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【番外編】妖精とクマ  作者: さぁこ/結城敦子
【雨宮姫の結婚】
11/16

中編(冬馬視点)

 テレビ出演は苦手だ。

 しかもバラエティ番組なんて、絶対、向いていない。

 それなのに、俺は今、その収録スタジオにいる。


 有名人を集めて、いろいろなエピソードを披露する、という番組に出ているのである。

 今回はスペシャル版と言うことで、有名人と家族が何組か呼ばれている。

 呼ばれたのは俺の義兄であり、義父である椛島真中だ。

 テレビ局側は「娘さんを〜」という申し出だったけど、それは俺が止めた。

 それでなくとも、真白ちゃんを知っている出版、芸能関係者から様々なスカウトが来て断るのに苦慮していると言うのに、これ以上、人目に晒したくない。

 だったら、自分が出る。

 

 ……我ながら独占欲が強い。

 だが、エリィも旦那である星野満顕を避けて、弟を出してきたところを見ると、別におかしい訳ではないようで、ホッとした。


 そう、同じ番組にエリィも招かれていた。

 斜め後ろに、上の弟の稔君と座っている。

 一昨日会った時もなかなかの美男子ぶりだったが、今日はさらに磨きがかかっている。

 牧田や雨宮一のような涼しげな優男風ではなく、ガッチリとした体躯の美丈夫系だ。

 彼の登場に、観覧者の若い女性達から悲鳴に似たため息が漏れた。

 真白ちゃんですら、彼の顔をチラチラ見ていたので、俺はつい、嫉妬心にかられてしまったほどだ。


 しかし、それは全くの誤解だった。

 ―――ちょっとだけ、真白ちゃんの浮気を疑っていた方がマシだったと思った。

 それくらい面倒な事態になっていた。


 雨宮家比で年頃を過ぎつつある為、どこに嫁がせるのかよほど選んでいるのではないか、とその去就が俄然、注目され始めた雨宮姫が、どうも、エリィの弟・稔にご執心のようなのだ。

 真白ちゃんは、エリィや同好会の会長・副会長の件で味を占めたのか、やり手ば……もとい、恋のキューピット役に目覚めてしまって、いろんなカップル誕生に首を突っ込んでいた。

 大抵は上手くいっているが、こと、人間関係、しかも、男女の恋愛関係は分からないものである。

 そんな危なっかしい趣味に没頭するより、俺との関係に耽溺してくれればいいのに。


 雨宮姫に至っては、その通り、互いの気持ちだけでなんとかなる問題ではない上に、相手の気持ちもよく分からない。

 エリィ曰く、稔君はそちらの方面には疎いらしい。

 ―――ただ、と鈍感な男の姉は口を濁した。


 『自分が結婚の話題を出したら話を逸らされた』

 『その時の話題が、雨宮家に行って姫ちゃんに会った話だった』


 潜在的意識に、姫ちゃんへの気持ちがあったのではないか、と後から感じたそうだ。


 ちらりとエリィの方を見ると、彼女も同じことを考えていたのか、頷いた。

 美容の為に、眉間に皺を寄せないように気を付けていると言っていた彼女が、その戒めを破っていた。



「何を視線で会話している?浮気か?真白に言いつけるぞ」


 隣で厄介な人から、話しかけられた。


「ご心配なく、義父上ちちうえ

俺は真白ちゃん一筋ですから」


 ニッコリ笑って返した所で、司会者が入って来て、番組収録が始まった。


 旬の芸能人が何人も出ているのに、集中的に話を振られて、変な汗が出る。

 

 実は小野寺家の若様・小野寺文好だった椛島真中と、その後を継ぐことになった小野寺冬馬。

 それだけでも扇情的だったのに、義理の兄弟であり、義理の親子となった関係は、人々の興味を掻き立てている。

 言いたくないけど、この番組の目玉は、俺と椛島真中だ。

 次点はエリィ。

 星野満顕を出してくれたら、視線はそっちに向いただろうに。

 もっとも、想像以上の弟のいい男っぷりに、司会者も俺だけには集中出来ないだろう。

 交互に話題を振ってくる。


「とても可愛らしいお嫁さんだそうじゃないですか?

