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アーフェン  作者: 菜々
Episode.01
7/38

06.異変

よろしくお願いします!

*今までの話を徐々に改行・改稿しています

 どこかで鳥の鳴く声がした。ティオはまだぼんやりとする頭を振って、習慣で無意識に時計をチェックする。

 針と文字盤が示す数字は8:43。起きるのが少し遅かっただろうかと、ティオは背伸びをした。

「ん?」

不意に完全に醒めた頭が、何かを訴える。

 言ってしまうのはなんだが、フェイは相当だらしない人物だ。働くのを嫌がるし、汚れた食器や洗濯物だって溜め込んでおく。

 でもさすがに、あいつがこの時間に起きていないということは、今までにあっただろうか……? もし起きているなら、自分を起こしに来るはずなのに。

 まだ起きていない可能性は0ではない。結局、感じた違和感を気のせいだと決めつけて、ティオは顔を洗いに行くことにした。

 そうして、一階に降りた瞬間。

「……!?」

ティオは思い出した。同時に違和感の正体も。

 真っ先に浮かんだのは、あの奇妙な男の暗い瞳。そうして、その喉元に突き刺さった銀の光だった。

「あの時――、たしか……!」

思わず目をやった床には、血の痕一つ残っていなかった。それに死体も無い。

 まさか、助かったというのだろうか? 槍が喉を貫通して? 

 別の場所だったのかもしれないと部屋中をくまなく探してみたが、それらしい痕は残っていなかった。あれは夢だったんじゃないかという仮説が頭に浮かんだが、それはあり得ないと即座に否定する。

 実を言えば、昨日の夕方以降、自分がどうやってベットに入り寝たのかが全く思い出せない。

 それに、あの男に襲いかかられた時の恐怖がまざまざと蘇る。これが夢のわけがない。男が助かったのでなければ、答えは一つだった。

「フェイ……」

降りてきた階段を駆け戻る。目指すはフェイの部屋。大木内の3階のフロア全てがフェイの部屋だった。その、はずだった。

「なんだよ、これ……っ」

息を切らせて駆け込んだ部屋。

 そこはただの空間だった。あいつのお気に入りのソファもテーブルも、ベットすら無い。まるで全てが幻だったかのように。

 人が住んでいたのが信じられなくなる変わりようだった。まるで最初からいなかったみたいに。

「どこ行ったんだよ」

いつものいたずらかもしれない。賢者の仕事が嫌で、また逃げているのだろう。そう、楽観的に考えてみたが、それが間違っていることにはどこかで気づいていた。



「嘘だろ」

大木の中を巡り、草原中を探したというのにフェイは見つからなかった。無意識のうちに考えないようにしていた疑いが、勢いを増してくる。

 消えた謎の男の死体。そうして、彼を殺したはずのフェイの行方がしれない。

 この二つが意味することは、簡単に想像できる。

 ――フェイが男の死体を隠して、追及を避けるために逃亡した。

「……なわけあるかよ」

呟いた声が、思ったよりも小さくなってしまったことに驚く。俺は、あいつを疑っているのか?

 フェイの能天気な顔が浮かんでくる。だいたい、あいつが人を殺せるもんか。可愛がっていた動物が死んだら、いちいち涙を流すような奴が。

「どうせ、勝手に街にでも行ったんだろ」

前にも一日近く姿が見えない時はあった。後になって問い詰めたらフェイは、街に行っていたと当たり前のように答えた。

 きっと今回もそれだ。もう少しすれば、きっとひょっこりと戻ってくるに違いない。

「帰ったら、問い詰めてやる」

死んだ男のことについて、聞きたいことはたくさんある。それにきっと、フェイのことだから彼を殺したのにも理由があったのだろう。きっとどうにもならない理由が。

 ガランとしてしまったフェイの部屋の中心にどっかりと座り込む。ここで待ち構えるのだ。

 ふと、時計を見ると時刻は19:00を回ろうとしていた。もうすぐ夜がやってくる。

 夜は草原全体がまるで死んだように静まりかえる。どこからともなく、フクロウの鳴く声が聞こえてくるだけだ。

 見慣れているはずの草原の景色。なぜだかそれがひどく恐ろしかった。



まだまだ序盤です……

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