14.謁見の間で
よろしくお願いします!
※ここまでの話を改稿しました
魔法説明辺り本当にわかりにくくてすいません
謁見の間。荘厳な雰囲気に包まれたそこに、今一対の羽を持つ女の姿があった。兵士たちの不躾な視線を浴びながら床に膝をつき、全身を拘束されている。
普段の姿とはかけ離れた、ひどく衰弱している様子の彼女。
(私は本当に生きているのか?)
霞がかった思考の中で、彼女はぼんやりとそう考えた。自らの体を見下ろせば、胸には未だ黒々とした穴が開いているのだ。そこにあった熱は既にない。
血は流れていないが、自分でも生きているのが本当に不思議だった。
(これは……魔法か?)
よくよく見れば、その傷の周りには薄っすらと氷が張っている。凍結されているのだ。血の巡りも感じられない。
(あの時――)
彼女は、後ろから接近してきた者に気付けなかったことを思い出した。そのことと、今自分の体に起きている異変から、彼女はある答えにたどり着く。
(凍人)
聞いたことがあった。魔族の中には氷の魔法を得意とする、特殊な一族がいると。彼らは体温調整の必要がないため、心臓の動きがひどく緩慢だという。
だからあの時彼女は後ろから近づいてくる者に気がつけなかった。呼吸は元より、心音までもが聞こえないほどに、微かなものだったから。
(最悪だ)
いくら凍結されているからといって、このままでは長くは持たない。
それに、こうして生かされているということは、なにかしらの利用価値を見出されたのだろう。そして、周囲のこの様子。厳重な警備に、この謁見の間。
メロアはこれからの展開が容易に想像でき、密かにため息をついた。
*
「我らが神の使いの者よ」
唐突に聞こえたしゃがれ声に、メロアは僅かに顔を上げた。
(意識を失っていたか……)
目の前、先程までは空席だった王座に、大柄な男の姿があった。その横には幾つかの人影が控えている。
アーフェン王ソマレト・バールフ。肖像画などでその姿を見たことはあったが、実際にこうして対面するのは初めてだった。
(できればもう二度と会いたくないものだな)
王の威厳を示す、うねった白い髭。鋭い目は濁った青をしていた。ギラギラと輝き、メロアの全身、両の翼を舐めるように見ている。手にはワインの入ったグラスを持ち、余裕綽々といった風体だ。
メロアは自分を見下ろすその姿を、精一杯の力を込めて睨みつけた。
「貴様が王か?」
やがて緩慢に口を開いたメロアに、周囲から厳しい視線が向けられる。
……あいにく王に対する口のきき方なんて、習った覚えはないのだ。しばらく沈黙が間を支配する。突然響いたのは、王の嘲るような哄笑だった。
「くくっ……天使と聞いてきてみればなるほど。確かに羽は生えているが。……まるで悪魔ではないか」
拘束され、血で汚れた姿。王はまるで虫を見るような目で彼女を見下ろした。さっきまでとは違う、ひどく冷めた瞳。
「……」
メロアは殺意すら込めた目で王を睨みつけるが、王は唇を釣り上げて笑っている。
「薄汚い魔物風情が、王であるこの儂をそんな目で見るというのか」
メロアは目を逸らさない。ただ挑むような目で王を見るだけだ。
「ふん……」
不意に表情を消した王は、横の人影に向かって一言命じた。
「セレー。潰せ」
「御意に」
人影が剣を抜く。鞘走りの微かな音が、謁見の間に響き渡った。セレーと呼ばれた若い男は、メロアの前までつかつかと歩み寄ると、おもむろに剣を振り抜いた。
王を睨みつけるメロアの顔と水平に。肉が断たれる音。
「……っ」
悲鳴は上がらない。メロアは、血の流れる眼球を抑えることもできずに、拘束された体を捩った。
彼女の白い頬に、血混じりの涙が幾つもの筋を作る。男の刃はメロアの黒い瞳を片方、深々と切り裂いていた。
「どうした? まだ一つ残っているぞ」
王が淡々という。男は黙って一度頷くと、再び剣を構えなおした。
メロアは残った片目でなおも王を睨みつける。男の体に遮られた王の姿を焼き付けるように。
やがて口を開き、歌うようにメロアは言う。
「卑しき者よ。この目は我が王のもの。お前の正体を我はしかと見極めたり」
地の底から響くような低い声は、男の動きを止め、王の顔色を一瞬で変えた。どこか恐れを抱いた表情を浮かべる王。メロアは笑みを浮かべると、
「あまり勝手をするなよ、人間。消すのは簡単だ」
その言葉が契機となる。王の手の中でグラスが砕け散った。激昂する王は、静かに命じた。
「セレー、殺せ」
「……」
男が頷き、無言で剣を振りかぶる。
(消される、か)
心残りはない。この男のプライドを最後に逆撫で出来ただけでも満足だった。けれど、もしも叶うならば謝りたかった。巻き込んでしまった彼に。
(ティオ、せめて……生きて)
メロアは瞳を閉じまいとした。この首が飛び、地に落ちるその瞬間まで、強欲な王の姿をこの目に。
男の剣が降ってくる。そして、それはメロアの剥き出しになった白い首筋に
――紅い筋を残して止まった。
男が呆然とするように目を見開いている。
「兄様! 父上! 助けて下さいませ――っ!!」
男と同じ金の髪と青の瞳。涙の浮かんだ瞳は恐怖に見開かれている。その少女は、目深にフードを被ったローブ姿の人物に、鋭いナイフを突きつけられていた。
ローブ姿の人物を見たとき、今の状況も忘れてメロアは思わず小さく笑ってしまった。
(何やってるんだ、あの馬鹿は)
フードの奥の、鋭い目つきが見えた気がしたのだ。
「その女を解放しろ。この娘の命が惜しければな」
少年は高らかにそう宣言した。
ありがとうございました!
思わせぶりなセリフとかブラフ回収頑張ります……。