羨ましいなぁ〜。

一目惚れ?どんな印象だったんですか?」

 

 捲し立てるように聞かれると、こちらも早く話さなければ、という気持ちになってしまう。

 それが手なのだ。ゆっくりと考えて答えないと。

 下手なことを話して、さらに突っ込まれて、泥沼化なんて、御免こうむりたい。


「初めて会った印象ですか?」


「そうそう。初めて会った時」


「―――妖怪?」


「へっ?」


 考えた割に、返答がおかしい。

 俺は頭を抱えてしまった。


「冬馬さん……ないわ、妖怪は……」


 後ろでエリィも呆れていた。

 彼女は幼馴染と結婚したので、最初の印象も何も無い。

 「母親のお腹に居る時からの知り合いですから」で、済んでいた。


「あんまり可愛いので、あやかしの類かと」

 

 言いつくろったけど、魑魅魍魎から抜け出せない。

 真白ちゃんが妖精なのはまだ秘密のままだったので、『妖精』という単語が使えないのが痛い。

 妖怪と妖精なんて漢字で一文字違いだし、似たようなものじゃないか。


「なんですかそりゃあ」


 司会者がずっこけるフリをした。


「娘さんはどうだったんでしょうかね?」


 頓珍漢な回答をする俺に見切りをつけて、椛島真中に質問を回した。

 それは……聞いてみたい。

 彼女が俺に会った頃、どんな様子だったか知りたい!

 父親は、その頃、小説の執筆に忙しくて、娘の様子などまともに観察していなかっただろうが。


「……まったく不愉快なことに、しばらくコーヒーが不味くなった。

娘はどうもコーヒーを見ると、心、ここにあらずになってしまってね」


「恋する乙女って感じですね。

小野寺の若社長はコーヒー屋さんになったくらいコーヒー、お好きですもんねぇ」


 やや違うが、大体そうだ。

 

 それにしても意外だ。

 椛島真中が娘の様子に気が付いていたとは……と言うか、そうか、真白ちゃんも俺のことを想って、そんな風だったんだ。

 嬉しくて自然に頬がにやけてしまったのだろう、隣からの視線が痛い。


「真中先生はどうだったんですか?

娘さんの想い人に会ってみて。しかも、因縁の相手でしょう?」


 今度の質問も興味深い。

 さすが凄腕の人気司会者。みんなが知りたいことを攻めてくる。


「どう?……そうだね……娘のことを好きすぎて気持ち悪い男だな、と思った」


 俺の長年の友人の牧田の言葉ですよね、それ?

 初対面って……あれか、『妖精』の許可を貰いに行った時か。


「そんな気持ち悪い真似なんかしていませんよ」


「そうか?父親の前で、まだ女子高校生の娘といちゃいちゃしていたくせに」


「―――してませんよ!!!」


 何を勝手なことを全国放送の電波に乗せようとしているんですか!

 レモンメレンゲパイご馳走したじゃないですか!

 思わず、声を荒げてしまったら「はいはい、勝手な発言はしないで下さいね〜」と注意されてしまった。


「まぁまぁ!あなた、女子高校生と付き合っていたの!?」


 反対側の隣の席から甲高い声が上がった。

 勝手な発言をしてはいけない場なのに、今度はストップがかからなかった。

 面白そうな顔で出演者、観覧者がその女性を見ていた。


 大御所の女優だ。

 世情に疎い、と言うか、ゴシップには興味がないのだろう。俺と真白ちゃんのことも知らないらしい。

 それでいいと思う。

 出来れば、知らないでいて欲しかった。


「いえ……その頃はまだ付き合っているとは……」


 言えないよな?大丈夫だよな?

