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アーフェン  作者: 菜々
Episode.02
17/38

02.空を駆けて

よろしくお願いします!

 闇に慣れきっていた目に、光は致命的だった。目を開いてるはずなのに、視界は白く染まってるだけでなにも見えない。

 だから、ティオがその姿をはっきり見ることができたのは、それからたっぷり三分も経過した後だった。

 森の中の広間は再び闇に閉ざされている。光はその中心に天使を産み落とし、跡形もなく消えていた。

「……」

そう、天使。そう形容するしかないような彼女はそこにいた。

 髪は眩く輝く銀の色。対照的に、瞳は星の煌めきを映す夜空の色。そして、森の広間の中心に立つ彼女には背に一対の翼があった。

 闇がまるで彼女を避けているかのように、暗い中不思議なほどその姿はよく見える。

 白い白鳥の翼を広間の端から端に届くほどに広げ、彼女は笑みを浮かべる。それは、ひどく彼女らしい笑顔。

 だから違和感を拭えない。そう、先ほどまでそこにいたのは確かにメロアだったはずなのだ。

「驚きを隠せない、という顔をしているな」

天使は笑みを深めた。彼女は面白がっているのを隠しもしない。

「メロア、だよな……?」

ティオはようやくそれだけを言った。

「そうだが?」

その口調にようやく納得がいく。ティオはもう一度瞬きをした。

 納得はできたが……信じられない。光が辺りを包んだかと思えば、メロアの姿が変わっていたのだ。これではまるで……魔法のようではないか。

「ただの魔法だよ。正確には魔法を解いたのだがね。

言ったはずだ、下の人間に徹するのは骨が折れると」

ただの魔法? 平然と魔法だと言うメロアを信じられない思いで見つめた。

 魔法、ティオにとってそれは記憶の中だけのものだ。それも、読んだ覚えのない小説に出てきた単語として。

 超常の力。それがまさか存在するというのだろうか。

「おや、あんまり驚いてないようだな」

メロアが片眉を吊り上げる。

 その言葉通り、ティオは自分があまり驚いていないことに気がついていた。

 これでは、まるで魔法のことを知っていたみたいじゃないか。この半年間、魔法の存在をフェイは教えてくれなかったというのに。

「本当に因果なものだ」

メロアがそう呟いたが、ティオはうつむき考え事に没頭している。メロアの瞳が、遠いどこかを見ていたことにも気づかない。

 メロアは軽く首を振ると、ティオに近づいてゆく。ティオはそれにも気づかない。

「さて。それでは行くか」

「……ああ。って」

メロアの言葉に顔を上げたティオは、彼女の顔が僅か数センチのところにあるのに気づき、勢いよく後ずさった。

 頬が若干赤くなっている。なにせ今のメロアは息を呑むほどに美しいのだ。心臓の鼓動が休まらない。

 人間の姿をしていた時も美しかったが、正直今とは比べ物にならない。

 人間の姿……?

「さあ、乗れ」

「……は?」

そう言って背を差し出すメロア。その背に揺れる翼。聞き流してしまっていたが、さっき彼女はなんと言った?

『ただの魔法だよ。正確には魔法を解いたのだがね。言ったはずだ、下の人間に徹するのは骨が折れると』

魔法はもういい。なぜかすんなりと信じられるのだ。

 それよりも、解いた、という言葉。つまり、彼女の真の姿はこっちということになる。

 つまり……それは……メロアは本当は、

「天使……?」

「なんだ藪から棒に。私は確かにそう呼ばれることもあるが……天の使い、だとね」

メロアは首肯してそう付け足した。納得がいかない、というような表情を浮かべている。

 天使という呼称が正しいのか教えてくれなかったが、メロアの様子から少なくとも間違ってはいないだろうと見当をつける。

「……人間じゃないのか?」

「何を今更。だいたい人間は魔法を使えない。それに、この世界には亜人やら化け物やらがうじゃうじゃいるさ」

「は?」

亜人、化け物?

 もう今日で一生分驚いたかもしれない。ティオは何が来ても驚かない自信を持ちつつあった。

「それよりも、早く乗れ」

メロアが軽く舌打ちをして、さらにこっちへにじりよってくる。

 ティオはようやく彼女が何に乗れと言っているのかに思い至った。

「お前に?!」

「他に何がある? お前が自力で飛べるというのなら何も問題はないがな。なんのためにこうして魔法を解いたと思ってるんだ」

「……」

飛べない。飛べるわけがない。

「さっさとしろ」

乗るのか、メロアに。

 メロアは態度の割には少女と呼べるほど華奢な体をしている。小柄な彼女の頭は、ティオの胸の高さにようやく届くほどだった。

 つまり、普通に考えればティオを支えられるはずがないのだ。

 それに、こんな少女に……おんぶされるなど、プライドが許さない。やはり、断ろうと口を開きかけたところで、ティオは固まった。

 いっこうに乗ろうとしないティオにしびれを切らしたメロアがこっちを睨みつけていた。悪魔も尻尾を巻いて逃げ出すような恐ろしい形相で。

 ティオは観念してその肩に手をかけ背に乗る。

 微かにメロアの体が揺れたが、それだけだ。体格の違いは全く問題にならないようだった。

「……この闇だ。どうせ誰も見るまいよ」

メロアの声が下から聞こえてくる。ティオが渋々頷くのと同時に、メロアは翼を動かし一回、空気を打った。

 それだけだ。だが、

「……うおっ!」

突然の上昇に体がついていかない。ティオは後ろに倒れかけた上半身を必死に引き戻した。

「安全は保障しない」

「おいっ!」

二人の体が上空に打ち上げられる。髪を風にはためかせ、まるで流星のように空に一直線に駆け上がる。

 ティオにとっては果てしなく長い時間、二人は上昇を続けた。だが、地上がはるか下に見える場所で、上昇が突然停止する。

 落ちるかと思いきや、まるで縫いとめられたかのように、二人は空中にとどまっていた。

 顔を青くしたティオを気にもせずに、メロアは何かを探し始めた。

 やがて、目的のものを見つけたのだろう。ある方向を指し示し、

「さて、あっちだな」

「あっち、って……どっちだよ! てか、何があるんだよ!」

息も絶え絶えの様子で、それでも律儀にティオはツッコミをいれる。

 対するメロアは平然としている。そして、

「王城。当然だろ」

王城?

 そう聞くつもりだったティオの声を置き去りに、メロアは再び翼を打つ。

 夜空に一筋、星が舞った。

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