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アーフェン  作者: 菜々
Episode.02
26/38

11.ライザ

よろしくお願いします!

「あなたが今考えていることはおそらく……そうですね。三点、間違っています」

青年が身につけているのは学者然としたローブ。手には分厚い本を持っている。動けないティオに近づいていく青年。


「まず一つ。ここは書斎ではありません。よく言われるのですが――」


 笑みを浮かべながらゆったりと歩き、そのままティオの横を通り過ぎる。

「ここは僕個人の部屋なのです。

ようこそ、と言えばいいでしょうか、侵入者さん?」

その言葉にようやくティオは青年から距離をとった。

「……」

「そんなに身構えないでください。僕にはあなたをどうこうしようという意思は全くありません」

青年はそう言って両手を挙げ、自然な動作で椅子に深く腰掛ける。

「さらに言うなら、二つ目がそれです。僕はあなたの敵ではない」

「……それを信じろって?」

体の力は抜かないままティオは青年を睨み付けた。目の前の青年の胡散臭さに顔をしかめる。また訳のわからない奴に会ってしまった。

 でも、こんな奴でも城の関係者なのだ。うまくいけば情報を得られるかもしれない。

「信じてください」

再びの笑顔。どうしようか思案するティオは、その言葉を聞いて、ふと思ったことを口に出した。


「その喋り方止めろよ」


「……」


 青年の表情が笑みのまま固まった。

「お前、相当猫被ってるだろ? そんな奴信じろって言われても、な」

最初の一言を聞いた時から、正直気持ちが悪かったのだ。何か騙されているような、そんな感じがずっとしていた。

 部屋を沈黙が支配する。

「……これで言いわけ?」

一呼吸の間の後、青年の雰囲気が別人のように変わる。面倒くさそうな手つきでローブを脱ぎ捨て、本を置く。

「あーあ。もうバレちゃったよ。お前、ぼんやりしてると思ったけど、意外と鋭いのな」

髪の毛をかいて笑った青年の様子に、ティオの肩の力が抜けていく。

「いや、つい最近お前みたいな奴に騙されたからな……」

猫を盛大にかぶっていたメロアのことを思う。そう、こんな奴と話している暇はないのだ。扉に目をやったティオに、青年は一瞬迷うような素振りを見せ、


「あーあー……、あの女なら無事だぜ?」


 当たり前のようにそう言った。

「え?」

「大体、オレがここにいるのはあの女のせいだからな」

顔をしかめながらあっさりと話し始めるライザ。

「あの女って……メロアのこと知ってんのか?」

「メロアっていうのか? あの天使女」

なにやらよくわからない。

「だから、あの天使女が捕まったんだよ。おっさ――王が見たいとか言い出すしさ。こっちはいい迷惑だ」

天使女、それはメロアのことで決まりだろう。だが、何故それをこの青年が知っているのかがわからない。それに、彼女が……捕まった?

 と、


「ライザ。そんな言い方で通じると思っているんですか? 少しはその脳みそを動かして下さい」

 

 背後からまたもや聞き覚えのない声。青年の言葉に困惑していたティオは、いっそ思考を放棄したくなった。今度は一体誰なんだ?

「あら……もしかして」

今度こそ、捕まる。覚悟を決めかけたティオに、声はさらなる追い撃ちをかける。

「あなたが星ね!」

「は?」

振り向いたティオに何かがぶつかってくる。それを反射的に受け止め、ティオの体がよろめいた。そして、自分の腕の中にいる少女(・・)を見て、

「ななななななななななな?!」

今度こそ思考を放棄した。


「ああ……なんて眩しいのでしょう」


 光を反射し(きら)めきを宿した金の髪に、緑がかった空色の瞳。この国で彼女のことを知らない人は、一体どれほどいるというのだろう。

 腕の中で満面の笑みを浮かべているのは――第一王女オネット・バールフその人だった。頬を紅潮させて、子供のような無邪気な笑みで見上げてくる。

 仄かな花の香りに目眩(めまい)がした。

ありがとうございます!

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