 過去を思い出してみると、危ない所はあったが、ギリギリセーフのはずだ。


「でも、知り合ってはいたの?」


「はい。顔見知り程度には……」


「あなたもお若そうだけど、じゃあ、お嫁さんは、今、いくつなの?」


「―――二十歳です」


 知っているくせに、司会者と観覧席から「おお〜」という声が上がる。

 改めて一から確認されるのは、かなり恥ずかしい。


「そうなんですよ!噂じゃ、相当、溺愛していると有名なんですよ。

芸能人だと誰に似ているんですか?写真とか持ってないんですか?見てみたいなぁ〜。ご自慢のお嫁さんを」


 司会者がここぞとばかり盛り上げてくる。


「……芸能人で?」


 真白ちゃんに似ている人間。

 斜め上のエリィを見る。雰囲気は似ているけど、顔はそんなでもない。

 では―――と、隣を見る。

 顔立ちは似ているけど、性格が悪すぎる。


「娘は私に似ていますよ」


「あら!まぁ!娘さん???」


「ええ、この男は私の義弟であり、義理の息子なんです」


 事態を飲み込めないのか、目を白黒させた。


「どういうことなのかしら?」


 そこで、司会者が軽く事情を説明すると、「まぁまぁまぁ」と言って納得したのかしないのか、俺の顔を見た。

 俄然、興味がわいてきたようだ。


「お写真ないの?」


 そう言われても、出す気はない。

 これ以上、真白ちゃんの話題を続けたくないのに、司会者とその場の空気は提出を要求してくる。


「持ってないんですか?」


 持ってない訳がない。携帯にもたくさん入ってるし、名刺入れに結婚式の前撮り写真も入っている。

 勿論、真白ちゃん単独の花嫁衣裳の写真だ。隣のクマみたいな男の写真は必要ない。

 可憐で愛くるしい花嫁姿の真白ちゃんは、本当に可愛かったなぁ。


「ほら、気持ち悪い」


「―――いいじゃないですか!」


「やっぱり、女子高校生時代からお付合いしてたんじゃないですか?」


「そんなこと、していません」


 椛島真中に冷ややかに見られ、司会者からはあらぬ疑いをかけられた。

 否定したら、今度はエリィだ。

 もう、勘弁して欲しい。 


「ええ〜、そうかなぁ?」


「そうですよ。エリィ、あの頃は、まだ私達、付き合ってましたよね?

忘れたんですか?」


 自分に話題を振られるのが嫌なくせに、だからこそか、爆弾発言をしそうなエリィを牽制してみる。


「そうそう、私、二股かけられていたの」


「嘘吐かないで下さい。そっちも、かけてましたよね?」


「いいえー。彼と再会したのは、あなたがフランスに行っちゃった後だもの。

フランスと言えば!やっぱりそうじゃないの。

あなた真白ちゃんが高校生の頃に手を出してた!」


 美しいモデルが朗らかに、俺を嵌めた。

 なんてこと言うんだ!!!


「そんなこと―――な……い……か???」


 まずい。断言出来ない。


「お前……うちの娘が高校生の時からそんなふしだらな真似をしていたのか?」


 テレビ用と言うことで、変っているけど知的で素敵な小説家の椛島真中を装っていた男の本性が透けて見える。


「じゅうはちにはなってました……」


 高校生だったけど、卒業式は済ませてたし、ロスタイム分は大目に見て欲しい。

 それにキスしかしてない!あと、ちょっと触っただけだ!


「イエローカードくらいは出てそうですね」


 サッカー好きの司会者が冗談めいた声で、割って入って来た。

 自分を無視して番組が盛り上がるのは不本意だったらしいし、あんまり過激な話になると放送では使えなくなるからだろう。

 

「奥さんと何歳差なの?」


 自由な大女優がまた不規則発言をした。この人はいつもこうらしい。司会者も諦めているようだ。


「十四歳差です」


「まぁ!じゃあ、私達と同じくらいね。

私も主人とは十五歳差なのよ〜」


 この人……良い人かもしれない。

 やんわりと話題を自分の方に持って行ってくれた。

 女優を挟んで座っている男性が、彼女の夫らしい。

 若い……なるほど、逆なのか。

 

