04.錦屋
土日ということで改稿作業をしました
・改行、三点リーダーの差し替え ・・・・・・→……
・各話の題名を付け加え
・誤字脱字の修正
また、重大な矛盾点を発見してしまい書き直した点があるのでお知らせします
・ティオとメロアが出発した「最果ての森」はコエルとティオが訪れたものと同じ森で、ルビー区の最も東に位置します
・王女の眠りの期間を半年に変更しました
また、幕間から物語に影響ない程度に改稿したので、気になる方は読み返してみてください!
色々とごちゃごちゃしていて申し訳ありません
なにか矛盾点等ありましたら連絡お願いします
人、人、人。さすがに王都だけなことはあってルディは恐ろしいほど人が多かった。さらにここは王城に程近い中心街であるため、より一層人の流れは激しい。
「ここは二百年前から変わりないな……酔いそうだ」
隣を歩くメロアがうんざりしたような顔でそんなことを言う。
そもそも二百年前というその言葉がいまいち信じられないが、天使だと言うのだから本当なのだろう。
天使というのはティオが勝手にそう呼んでいるだけで、メロア本人は思うところがあるのだが、彼は勝手にそう納得した。
彼はといえば、こんなにも人がいる場所に来たのは初めてであるはずなのに、あまり動じていない。
(人が多いな……でも、あそこほどではないか)
その思考に自分で疑問を覚える。あそこ、というのは一体どこだ? ティオは自分が思い浮かべた場所を必死に思い出そうとしたが、それは一瞬で街の喧騒に埋もれてしまった。
諦めて前を向く。目の前に広がるのは人の壁。草原の静けさが少し恋しく思えた。
今朝、と言ってもお昼の少し前にメロアに叩き起こされたティオは、彼女と共に街へ出ていた。
昨夜は真夜中であったことと、とにかく宿を探すのに必死だったことが相まって、こうして街をちゃんと見るのはティオにとっては初めてだった。
圧巻、の一言に尽きる。
東西南北どこを見ても人の波。道の左右に立ち並んだ店やテントは、あの手この手で旅人に誘いをかける。そこに並ぶ商品も、ティオにとっては見たことがないものばかりで、思わず一つ一つを手にとってみたくなる。
その度に、メロアの冷たい視線でハッと我に返るのだが……。
「これ、なかなか上物ね」
「あらあら、お嬢さんお目が高い! そちらはエメラルド産の絹を贅沢に使用したものですのよ~」
「へえ……」
「もちろん、全て小人族の手縫で丈夫に仕上げておりますわ」
瞳を輝かせて手に持った腰布を値踏みしているメロア。対する女主人はメロアに買わせようと必死だった。
「……おーい」
ティオの声はまったく聞こえていない様子のメロアに、思わず額に手を当てる。
どこの世界でも女性の買い物は長いと相場が決まっているのだ。仕方ない、この辺で時間を潰すか。そう思ったティオの耳にそれが飛び込んでくる。
―――チリン……チリリン
涼やかなその音色は、向かいの店から聞こえてくるようだ。喧騒の中で不思議と際立って聞こえる鈴の音。
思わず音の発生源に近づいたティオは、板張りの簡単な小屋に、真っ黒な書体で「錦屋」とだけ書かれた看板を掲げた店の前に立っていた。
どこか他の店とは違う佇まいに彼はひどく興味を惹かれ、迷わず入り口を覆っている暖簾に手をかける。
「いらっしゃいませ」
店の中は薄暗いと思っていたティオは、暖簾を潜った途端に飛び込んできた優しい光に目を奪われた。
天井から吊り下がった丸い物体。その紙で出来ている薄い膜のようなものの中で火が揺れていた。
「それは提灯っていうものです」
ふわふわとした頼りなくも思える灯りを見ていたら、さっき挨拶をした声がそう言った。
店の奥から人影が歩み出てくる。中性的な面立ちと、体を覆うような見慣れない服装のせいで、性別の判断がつかない。
声を聞く限り、男のようにも思えるが……。気になって見ていると、店員が首をかしげた。ティオは思考を振り払って目の前の灯……提灯に目を戻す。
耳慣れない言葉。けれど知っているもののような気がした。例によってその違和感はすぐに消えてしまったが。
よくよく見れば、薄い紙の表面には淡い色で花が描かれている。それが薄く影を作り、より一層光を際立たせる。それが無性に気に入って見入っていると、
「お客さん、ラピスラズリの出ですかい?」
店員が嬉しそうにそう言った。
ラピスラズリ。たしかトパーズ区の西側にあったはずだ。けれど、なぜそこの出身だと言うのだろう。それに流れ着くという言い方も気になった。
「だってその髪と目の色……」
店員が不思議そうに言いかけたが、ティオは記憶喪失だなんだと事情を説明するのも面倒に思い、
「ああ、俺はラピスラズリの出身だよ」
と、話を遮って頷いた。店員の柔和な面立ちが、いっそう深い笑みに変わる。彼(?)は客を見る目ではなく、まるで友を見ているような瞳をしていた。もしかしたらラピスラズリ出身なのかもしれない。
「そ、そういえば、さっきからしている音は何なんだ?」
出身をごまかしたことに申し訳なさがこみ上げ、ティオは目をそらしながら聞いた。音が気になっていたのは事実だ。
「ああ、それはこれです」
店員が天井を指差した。
気がつかなかったが、よく見れば天井からたくさんのものが垂れ下がっている。垂れ幕のようなもの、小さな人形が連なったもの。
そのうちの一つ、頼りなく揺れるガラス細工を店員は手に取った。
「これは風鈴です」
風鈴……。字はすんなりと思い浮かんだ。風に音色を与える鈴。
「なんとも涼しげでございましょう?」
「……」
無言で頷くティオ。ドーム型のガラスの中でガラス同士がぶつかり合う音が心に染み渡っていく。
風鈴に手を伸ばしたところで、
「ここにいたのか、ティオ」
暖簾がめくられ、どことなく満足そうな少女の顔が覗く。見れば服装が変わっている。どうやら買い物を満喫したようだった。
「ほら、行くぞ。王城が閉まる」
手招きをするメロアに言いたいことはたくさんあったが、ティオはそのどれもを飲み込んで、店員を振り返った。
何も買わずに去ってしまうのが申し訳なかった。それに、まだ風鈴の音色を聴いていたい。けれど、店主はにっこりと笑うと、まっすぐ指で入り口を指し示す。
「またのお越しを」
結局最後まで彼なのか彼女なのかはわからなかった。
けれど、そんなことがどうでもよくなるほど、店で過ごした時間はティオの心を揺さぶった。店から出ても風鈴の音色が耳の奥に留まっている。
「どうかしたのか?」
新たな腰布を装備しているメロアは純粋に不思議そうだった。あの店のどこがそんなに気に入ったのか、ティオには自分でもよくわからない。
「いや、別に」
またのお越しを、か……。
案外それがすぐに叶いそうな気がして、ティオは後ろを振り向いた。けれど、
「……」
かの店は人ごみに隠れて見ることができなかった。わずかに屋根だけが見える。
「おい、早くしろ!」
メロアに急かされ、走り出す。もっと時間があったのなら、今度はもっとゆっくり店を見よう、ティオは密かにそう決めたのだった。
ありがとうございました!




