12.旅立ち
改稿追いつきませんでした...PCが使えたら...!!
※元々は幕間とひと続きだったのでこの話も一人称です。
『めんどくさい』
それがフェイの口癖だった。そう気づいたのは一緒に暮らして一ヶ月が過ぎたあたりだったか。
賢者として色んな人に頼られることも、時には階段を上ることすら、めんどくさいと言っていた。
一度、聞いたことがある。フェイの部屋は三階だ。俺の部屋は二階にある。
どうして、わざわざ一番高いところを選ぶのかずっと不思議に思っていたのだ。
あいつの性格だったら最悪地下に作ってもおかしくない。降りるだけだ。
理由を聞いた俺に、フェイはいたずら好きの子供のように笑い、何も答えてはくれなかった。
けれど今日その理由がやっとわかった。
俺はフェイの部屋にいた。
(――何もない)
あれほど物で溢れていたのが幻ではないかと思えてしまうくらい、空白が広がった部屋。ローブの一枚も残ってない。
ここに来たのは、見納めになるかもしれない家をもう一度じっくりと見ておきたいから。
今夜、俺はここを出ることになっている。未だ謎の多い人物、メロアについていくのだ。
何故出発が夜なのかをメロアは教えてくれなかった。どうせなら明るいうちに進んでおけばいいのに、よくわからない。
それだけじゃない。行き先や方法の一切をあいつは教えてくれない。
ただ、これから出るのは先の見えない旅。安全は保障できないと言っていた。
けれど自分の意志で決めたことなのだ。
「……」
この部屋に立っていると色々なことが頭をよぎる。
俺が初めて外を認識した日のこと。この部屋は、まだゴミ屋敷の様相を晒していた。
弟子としての初仕事。片付け中にフェイを何回も怒鳴ったせいで、いやに疲れたのを思い出す。
フェイに髪を切ってもらったこともあった。コエルを初めて見た時のこと、ここで多くの事を教えてもらった時のこと。
思い出せることに限りはない。半年はこんなにも速く過ぎ去っていった。
そして、目の前で夕日が沈んでいく。
待ちわびていた、どこか避けたいとも思っていた夜がやってくるのだ。
そうして、日が完全に沈む直前。
「……!」
三階の窓。この家で唯一丘が望めるそこから見えた光景に、俺は思わず息を飲んだ。
日が丘に飲み込まれていく。辺り一面に光を振りまきながら日が沈んでいく。照らされた草原は、あたかも光の海のようだった。
そうして、日が完全に飲み込まれたその瞬間。世界が一瞬止まってしまったかのような錯覚を覚える。
それは、まるで世界の終わりのようだった。光なき世界。
永遠にも思われた一瞬。眩いばかり輝く星々に塗り替えられる夜空。世界が、生まれた……。
「相変わらず美しいな」
気づけばメロアが隣に立っていた。窓の外を無表情に見つめている。
「フェイは……これが見たかったんだな」
返事は期待していない。俺もメロアも黙ったまま、世界が夜へと移り変わる様をただただ見つめていた。
「さて、行こうか」
「ああ」
メロアが窓に背を向ける。家の中は完全に闇に閉ざされていた。ランプに火は点けない。
ここに再び戻ってくることがあるのなら、その時はあの景色をフェイと見たい。
階段を下りると、肩にコエルを乗せたメロアが、待ちくたびれた、というような顔をして立っていた。
その視線が俺の体を眺め回す。なんなんだ?
「……まさか、お前そんな格好で行くつもりか?」
頰が引きつっていた。
何か問題があるのだろうか? 俺はもう一度自分の姿を確認する。特に何もないはず。
「お前は……そんな野暮ったいローブ……」
「?」
野暮ったい、だろうか。
やっぱり俺はメロアが何をそんなに気にしているのか分からなかった。そもそも俺はローブ以外に服を持っていない。
「……まあ、良い。着るものは街でいくらでも手に入る。
……お前に教えておくべきことは多そうだ」
メロアが諦めを含んだ口調で言った。そして突然真剣な顔で見てくる。自然と背筋が伸びた。
「泣き言は禁止だ」
「……ああ」
「覚悟はいいな?」
「ああ!」
俺は精一杯力を込め、叩きつけるように答えた。メロアが笑う。もはや見慣れた、彼女独特の妖しい笑みだ。
この旅路の終わりはまだ誰にも分からない。正直不安すら感じている。この先にフェイはいるのか。あいつは何を考えているのか。分からないことだらけで、おかしくなってしまいそうだ。
それでも、進めばその答えに一歩でも近づける――そう信じて。
今は、前へ。
Episode.01はこれで終了です
章を追うごとに長くなっていきますが、どうかよろしくお願いしますm(._.)m