 それから、しばらくは若い夫とののろけ話を聞かせてもらった。

 世代間ギャップの話では、つい、同意してしまって、危なくこっちに話題が戻る所だった。

 夫という男性と俺は、ほぼ同世代なのだが、どちらも違う方向で苦労しているらしい。

 幸いなのは、俺も真白ちゃんもテレビはあまり見ないで育ったので、そちらで話の食い違いは少ないことだ。


「そういうのも面白いですからね」


 爽やかに女優の夫は言った。


「いいですね〜幸せな悩みってやつですね。

そちらの稔君はかなりのイケメンですが彼女はいるんですか?」


「いいえ。研究が恋人みたないものです」


 そろそろ話題を変えたくなったのか、ずっと気になっていたのか、今度はエリィの弟に舵をきる。

 稔の答えに、観覧者席は沸いた。


「ここに綺麗なお嬢さん方が居ますが、どうですか〜?

好みのタイプはあります???」


「―――好みのタイプ???」


「アピールしておきな、テレビで!折角だから!

ねぇ、エリィも自慢の弟さんに可愛い彼女が出来たら嬉しいですよね?」


「ええ。稔に相応しい彼女なら大歓迎ですわ!」


 いやに力が入った答えは、雨宮家が念頭にあったからだろう。

 而して、弟の方の返事は「瞳が澄んだ子犬みたいに元気な子」と言うものだった。

 俺としてみれば、雨宮姫とその印象はかけ離れていたので、胸をなでおろしたのだが、エリィの目が三角になっていた。

 どうやら困った答えらしい。


 それから「動物が好きなんですか〜」とか「小さい頃のお姉さんはどんな人だったのですか?」という当たり障りのない会話が繰り広げられている中、俺は、やや暇を持て余し、スタジオ内を見回す余裕が出来た。

 入り口近くの、暗くなっている場所に、人影を見つけた。

 誰を見間違っても、彼女だけは分かる、そんな人影。


 真白ちゃんだ!


 隣の男をつっつくと、そちらも驚いた顔をした。

 父親も知らなかったらしい。

 しかし、落ち着いて目を凝らすと、もう一人いるのが分かった。


 真白ちゃんと顔立ちが一番よく似ている子……雨宮姫。


 ああ、俺の可愛いお嫁さんは、どうしても親友に加担したいらしい。

 研究について語り始めた稔君を、どうにか止めようとしているエリィが、こちらの視線に気づく。

 ただならぬ様子に、不審そうに俺の視線を追って、唖然、と言った顔になりかけた。

 それでもカメラの前で、平然としか顔を作り直し、弟の熱弁に叱責を加え、司会者及び、周りに「研究のことになると見境がなくなって。うちの旦那と似ているの」と弁解した。

 続けて「話すのなら、バイアスロンの競技についてしなさい。豊も……ああ、もう一人の弟なんですけど、二人ともその競技ではなかなかの成績なんですよ」と付け加えた。


 エリィにしてみれば、競技の話をして欲しかったのだろうが、司会者はもう一人の弟に喰いついた。

 この姉と弟を見れば、末っ子の美形度も伺えるというものだ。

 実際、一昨日会った豊君は、精悍な顔つきのこれまた好青年だった。

 あの家、すごいな……と言ったら、真白ちゃんと武熊さんに、「小野寺三兄弟だって、負けてませんよ!」と力説してもらった。

 二人の贔屓目が温かくて涙が出るよ……。


 と、感動している場合ではない。 


 間違いなくエリィの弟・稔目当てでやって来た姫ちゃんをどうあしらうかの方が先決だ。

 あの子は、俺に勘違いの感情を抱いて居た時もなかなかの積極性だった。

 今度の感情が勘違いなのか、本気なのか分からない。

 

