06.異変
よろしくお願いします!
*今までの話を徐々に改行・改稿しています
どこかで鳥の鳴く声がした。ティオはまだぼんやりとする頭を振って、習慣で無意識に時計をチェックする。
針と文字盤が示す数字は8:43。起きるのが少し遅かっただろうかと、ティオは背伸びをした。
「ん?」
不意に完全に醒めた頭が、何かを訴える。
言ってしまうのはなんだが、フェイは相当だらしない人物だ。働くのを嫌がるし、汚れた食器や洗濯物だって溜め込んでおく。
でもさすがに、あいつがこの時間に起きていないということは、今までにあっただろうか……? もし起きているなら、自分を起こしに来るはずなのに。
まだ起きていない可能性は0ではない。結局、感じた違和感を気のせいだと決めつけて、ティオは顔を洗いに行くことにした。
そうして、一階に降りた瞬間。
「……!?」
ティオは思い出した。同時に違和感の正体も。
真っ先に浮かんだのは、あの奇妙な男の暗い瞳。そうして、その喉元に突き刺さった銀の光だった。
「あの時――、たしか……!」
思わず目をやった床には、血の痕一つ残っていなかった。それに死体も無い。
まさか、助かったというのだろうか? 槍が喉を貫通して?
別の場所だったのかもしれないと部屋中をくまなく探してみたが、それらしい痕は残っていなかった。あれは夢だったんじゃないかという仮説が頭に浮かんだが、それはあり得ないと即座に否定する。
実を言えば、昨日の夕方以降、自分がどうやってベットに入り寝たのかが全く思い出せない。
それに、あの男に襲いかかられた時の恐怖がまざまざと蘇る。これが夢のわけがない。男が助かったのでなければ、答えは一つだった。
「フェイ……」
降りてきた階段を駆け戻る。目指すはフェイの部屋。大木内の3階のフロア全てがフェイの部屋だった。その、はずだった。
「なんだよ、これ……っ」
息を切らせて駆け込んだ部屋。
そこはただの空間だった。あいつのお気に入りのソファもテーブルも、ベットすら無い。まるで全てが幻だったかのように。
人が住んでいたのが信じられなくなる変わりようだった。まるで最初からいなかったみたいに。
「どこ行ったんだよ」
いつものいたずらかもしれない。賢者の仕事が嫌で、また逃げているのだろう。そう、楽観的に考えてみたが、それが間違っていることにはどこかで気づいていた。
「嘘だろ」
大木の中を巡り、草原中を探したというのにフェイは見つからなかった。無意識のうちに考えないようにしていた疑いが、勢いを増してくる。
消えた謎の男の死体。そうして、彼を殺したはずのフェイの行方がしれない。
この二つが意味することは、簡単に想像できる。
――フェイが男の死体を隠して、追及を避けるために逃亡した。
「……なわけあるかよ」
呟いた声が、思ったよりも小さくなってしまったことに驚く。俺は、あいつを疑っているのか?
フェイの能天気な顔が浮かんでくる。だいたい、あいつが人を殺せるもんか。可愛がっていた動物が死んだら、いちいち涙を流すような奴が。
「どうせ、勝手に街にでも行ったんだろ」
前にも一日近く姿が見えない時はあった。後になって問い詰めたらフェイは、街に行っていたと当たり前のように答えた。
きっと今回もそれだ。もう少しすれば、きっとひょっこりと戻ってくるに違いない。
「帰ったら、問い詰めてやる」
死んだ男のことについて、聞きたいことはたくさんある。それにきっと、フェイのことだから彼を殺したのにも理由があったのだろう。きっとどうにもならない理由が。
ガランとしてしまったフェイの部屋の中心にどっかりと座り込む。ここで待ち構えるのだ。
ふと、時計を見ると時刻は19:00を回ろうとしていた。もうすぐ夜がやってくる。
夜は草原全体がまるで死んだように静まりかえる。どこからともなく、フクロウの鳴く声が聞こえてくるだけだ。
見慣れているはずの草原の景色。なぜだかそれがひどく恐ろしかった。
まだまだ序盤です……