07.ひとり
まだ一話が短いです・・・徐々に長くなっていきます
よろしくお願いします!
「……」
また鳥の鳴いている声で目が覚めた。
微かな期待を込めて開いた目に映ったのは、がらんどうの部屋。フェイの帰りを待っているうちに、どうやら眠ってしまっていたようだった。窓の外を見ればまだ薄暗い。
ティオは寄りかかっていた壁に、また深く背を預けた。結局、フェイが帰ってくることはなかった。今まで、帰ってこないことなどなかったのに。
「どこいったんだよ」
呟いた声が嫌に大きく響き、ティオは顔をしかめた。この家はこんなに静かだったか?
いつもは絶え間なく動物たちの声が響いていた。フェイは動物を呼び寄せる力でもあるのか、いつだって何かしらの動物がここにはいた。
フェイが帰ってこない、動物たちもいない。ティオは何かとてつもないズレのようなものが生まれてしまったような危機感を覚えた。
足元が地面でなくなってしまったかのような不安。その不安の正体に、ティオはようやく思い至る。ティオは今、独りだった。
半年の間、ティオが真実独りきりになったことはなかった。フェイがいた。あいつがいないときは、動物たちが寄り添ってくれていた。
「はは……」
乾いた笑いが漏れ出る。ティオは無感情な瞳で、誰もいない部屋をぐるりと見渡した。動物の影一つとして無い。
幼子のように膝を抱えて床に蹲る。
独りきりってのは――。
「こんなに、辛いものなんだな……」
ぶつけるように体を預けた壁が、微かに軋むような音をたてた。
*
どのくらいそうしていたのだろうか。不意に声が聞こえたような気がして、ティオはうつむいたままだった顔を上げる。
確かに、誰かの――何かの鳴き声が聞こえたのだ。慌てて部屋を見渡すが誰もいない。
(どこから?)
立ち上がり部屋を飛び出す。知らず駆け足になったティオは、一階に降りた時に、奇妙な音が聞こえることに気がついた。
――カツンッ……
まるで、ガラスを指で弾いた時のような澄んだ音が微かに聞こえてくるのだ。それも一度じゃない。その音は一定の間隔を空け、連続して聞こえていた。
一体、何なのだろう。ティオは恐る恐る音の発生源へと近づいて行ってみる。
南側に取り付けられた大きな窓。そこから音はしているようだ。窓のそばを探ってみるが、特に何かがあるわけではなかった。
と、
――カツッ!
空を映す窓。そこに一瞬何かがぶつかり、小さな音を立てた。さっきから聞こえていたものと同じ音だ。
「……?」
何かを投げているやつがいる?ティオは窓枠に手をかけると、一瞬迷った様子を見せ、次の瞬間に勢いよく窓を解放した。
その顔面めがけて、何かが飛んでくる。
「これは」
咄嗟に掴んだそれを、手のひらの上で眺める。赤い、少し外側が堅い種のようなもの。
この草原中に生えている植物の実だった。
甘酸っぱく、イチゴとオレンジを混ぜたような味が特徴的なその実を見て、ティオが思いついたのは"あれ”の存在だった。
「まさか!」
窓枠から身を乗り出して下を覗いたティオの下で、手のひらに乗る程度の茶色い塊が動いていた。
塊は、ティオの顔を見ると動きを止めた。それから、まるで「気づくのが遅い!」とでも言うように、腰に手を当て後ろ足で立ち上がる。
奇妙な生き物だった。うさぎにも、リスにも見える。リスのように太い尻尾を持っているが、かと思えば、丸耳。
塊には名前があった。何度その名を呼ぶ声を聞いたことか。
「コエル!!」
てっきり、フェイと一緒に去ったものだと思っていた。コエルは森に住まうフェイの親友のような存在だった。
ふらりと大木に来たコエルがフェイと戯れている光景が日常だった。
ティオはコエルを拾い上げようと手を伸ばした。その手をコエルはすっと避ける。コエルのつぶらな瞳は、ただ一つの場所を――草原から森へと続く道を見ていた。
ちらりと視線をティオにくれると、コエルは突然駆け出した。その仕草は、「ついてこい」と言っているようにも思える。
コエルの小さな体が遠ざかっていく。森の方へ。
「最果ての森……?」
あそこに何があるというのだろうか。
いきなり知らない小動物出してすいません(^_^;)