11.ライザ
よろしくお願いします!
「あなたが今考えていることはおそらく……そうですね。三点、間違っています」
青年が身につけているのは学者然としたローブ。手には分厚い本を持っている。動けないティオに近づいていく青年。
「まず一つ。ここは書斎ではありません。よく言われるのですが――」
笑みを浮かべながらゆったりと歩き、そのままティオの横を通り過ぎる。
「ここは僕個人の部屋なのです。
ようこそ、と言えばいいでしょうか、侵入者さん?」
その言葉にようやくティオは青年から距離をとった。
「……」
「そんなに身構えないでください。僕にはあなたをどうこうしようという意思は全くありません」
青年はそう言って両手を挙げ、自然な動作で椅子に深く腰掛ける。
「さらに言うなら、二つ目がそれです。僕はあなたの敵ではない」
「……それを信じろって?」
体の力は抜かないままティオは青年を睨み付けた。目の前の青年の胡散臭さに顔をしかめる。また訳のわからない奴に会ってしまった。
でも、こんな奴でも城の関係者なのだ。うまくいけば情報を得られるかもしれない。
「信じてください」
再びの笑顔。どうしようか思案するティオは、その言葉を聞いて、ふと思ったことを口に出した。
「その喋り方止めろよ」
「……」
青年の表情が笑みのまま固まった。
「お前、相当猫被ってるだろ? そんな奴信じろって言われても、な」
最初の一言を聞いた時から、正直気持ちが悪かったのだ。何か騙されているような、そんな感じがずっとしていた。
部屋を沈黙が支配する。
「……これで言いわけ?」
一呼吸の間の後、青年の雰囲気が別人のように変わる。面倒くさそうな手つきでローブを脱ぎ捨て、本を置く。
「あーあ。もうバレちゃったよ。お前、ぼんやりしてると思ったけど、意外と鋭いのな」
髪の毛をかいて笑った青年の様子に、ティオの肩の力が抜けていく。
「いや、つい最近お前みたいな奴に騙されたからな……」
猫を盛大にかぶっていたメロアのことを思う。そう、こんな奴と話している暇はないのだ。扉に目をやったティオに、青年は一瞬迷うような素振りを見せ、
「あーあー……、あの女なら無事だぜ?」
当たり前のようにそう言った。
「え?」
「大体、オレがここにいるのはあの女のせいだからな」
顔をしかめながらあっさりと話し始めるライザ。
「あの女って……メロアのこと知ってんのか?」
「メロアっていうのか? あの天使女」
なにやらよくわからない。
「だから、あの天使女が捕まったんだよ。おっさ――王が見たいとか言い出すしさ。こっちはいい迷惑だ」
天使女、それはメロアのことで決まりだろう。だが、何故それをこの青年が知っているのかがわからない。それに、彼女が……捕まった?
と、
「ライザ。そんな言い方で通じると思っているんですか? 少しはその脳みそを動かして下さい」
背後からまたもや聞き覚えのない声。青年の言葉に困惑していたティオは、いっそ思考を放棄したくなった。今度は一体誰なんだ?
「あら……もしかして」
今度こそ、捕まる。覚悟を決めかけたティオに、声はさらなる追い撃ちをかける。
「あなたが星ね!」
「は?」
振り向いたティオに何かがぶつかってくる。それを反射的に受け止め、ティオの体がよろめいた。そして、自分の腕の中にいる少女を見て、
「ななななななななななな?!」
今度こそ思考を放棄した。
「ああ……なんて眩しいのでしょう」
光を反射し煌めきを宿した金の髪に、緑がかった空色の瞳。この国で彼女のことを知らない人は、一体どれほどいるというのだろう。
腕の中で満面の笑みを浮かべているのは――第一王女オネット・バールフその人だった。頬を紅潮させて、子供のような無邪気な笑みで見上げてくる。
仄かな花の香りに目眩がした。
ありがとうございます!




