05.星に願いを
よろしくお願いします!
*改稿しました
「ここは……?」
フェイが始めに感じたのは恐れにも似た感情だった。
ただひたすらに眠り続けていた少年は、目を覚ましたときに確かにそう言ったのだ。
決して知っているはずのない、この国の言語で。
――結局、運命には抗えない。きっと僕はそのときからそのことをちゃんと知っていた。それでも、
「半年か。短かったなぁー」
フェイは眠り続けているティオの枕元に立ち、何をするわけでもなく少年を見ていた。
しん、とした空気がどうしようもなく思考の渦へと意識を引き込んでいく。
「どうしたらいいんだろうねぇ……」
思わず呟いた声の語尾が伸びてしまうのは、もう病気のようなものだった。
いつからだろう。こんなにも無気力に生き始めたのは。
いつ以来だろう。こんなにも理不尽さを感じていて、それを打ち破りたいと思えたのは。
「ティオ……」
数時間前に気を失った少年は、未だ目覚めない。窓の外はすでに暗くなっている。
規則正しい呼吸と安らかな寝顔が、ティオの命に危険はないことを教えてくれていた。
フェイの指が、ティオの額に張り付いていた髪をそっと払う。
少年が今眠っているのは、自分のせいでもあった。目の前で人が殺されてしまったことのショックもあるだろう。
けれど、自分がやってはいけないことをしたという気持ちは、微塵も沸いてこないのだ。
「ごめん、ティオ」
ああするしかなかったんだ。あの人みたいに堕ちた人間は、もう二度と元には戻れない。
フェイは思わず床の一点に目をやった。数時間前、男の生命を貫き永遠に死へと縫い止めたその場所を。
そこには肉の一片すら残っていない。堕ちた人間の末路はいつも一緒だ。まるで霞のように消えて、この世のどこにも残らない。残酷だ。
「……」
ずっと昔から使っている銀槍を手に取る。手に馴染むその感触が、今だけはひどく煩わしかった。
光を反射して、一片の曇りもなく輝いている相棒。一体、何人の人をこの槍で屠ってきたのだろう。最初に人間を斬ったのは?
屍の重さを忘れてしまいそうになる。消してしまった命の重さはみんな一緒のはずなのに。
時々、本当に忘れてしまったらどうしようと、どうにもならない恐怖に襲われる。でもその一瞬後には、忘れてしまうのは本当に悪いことなんだろうかと問う自分がいるのだ。
忘れるという行為はひどく心地いい。自分の罪に向かい合わなくて済む。断末魔の木霊を聞くことがなくなるから。
けれど、もし命の重さを忘れてしまえば、いつか目の前の少年をも殺すことになる。
それはとても……。
「怖いな」
風が大木を揺らす、ざわざわという葉の音に外を眺める。
その時、闇を溶かしこんだような暗い空に一筋の光が横切り、消えた。
視界を横切ったそれを認め、フェイは軽く目を見張った。そうして、ゆっくりと瞼を閉じる。
――流星に願えば、その願いはいつか叶うという。
古い言い伝えが頭をよぎった。
「――――。」
小さく、本当に微かな声でフェイは呟いた。
やがて目を開いたフェイは、ティオに背を向ける。翡翠の瞳に宿っていたのは、確かな決意と僅かな哀しみだった。
未だ目覚める気配の無いティオ。
彼の願いを知る者は落ちて消えた流星だけだった。
厨二全開(^_^;)