 だが、彼女は『雨宮財閥のご令嬢』の立場を利用して、追っかけてくる。

 今、ここに居るのだって、そうなのだろう。

 雨宮財閥はこのテレビ局にとって大スポンサー様なのだから。



 真白ちゃんが見ていることもあって、下手な発言は出来ない緊張感から、収録はやたら長く感じ、出来ればもう二度と出演したくない。

 隣の席の大御所女優や他の出演者、司会者、スタッフに挨拶をして、愛しい人の元に行く。


「真白ちゃん、来てたの?驚いたよ。姫ちゃんも」


 二人に話しかけながら、後ろ手で、エリィを合図する。

 撤収するスタッフと観覧者に紛れて、二人をスタジオから出したかったのだが、律儀な稔君は俺に挨拶をして行こうと思ったらしい。

 止める間もなく、こちらに来て……雨宮家のお姫様を見つけた。


「やぁ、こんにちは」


「あ……はい」


 押しかけて来た勢いはどこへやら、大人しいご令嬢のようになってしまった。


「先日は申し訳ないことをいたしました」


「いえ、気にしないで下さい。

……そりゃあ、いきなり鈍器のようなもので殴りかかられた時は驚きましたが、子犬を守る為だったのですものね。

仕方が無いことです」


 はぁあああああ?鈍器のようなもので殴りかかられた?

 この見た目清楚で非力そうなお嬢様が???


 そりゃあ……インパクトのある出会いだ。

 忘れられないかもしれない。


「子犬は元気ですか?」


「はい。稔さんに教わった通り、餌に少し工夫をしてみましたら、よく食べるようになりました。

ありがとうございます」


 優雅に頭を下げる。

 そんな姿に、稔君は出来の良い生徒に向けるような微笑を投げかけている。

 どう見ても、恋愛感情は無さそうだけど、姉はそうは見ていない。


 芸能人がすれ違いざまに真白ちゃんを見て、眼を見張っていく。

 先ほどの大御所女優もその一人だった。

 どうだ、俺の真白ちゃんは、そこら辺のアイドルより可愛いだろう!可憐だろう!

 でも、テレビには出さないぞ。


 真白ちゃんについてきた武熊さんと、雨宮家の護衛が睨みを効かしている。


「エリィ、俺たち目立ってる」


「ええ、美人姉弟ですもの。慣れているわ」


「え?俺の真白ちゃんが可愛いだからだろ?」


「―――それも含めてね」


「何、その間」


「べつにー」



「姉さん、これから雨宮家に行こうと思うんですが」


 くだらない張り合いをしている間に、話がまとまってしまった……。


「今から?そんな、ご迷惑よ」


「いいえ。子犬のことをもっと教えて欲しいのです。

祖父も感心しておりました。いけませんか?」


 かつて真白ちゃんは俺に言ったことがある。

 「姫ちゃんのお願い事は断れないのだ」と。

 断ってはいけない気分にさせる。

 真のお嬢様の威力である。

 俺に効かなかったのは、真白ちゃんという免疫があったからに違いない。

 彼女がいないという稔君には、それがなかった。

 エリィにも効いた。


 つまり、エリィと弟は、雨宮邸に行くことになった。


 俺は遠慮することにした。

 この近くに真白ちゃんが行きたがっていたカフェがあることを思い出して、それを餌に釣った。

 父親である椛島真中もついて来たけど……まぁ、雨宮邸に行くよりはマシかな……と思った。


 夜にエリィから電話で散々、裏切り者扱いされたけど、こっちは雨宮家の縁続きの身の上に、商売上での重要な家だ。

 あまり目をつけられたくない。

 その電話を受けている間、真白ちゃんは真白ちゃんで、姫ちゃんからの長い、長い恋愛相談を受けていた。

 こちらの用事が済んでも、終わる気配がない。


 おかげで、先に一人で寝る羽目になった。

 いつもは真白ちゃんが先に寝ていて、温もりに包まれている布団が冷たい。

 出張先でもないのに、枕をお供にしないといけないなんて、やるせない。

 侘しい。

 なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ。


 このままこの問題が長引けば、真白ちゃんとの新婚生活に支障が出そうだ。

 ここは覚悟を決めて真白ちゃんの応援をするしかないか。

 協力のお願いもされてしまったし。断ったら、悲しまれる。

 雨宮家に疎まれるよりも、俺はお嫁さんとの仲が壊れる方がよっぼど怖いんだよ、俺は。


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