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アーフェン  作者: 菜々
Episode.02
16/38

01.闇の中で

第2章にあたります

よろしくお願いします!

 闇一色の世界。

 何もかもが黒で塗りつぶされた宮殿がそこにはあった。神殿のごとく煌びやかな装飾を凝らしながら、その色は全て黒に染め抜かれている。

 異様なその宮殿の最奥。ただ一つ巨大な玉座だけが置かれた広間で、女は不意に目を見開いた。

「……珍しい客が来たものね」

突然降り立った気配に、うっそりと微笑んだその口元には、鋭い牙が覗いている。

 女の頭には山羊の角が生え、まるで蜥蜴のような尾までもが揺れていた。

 まるで、人々が思い描く“悪魔”をそのまま具現化したような、恐ろしくも美しい姿。

 女は歩き出す。その視線の先には、ポツリと置かれた玉座。

 玉座の正面で女は片膝を着き、頭を下げた。血の色をした流れるような髪が床に着くほど頭を低く下げ、数秒。

 何かが動く気配がした。見れば空に見えた玉座には人影のようなものが腰掛けている。

 やがて、どこからともなく声は降ってくる。

『シャウラ……』

そう名を呼ばれ、女は顔を上げた。その顔は喜色に彩られている。

「王よ。……仰せのままに」

感じ入ったように呟き、シャウラはもう一度深く頭を垂れた。

 そして、膝をついたままの姿勢で背後を振り向く。

 ピタリと閉ざされていた広間の扉が今、開かれていた。全てを飲み込むような闇を背に、扉を押し開けたそいつは立っている。

 その人物の正体を誰も知ることはできないだろう。顔を隠すように深くフードを被り、全身をローブで覆っている。

 しかし、シャウラはいっそう微笑みを深くした。彼女はこの人物を知っている。

「世界の歯車がようやく動き出したのだ。お前の望みは?」

だから問う。その真意を図るために。

 やがて返ってきた言葉に、シャウラは一瞬目を見張り、それから声をあげて笑った。

「くっ、くははははっ! なるほど、それが望みか」

シャウラはまた笑い出す。一切反響せずに消えていく笑い声。

 ローブの人物は何も言わない。僅かに息を呑み、広間の奥を見つめていた。

 巨大な玉座の上で、王と称された者は、笑うシャウラの姿を無感情に見ていた。


  *


 森の中は夜になると、いよいよ一寸先も見通せないほど暗くなる。

(断じて、こんな時間に歩くべきではないよな)

 草原の東に広がる“最果ての森”。名のとおり、ルビー区の最も端にある森だ。

 不気味な植物が群生し、どこからともなく魔物の唸り声が空気を揺らす。

 あそこで旅団が丸々一つ行方不明になっただの、人食いの木があるだの、嫌な噂が絶えないそこを、なんの因果かティオは真夜中に歩く羽目に陥っていた。

 足元を頼りなく照らすランプを片手に、ティオは道のようなものをひたすらに歩く。

 遠くから聞こえてくる獣の声に、背筋が冷えるのを味わうのはもう何度目か。

「……!」

木の根につまづき、転びかけたティオは思わず舌打ちを漏らした。

 地面に張り出している木の根を憎々しげに睨み、その目を今度は前方に向ける。

「おい、ちょっと待てよ!」

呼びかけに返事はない。前を進むメロアは無言のままだ。ランプを持っていないというのに、暗さをものともせずに進んでいく。

 ランプが作り出す光の輪から、その背がどんどん遠ざかっていくのを見て、ティオはため息をついた。さっきからずっとこんな調子だ。


『森にいくぞ』

 

 準備ができたと伝えた後、メロアは当たり前のようにそう言ったのだった。目を白黒させたティオとコエルだが、メロアの決定に逆らうことはできない。

 フェイの居場所を知っているのは彼女だけなのだ。

 歩き出して、約一時間。森に入った後もメロアは何も教えてくれずじまいだった。

「なんだって言うんだ……」

肩の上のコエルも同意するように頷いている。メロアは振り返りもしない。

 ティオはまた大きくため息をついてその背を追いかけた。


 そうして歩き続けて、数十分が過ぎた頃だった。

 前を行くメロアが突然立ち止まる。

 肩を上下させたティオは、その背にぶつかりかけ悪態を吐くが、メロアはひたすらに前を見つめている。

「メロア……?」

一体何があるんだ?

 ティオはメロアを軽く押しのけ、前へ出た。

 目に入ったそこは、開けた広場のようになっている場所だった。

 ランプで照らしてみると、虫が草むらから飛び出し僅かな音を立てた。でもそれだけだ。広間のようになったそこには何もない。

 ただ、少しだけ既視感を覚える。自分はつい最近ここにきた気がする。

「キュ!」

記憶を探っているとコエルが肩から滑り落ち、地面を駆けて行った。その背をみて思い出す。

「ここは……」

そう、そこはフェイを探して迷い込んだ場所だった。

 昼間とは様相が一変しているが、確かにあの時フェイの痕跡を追い、たどり着いた場所。

「ここは何なんだ?」

「さてね」

背後からの声。メロアは立ち止まったティオに言い前へ歩み出る。

「……はじめるか」

そのまま広間の真ん中まで進み、メロアが振り返る。

「……なんでここに来たんだ?」

ティオの問いに、メロアは意味ありげに微笑む。


「草原はひどく目立つ」


 瞬間、溢れ出た光でティオの視界は塗りつぶされた。

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