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アーフェン  作者: 菜々
Episode.02
23/38

08.闇に乗じて

よろしくお願いします!

 舐めてはいけない。王城ルディの警備はこの大陸のどこよりも厳重だ。城の周りには、王城の敷地を囲む壁よりも高い城壁。

 内堀、外堀と二重になっている堀は、かつてのギル王国との激戦の名残だ。深く黒々とした水で未だ満たされている。

 さらには王の私兵である近衛兵の警備を始め、隣接する基地には常に自衛隊が詰めている。

 地理的にも戦力の面でもまさしく難攻不落の巨城なのだ。

 だがそれは。


「私たちには何の問題もないな」


「まあ、そうだけどさ……」


 ティオとメロアがいるのは、実に上空三百メートルの地点。

 再び天使(?)の姿になったメロアは大きく翼を広げ、夜空を悠々と羽ばたいていた。もちろん背中にはティオをしっかり乗せている。

 どんな仕組みになっているのかはわからないが、彼女の体はうっすら光っており、はたから見れば星のようだった。

 果たして一体どれだけの人が気づくと言うのだろう。彼らが今、王城に侵入を果たそうとしているということに。

「いやいや。普通に考えたら気づかれないだろ?」

ティオはそう決め付けていたが、

「……そうだな」

そういうメロアは彼女らしくもなく不安そうに地上の一点をじっと見つめていた。

 それに気づかないティオは、今はどの辺りを飛んでいるのかなどと、能天気にも考えていた。

「……なあ、あとどれくらいなんだ?」

「今、城壁を超えたところだ」

「え?!」

慌てて下を見るが、闇に覆われていて何も見えない。

(こんな簡単にいっていいのか?)

ティオのその疑問はもっともだった。

 もはや今ここがどこかなんて聞く必要はない。ティオの目の前には、城のぼんやりとした灯りが見えていた。


  *


 パーティは終わり、王城も通常の警備に戻った。自衛隊も変則的な日程を終え、今は各隊舎で休んでいるはず……なのだが、


「クロスちゃん、まだ起きてんのかよ」


 アルフレッドが見つけたのは、木の上にいるクロスの姿だった。たまたま散歩しようと外に出たら視界に入ったのだった。


「……」


 クロスは何の反応もしない。相変わらずなクロスの態度をものともせず、アルフレッドは木に手をかける。

 ミシミシと音を立てながら木を登り近づいてくるアルフレッドに、クロスは一瞬だけ目をやった。その視線はすぐに夜空へと戻される。

「もう十二時回っちまうぜ? 寝ないのか」

「見回りだ」

「……そりゃあ熱心なことで」

夜空になにがいるってんだよ……。そう言いたげなアルフレッドの言葉を最後に、場は沈黙に支配される。


「お! 流れ星じゃねえか!」


 突然叫んだアルフレッドの指が指し示したのは、美しく尾を引いた流星。

「綺麗だな」

「……」

食い入るように星を見つめているクロスの横で、心なしか頬を赤くしたアルフレッドが呟いた。

「なあ、知ってるか? 流れ星が願いを叶え――」


「……違う!!」


 アルフレッドの言葉が遮られる。クロスのあげた鋭い声によって。

「え?」

目を見開いたアルフレッドが見たとき、すでに横に彼女はいなかった。

 音もなく木から飛び降り着地し、クロスは駆け出していた。その背に追いすがるアルフレッド。

「待てよ! なんだって言うんだよ!」

彼の必死の呼びかけに、クロスが足を止める。それは奇跡にも等しいことだった。たとえほんの一瞬のことだったとしても。

「お前には関係ない」

明確な拒絶の言葉。

 地に降りたアルフレッドは足を踏み出すのを躊躇い、止まる。クロスの背はすでに闇の奥。彼の手が届かぬ場所に。

「なんだって言うんだよ……」

嘘つきが。

 見回りなんて大嘘だ。あいつはいつだってあそこで空を見ていた。まるで失くしたものを探すように。

 そんなときの彼女は決まってどこか切なげな色を、灰の瞳に浮かべているのだ。いつからだろう。その瞳に映りたい、彼女を振り向かせたいと思ったのは。

 憧れにも似た恋はきっと叶わない。それはわかりきっていた。

 だからせめて……背を押したかった。彼女が失くしたものを見つけられるように。

けれど。


「オレじゃあ、足りないってのか……?」


 吐くように呟いた言葉は、誰一人として聞くことがなく消えていく


 ――――はずだった。


「その通り。哀れなことです」


 突如として聞こえた声。

「誰だっ!」

「さぁ? 誰なのでしょう?」

再びの声。なのに周囲に人影はない。けれど、彼の隊員としての本能が告げていた。危険だ。とにかく逃げろ、と。

 アルフレッドはそれに従い走り出す。敵にあっさり背を向けることになるが……プライド? そんなの知るか!

 だが。

「遅いのですよ君は。それじゃあ届かないのも当たり前です」

アルフレッドは気づいた。すぐ近くにあるはずの隊舎の明かりも、王城の光すらも消えていることに。

 残ったのは、闇。まとわりつくような質量を持った黒。


「な、なンダよ、こレ……!」


 意識が、溶けた。

ありがとうございます(。-_-。)

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