。」

 「そうかな?今まで人類が戦争とか虐殺とかしてきたのって『言葉が通じないなら戦争』っていう考えから来てるんでしょ?だったら多少なりとも望みはあると思うけど?」

 「そうか、でも我々ができることというのは祈ることくらいだな。」

 「そうだねー。あ、このことってもうほかの生物達には伝えた?」

 「ああ、もう蜂と鰯に伝えたからすぐに上空から海底に至るまで全生物に伝わるだろう。」

 「そう、なら安心だね。ヤバそうな奴は厳重監視。太古からの鉄則だよねー。」

「ああ、もし今回の件で調子に乗りすぎることがあったら、今度こそは滅ぼされるだろうな。」

「恐竜の時みたいにね。まあ、記録でしか知らない話だけど。・・・そうだ、賭けでもする?」

 「『人類は種族の壁を越えて我々と繋がれるか』についてか?いいだろう。俺はできない方に賭ける。」

 「じゃあ私もできない方に賭けるー。」

 「それじゃあ賭けにならんだろう・・・。」

 人類はまだ大きな勘違いをしているようだ。それに気づくのにあと何年、いや、何世紀かかることやら。


 初回投稿作品「煉獄」とは違って多少救いのあるどんでん返しでした。高校の時の授業で「人類とその他の動物の違いは言語を話すか否か。」という話を聞いた時に「それはどうかな?」とひらめいたのが今回の作品です。

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