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アーフェン  作者: 菜々
Episode.02
28/38

13.魔法

魔法講座です※よくある設定ですよ


よろしくお願いします!

 魔法は簡単に言えば奇跡を叶える力だという。


 王女が服を着なおして身体を隠し、二杯目の紅茶に口をつけたところでライザはそう切り出した。

(俺に魔法を使う才能がある……?)

 ティオはライザが告げた言葉の動揺がまだ抜けていなかったがライザはお構いなしだ。


「そもそも魔法っていうのは、代償として魔力を使うわけだ……さすがにオレにも見えないけど……」


 そこで言葉を切って、宙を眺める仕草をしてみせるライザ。つられて周りを見るが、当然空気中には何もない。

「実は、この空気の中にも常に魔力が漂ってる。ほんの微量だけど」

空気中?

 オネットも横で目を見開いていた。彼女も魔法については詳しいことを知らないようだ。

 それも当たり前。魔法は魔獣を始め亜人族、魔人と呼ばれる者にしか使えない。つまり、人間には振るうことが許されていない特別な力なのだ。

「けど言っちゃえば、魔法を使えるかどうかっていうのは、魔力を認知できるのか、それだけに左右されているんだよ。やり方さえ覚えれば、誰だって使える。

けれど、誰だって自分の認めていない物の力を借りることはできないわけ

それを生まれつき知ってるのが魔族の類ってことだ」

長々と語ったライザは、次にキャンパスを一つ取り出した。

 ティオはといえば、突然始まった謎の魔法セミナーが、いつ終わるのかそれだけを考えていた。生き生きとした笑みを浮かべるライザは、サラサラと簡単な人物像を描いていく。

「ライザ……できれば手短にお願いしますね」

「んー、努力はしとく」

出来上がった人物像に、ライザは王冠を乗せ、髪の毛を描いていく。

 どうやらライザが描いているのは、ティオの横で呆れ顔をしているオネットのようだ。

「オネットが眠っていた理由について、オレは幾つか推測してみた。

まず、亜人、魔人とかの魔法を使えるやつら……そいつらに共通してるのは一つ。魔力を扱う器官を体内に持ってることだ」

ライザは大きめの心臓を人物像の真ん中に描いた。

「もちろん、実体はない。魔力と同じようにその器官は見えない。だから今、これがその器官だとしとく。

 魔法を使う者たちは常にこの器官が魔力で満たされてる。で、器官はまるで血液を全身に送るように魔力を全身に送る」

あえて心臓の形にしたのには、そんな理由もあったらしい。

 ライザがオネットの方をちらりと見る。


「ところで。お前らはギル王国との戦争で、アーフェン王国を最も苦しめたのは何か知っているか?」


 突然の問いに、けれどティオとオネットはともに頷いた。それはこの世界では一般常識と言われる類の話だ。

 ティオも何度か聞かせてもらった。二百年前の戦争についての話だ。その時たしか脅威だったのは……、


「ギル王国の、不死の軍団、だろ?」


 いつか聞いたそんな話の中で、何度も出てきた名前だ。無限に湧いてくる不死の軍勢。聞いただけで恐ろしい話だ。

 ティオは今の今まで大げさな例えだと思っていたが、魔法が実在するならそれは変わってくる。予想通り、ライザはその節の軍団は実在したとあっさりと明かした。

「まあ、実際は死ぬことはあったみたいだぞ? 今は残っていないしな。まるで影のように戦場を這いずりまわり、異常な生命力で人間たちを苦しめた……なあ、そいつらは一体何だったと思う?」

「……魔獣かなんかじゃないのか?」

「違うよ。こいつらの正体は正真正銘」


「人間です」


 ライザの声を遮って断言したのは蒼白になったオネットだ。わずかに震えている指先で、ドレスの裾を握りしめていた。王女のその様子の理由が、ティオにはわからない。それよりも。

「……そう、人間だ。

 闇の王の魔力に侵され、自らの意思を失い人形に成り果てた……影人(ドール)という存在になった、人間の成れの果て」

静かなその言葉が信じられなかった。そんな話聞いたことがなかったからだ。

 ギル王国の兵士が、人間? では二百年前、王国アーフェンが戦争の末滅ぼしたのは人間の国?

 魔人が治める、破滅をひきおこす国というのは嘘だったのか……?

「別に、人間同士が争うのはおかしいことじゃない。それに、ギル王国が魔人の国だっていうのも、あながち間違いではない」

「……けど、それと王女と、何が関係あるっていうんだ?」

ティオは刻々と過ぎていく時間に、次々と浮かぶ疑問からあえて目をそらす。元はと言えば、王女の昏睡の理由を聞いていたのだ。

「せっかちだな。

 まあ、いいか。オレがこの話をしたのは、オネットにちゃんと関係してるさ」

また人物像のキャンパスを持ち出す。

「人間は、魔力を認知できない。よって器官は空っぽのまま。だから簡単に染まる。こんな風にね」

取り出されたのは、暗い藍色の絵の具。それでライザは人物像に色をつけていく。キャンパスの白が見えなくなるほどに、濃く、黒々と。

 ぎゅっと胸元を押さえつけるようにしているオネット。

「まさか……」

「半年間オネットが眠り続けていたのは、闇の魔力に侵されつつあったから。

 つまり、一歩間違えれば今ここにいたのは、オネットではないただの影だったわけだ。そして今、この世界で影人化を防ぐ方法は見つかっていない……はずだった」

「……けれど、私は……私はここにいます。他の誰でもない、王女オネットとして」

オネットは震え声で、けれどはっきりとそういった。そうだ。今の話が本当だとすれば王女オネットとしての意思は無いはずなのだ。

「だからわからない。けれどそう考えれば紋は影人化の後遺症だと説明がつくんだ……」

ライザは真剣な瞳でそう呟いたきり、何も言わなかった。からり。コエルの落としたクッキーの破片が落ちる音が響く。


「これからのことについてお話ししたいと思います」


 静寂を破ったのはオネットの宣言するような声だった。

 影人化という恐ろしい話を聞いて毅然(きぜん)とした態度を見せているオネットが、ティオには眩しく見えた。

「まだわからないことはありますが、私は今ここにいます。それに何も変わりはありません。それよりも、今は天使様を助けましょう」

笑みすら浮かべて見せたオネットを、ライザが一瞬驚いたように見て、それから慈しむような柔らかな笑顔を浮かべた。



「確かなことがあります。私は……眠りから目覚めたとき、ライザの言うような魔力を認知する力を得ていたのです」

 ティオを射抜くような目で見つめたオネット。その目は一体ティオの何を見ているのだろうか。

「この目で私はたくさんことを知りました。知ってしまいました。空気中に魔力が漂っている、というのはわかりませんが……。

 知っていますか? 魔力には色があります。その色は人によって違いますが……私が見てしまったのは、この世の物とは思えないような……」

わずかに歪んだ相貌から、彼女の見てしまった物はどれほどのものなのだろうかと想像する。


「お願いがあるのです」


 目を伏せ、頭を下げティオに懇願するオネット。一国の王女が頭を下げているという異常な事態の中、ティオはまだ事情が飲み込めていなかった。


「俺に何ができるっていうんだ?」


 素直にそう問う。オネットが抱えている事情は計り知れないもので、ただの人間、それも今は侵入者の立場の自分にできることなんてない。

 答えたのは黙り込んでいたライザだった。

「こいつを、うんと危険な目に合わせてやってやれ」

「は?」

ありがとうございました!


魔法については用語解説などを徐々に付け足したいと思います

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