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アーフェン  作者: 菜々
Episode.02
21/38

06.パーティ

よろしくお願いします!

 

 ――どうやら王城で盛大な催し物がされるらしい。それもひどく急な話のようだ。


 クロスがそのことをグレイシャーから聞いたのは、隊で行う会議が始まるほんの少し前のことだった。

 自衛隊では一週間に一度、隊の定例会を開き訓練内容などについて話し合うことが義務付けられている。前回の会議から三日しか経過していない。つまり緊急の召集だった。

 南の大陸の新たな侵攻の予兆があったのか? そう警戒していたクロスに知らされたのが、「王城の催し物」という情報。

(安心した……か?)

胸のうちにわだかまる微妙な感情を持て余しつつ、クロスは会議を終えた。無論、発言はゼロだ。あの男は張り切っていたが、正直興味はあまりなかった。

 いつもの五倍は真剣な顔つきで会議に臨んでいたグレイシャーは、13番隊が王城の警護を任せられたことを重く受け止めていたようだが――。

 正直クロスはこんな時期にパーティを催すこと自体に反対だった。


「で? 結局のところ、クロスちゃんはあいつのことどう思ってるわけ?」


 突然の声。背後から馴れ馴れしく声をかけてきたのは、金髪を油で固めて後ろにセットしている男性隊員だった。

 クロスちゃん……。クロスの眉が一瞬ピクリと動く。男は気づかないようだった。

「まあまあ。ちょっと歩きながら話そうぜ」

男は止まったクロスの背を軽く押した。再び歩き出した彼女の横に、当たり前のように並ぶ。

(こいつは……たしか今回の班で一緒の……)

 考えたが男の名前は思い出せなかった。王城の警護を一緒に任されたことだけは辛うじて思い出せた。

 まあ、とにかくここにいるということはそこそこ強いのだろう。会議に出席するのは、隊の中でも重要な役割を担う者だけだ。

 クロスはそう結論を出たところで無視しようとしたのだが、男はクロスの肩に腕を回してくる。

「あいつ? 心当たりがないな」

さりげなくそれを外しながら、クロスは最初の質問に質問を返した。外したはずの男の腕が、再び肩を抱いているのに顔をしかめながら。

「またまた~! あいつだよ、あいつ。犬野郎のことさ」

男は大げさに驚いたような顔をし、まだ細かいところを話し合っている会議室を親指で指し示した。司令官とグレイシャーが残っているはずの部屋を。

 犬野郎……。ようやく合点がいった。こいつはグレイシャーのことを聞いていたのだ。

 けれども。


「私があいつに何を思うというのだ?」


 クロスは本気でそう聞いた。馴れ馴れしい男は途端に渋面になる。

「それ、本気で言ってるのかい?」

「ああ。私はいつでも本気だ」

「じゃあ、ちゃんと答えてよ~。あいつと君、どんな関係なの?」

部屋までの道のりが、嫌に遠く感じる。

「……別に。ただの同じ隊の者同士なだけだ」

やや慎重に言葉を選び、クロスは淡々と言った。

 男の歩みが止まる。肩に回されたままの腕にひっかかり、クロスは軽くつんのめった。

「おい!」

見上げた男の顔から表情が消えている。

「オレ、見ちゃったんだよね……」

「離せ。なんのことだ」

男の腕が細かく震えている。

 その無機質な瞳に危ういものを感じて、クロスは飛び退き男から距離をとった。腰に下げてある軍刀に手がいきそうなのを、必死に堪える。

「君とグレイシャーが……朝帰りするところを、さ」

「……」

(見られていた? いつ?)

内心の動揺は外に出していないはずだった。

「……なんか言いなよ」

男が笑みを浮かべる。さっきまでのものよりもずっと胡散臭い笑顔。

「それが本当だとして。お前になにか関係はあるのか?」

ようやくそれだけを言った。すっと、男の笑みが深くなる。


「それもそうだね、クロス副指揮官」


 儀礼的な仕草で腰を折ってみせる男。その仕草はなんだか馬鹿にしているようでもあった。

 クロスは自室の扉に手をかける。男は張り付くような笑顔のまま彼女を見ていた。

(ああ、そういえば)

今更になって、入隊したての頃何度かこの男と話したことを思い出す。たしか、こいつは……。

「それでは、アルフォンス。いい夢を」

音一つ立てずに扉が閉まる。後には、男だけが残された。


「……オレ、アルフレッドっつうんだぜ……」


  *


 パーティ当日はつつがなくやってきた。


「今回のパーティは、長らく眠っていた王女の快癒祝い。王族の主催だ。

多くの貴賓(きひん)の参加は元より、民間人の入城も規制が緩められた。決して油断するな。その油断が、我らが王の命取りになるぞ!!」


 指揮官トーマスの声が、重みを伴って響き渡る。

 民間人の入城。普でも面倒な手続きさえすれば誰でも入城可能だが、このような事態にいちいちそんなことはしていられない。

 王室直属の近衛兵が、入城の際に武器の所持や身元の確認だけをするそうだ。

 噂に聞けば、王女たっての願いだと言うが……。王族はパーティの期間中、危険と隣合わせの生活を送ることになる。

 身内で祝っていれば良かっただろうに。クロスは先が思いやられ、思わず宙を見やった。


「自衛隊は守る部隊だ。今こそ本領発揮の時! 

各自……持ち場につけぇえええええ!!」


 吠えるように声をあげながら駆け出す隊員達。波乱の夜が始まろうとしていた。

ありがとうございました!


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