表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーフェン  作者: 菜々
Episode.03
37/38

02.優しさと不安

よろしくお願いします!


ーー秋の近づく気配がするな。

ティオは少しだけ肌寒い風を感じながら森の中で木々を見上げる。

だんだんと燻んだ色になっていく木々の葉がちらほら目についていた。

その中に木の実でもないかと探しかけて・・・やめた。

もう薄暗いせいでよく見えないというのもあったが、

「コエルがいればな・・・」

ティオには食べれる木の実なんて見分けられない。

木の実のエキスパートであるコエルもいない。

思わずつぶやいたが、数日前にふらりとどこかに飛んで行ってしまったコエルもまだ戻ってきていなかった。

こんなことなら、食べられる木の実の見分け方をフェイに教わっておけばよかった。

今更思ってもしょうがない。

ティオはため息をついて軽い籠を背負ったまま、小屋を目指して歩き始めた。

歩きながら七日前のことをぼんやりと考えた。一体これからどうすればいいのだろう。

けれど答えは浮かばなかった。


ほどなくして、ティオは森の奥に揺れる灯を見つける。

無意識にも安堵してしまうのは、やっぱり帰る場所を見つけたからだろうか。

「カミラさん、今帰りましたー」

軋む木の扉を開き、声をかける。

「いつもごめんなさいね。ありがとう」

ややあって返ってきたのは柔らかな嗄れ声。

言葉通りにどこか申し訳なさそうな顔で、老婆カミラはティオを出迎えた。

「いえ、俺ができることはこれくらいですから。それに・・・」

ちらと見た籠の中身はほとんど入っていない。

お礼を言われるほど力になれているわけでもなかった。

「さあさ、上がりなさいな」

沈んだ顔のティオにカミラは笑って小屋の奥に進んでいく。

気遣いに温かいものを感じながら、ティオは小さな背を追った。

ルビー領、郊外の小さな森。

森の中の小さな小屋に、老婆カミラは一人きりで暮らしていた。

七日前。

影人の襲撃に乗じて逃げたティオとメロアだったが、メロアのボロボロの体はこの森の上空まで来て限界を迎えた。

突然気を失い、翼の消えたメロアもろとも、ティオは文字通り森に墜落した。

運がよかったのは、メロアの体力が底をつきかけていて、高度があまり高くなかったことと、森の上だったことだ。

鬱蒼と茂った木々がクッションのように、落下の衝撃を幾分か和らげてくれた。


「豆のスープを用意してますよ。温かいうちに飲んでくださいね」


弾んだ声に、思考が一瞬遮られる。

テーブルを前に嬉しそうなカミラは、主人に先立たれてからもうニ年余りの間、この森でひっそりと暮らしていたらしい。

だからだろうか。突然現れて、それも身元のあやふやなティオたちを心から歓迎してくれた。

森の中で途方に暮れていたティオたちの前に、現れた恩人。

この小屋に匿ってくれていることもそうだったが、なにより・・・。

「すいません、あいつ・・・メロアは・・・?」

スープを飲む前に聞いておきたかった質問をする。

返事は陰ったカミラの表情から簡単に予想できてしまった。

「・・・まだ、目を覚ましませんか」

「ええ・・・」

「そうですか・・・」

落下した直後。

気を失ったメロアに触れたとき、ティオは思わずゾッとして後ずさったことを思い出す。

恐ろしく低いメロアの体温。

まるで氷に触れたように、倒れた彼女からは命を感じなかった。

死んでいると言われれば信じてしまいそうなほどに。

でもメロアは生きていた。微かに動く胸と、消えそうな吐息がその証拠だった。

この小屋に来てからも、メロアが目を覚ます様子はない。

カミラは少ない薬草などを分けてくれたが、外傷は特に見当たらないのだ。

「本当に、すいません」

少しでも生活の助けになればと、この数日、ティオは森を散策し木の実などを採ってきていた。

そしてその間目を覚まさないメロアを、老婆はずっと看ていてくれているのだ。

あまり力になれていないことも含めて世話になりっぱなしなのを謝ったが、カミラはやはり微笑んで、

「いいんですよ。ほら、スープをお飲みなさい」

ほのかに湯気をたてるスープは、冷えていた体にじんわりと温かさをもたらした。

貧しい暮らししているカミラにとって、一人分余計に作ることも相当大変なはずだった。

けれど、スープを口に運ぶティオを見つめるカミラは幸せそうな顔をしている。

温かな時間が過ぎていった。



「・・・メロア」


小屋の一室で、夕食を食べ終えたティオは立ち尽くしていた。

居間の方からはカミラが食器を洗う音が聞こえていた。

手伝いを申し出たが、メロアを見てあげてとやんわり断られた。

ティオの手にはスープの入った皿があった。

スプーンを持った手が、目的を探してゆらゆらと動いている。

目の前のベットには目を閉じたまま動かないメロアの姿。

彼女はただ眠り続けていた。その姿に、まるで彫像のようだと思う。

見る物に安らぎを与える、美しい天使像みたいだ。

けれど、メロアの姿を見るときティオの心には不安が押し寄せる。

目覚めないメロア、いつか来るだろう王城からの追っ手、まだ会えないフェイ。

「これから、どうすればいいんだろうな・・・」

メロアについてここまで来た。

それは後悔していなかった。けれど毎日森を巡り、温かい食事をして、どうしても考えてしまうのだ。

後悔はしていない。けれど、本当に正しかったのか、今のティオにはわからなかった。

オネットに会って、無事に抜け出した王城。

けれど、こうしてメロアが目覚めないほどの危険を犯して、何も手に入っていない。

「なあ、俺たち何してんだろうな・・・」

返答はない。わずかも身じろぎすることなく、ただひたすらにメロアは眠る。

ふと、自分が眠っている間のフェイはこんな気持ちだったのだろうかと考えた。

胸が張り裂けそうなほどの不安。目覚めないのではないかという恐怖。

フェイは今、どこで何を思っているのだろうか。

ありがとうございましたm(._.)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