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猫のシロ(冬編、冬馬視点)

※時系列としては、本編【終章】の第五話と第六話の間、婚約が決まってから、初めての冬の話となっています。

 用事があって小野寺邸に帰ったある日、自室に戻って着替えようと寝室に入ると、いつもきっちりベッドメイキングされているベッドの中央がわずかに膨らんでいた。

 何か入っている?

 そっと捲って見ると、そこには小さな白い毛の塊があった。

 人の気配に気づくと、その塊は、ゆっくりと解けていった。

 耳が生えていて、尻尾もある。

 開いた目は透き通ったブルー。

 『にゃあん』と鳴いた。


「ね、猫ぉ!?!?」


 思わず素っ頓狂な声があがった。

 なんで自分のベッドに猫がいるんだ。


 事情が掴めない俺の腕に、猫が擦り寄ってくる。

 よくよく見ると、まだ小さい子猫のようで、なかなかの美猫だった。

 血統書が付いているのかもしれない。


 小野寺邸で猫を飼ったという話は聞いてないけど。

 抱き上げても、抵抗しない。


「……メスだな」


 人懐っこいところを見ると、やっぱり飼い猫かな、と思っていると、俺が帰って来たと聞いた、紅子と緑子が入って来た。


「冬おじさま〜」


「おじさま〜」


「「ああ! シロちゃん!!」」


 二人一緒に声を上げた。

 どうやら、この猫は双子の猫らしい。

 ――と、思いきや、事情をよくよく聞いてみると、バレエの教室の近くにある公園で拾ってきた猫ということが分かった。

 それをこっそり持ち込んで、飼おうとしたら、居なくなっていたので、探していたそうだ。


 つまり、親に内緒。

 しかも、どう見ても捨て猫という感じではない。

 きっと本当の飼い主が居るに違いないのを勝手に連れてきたとしか思えない。


「「お母さんにはいわないでー」」


 泣き叫ぶ二人と、俺からどうしても離れない子猫を連れて、事情を説明しに居間行き、案の定、双子は大目玉を食らった。

 可哀想だけど、見逃せる訳がない。


 秋生はバレエ教室に連絡をし、事情を説明して、何か情報があったら教えてもらうことにし、夏樹は餌とトイレの確保に走った。


 そう言えば、夏樹も公園の片隅で、捨て猫をこっそり飼おうとしたな。

 自分たちの口も塞げないくらいの食糧事情だったため、敢え無く挫折して、兄弟三人で、引き取り先を探しまわったものだ。

 そんな過去のある夏樹は、猫好きだったようだが、子猫はまったく、末の弟に懐かなかった。

 それどころか、近づけば威嚇する。爪を立てる。餌も食べない。


「なんでだよ〜」


「シロ〜、シロおいで!」


「シロ、ミルクあるよ!」


 ガックリした夏樹を余所に、子猫は双子にも見向きもせず、俺の膝の上で毛づくろいをしていた。


「なんか、すごくムカつくんだけど、その猫。名前もなんかムカつくし!!」


『にゃあ!』


 勝ち誇ったように子猫が鳴いた。


 それ以来、子猫のシロは、俺の側を離れなかった。

 ご飯も俺の手からしか食べないので、双子の要請で、会社にまで連れて行く羽目になった。


「冬おじさまがいないとシロ、ごはんたべないの」


「おひる食べないの、おなかすいて、かわいそう」


 トイレはすぐに覚えて、さすがにその件では手を煩わせないのだけは、有難かった。

 ただ、会社に猫を連れてくるなんて、社長としてどうかと思うよ。

 それでも、この子猫が愛想良かったらまだ助かるのに、俺以外にはまったく懐かない。

 可愛い可愛いと寄ってくる女子社員への威嚇のすさまじさは、普段のおっとりとした様子からは想像できないほどだ。


 もっとも、牧田にだけは、ほんのわずかに心を許しているようで、どうしても猫から離れていなければいけない時に限っては、遊び相手になってくれる。


「シロちゃん、ほら、ほーら」


 取引先との会合を終えて、戻ってくると、秘書が猫じゃらし片手に、必死で遊んでいた。

 仕事とは言え、社長室でいい大人が猫と猫じゃらしで遊んでいるって、シュールな絵だよな、まったく。


『にゃん!!』


 さっきまで夢中で遊んでいた猫が、俺を見ると尻尾をぴんと立てて、駆け寄ってきた。

 抱き上げると、ミルクの香りがする。


「ただいま、シロ。いい子にしていたか?」


 尋ねると、甘えた声で鳴いた。


『にゃぁん』


「お帰りなさい、社長。どうでした?」


 ぐったりとした様子の秘書が、それでも仕事の成果を聞いてきた。


「上手くいったよ。

どうも先方が猫好きだったみたいで。

ほら、スーツにさ、猫の毛がついているのを見られて。

……シロの写真を見せたらデレデレで、話が弾んだ」


「……見た目だけなら、可愛いですからね、その猫。

しかし、あんなに気を付けて取ったのに、猫の毛って、しつこいですね。

今度外出の時は、服ごと替えるべきです。

今回は上手くいきましたが、猫嫌いや犬好き、アレルギー持ちの人もいますから」


 シロの毛は、その名の通り白いから、暗い色のスーツだと、ひどく目立つのだ。

 牧田の指摘に頷き、猫の毛に汚染されていない、マンションの方のクローゼットから何着かスーツを持ってくるようにお願いした。

 猫が来て以来、ずっと小野寺邸で暮らしている。双子たちがシロは自分たちの猫だと主張し、毎日、帰ってくることを要求しているからだ。

 あの二人には、そろそろ我慢とか忍耐を教えるべきだと思う。

 それからこの子猫にも。

 可愛いからって、何をやってもいいとは限らない。

 大体、俺の真白ちゃんはそれはそれは可愛いらしいのに、慎み深くて、我儘なんてたまにしか言わないぞ。

 真白ちゃんだったら、いくら我儘を言っても許せるし、どんなことでも叶えてあげるのに。


 そんなことを思っていたら、牧田に真白ちゃんのことを聞かれた。


「そう言えば、人間の方のシロちゃんはどうしたんですか? 最近見ませんが……はっ! まさか喧嘩別れ」


「違う!!

ってか、人間の方のシロちゃんってなんだよ」


「いや〜、この可愛さ、愛くるしさは真白ちゃんに通じるものがあるかな、と」


「はぁああああ? 真白ちゃんの方が可愛いに決まってるだろ!

第一、こんなに我儘じゃな……っ痛!」


 初めてシロから顎に猫パンチを食らった。


「ほら、怒ってますよ。シロちゃんは賢い子ですね〜……イタっ」


 牧田も引っかかれた。


「ご機嫌斜めか? シロ?」


『なぁん……にゃっ!』


「真白ちゃんは、インフルエンザで隔離中だ」


 猫の頭を撫でながら、牧田に説明した。

 そうしておかないと、また何を誤解されるか分かったものじゃない。


「うわぁ、それは大変ですね」


「熱は下がったらしいから、あと二日、家で辛抱していれば、外に出られるはずだよ」


「そうですか。では、今年の小野寺のクリスマスパーティーには出席出来ますね。

みなさん、社長の婚約者に会えるの、楽しみにしていますよ」


「そうか、もうそんな季節か」


「あなたのカフェ、クリスマスフェアやってるんですけどね。

……真白ちゃんへのクリスマスプレゼント、用意するの忘れないで下さいよ」


「そういうお前は、小巻ちゃんに何か用意したのか?」


牧田の高校以来の彼女の名前を出す。


「当然でしょ。では」


 『彼氏』としては先輩の親友に釘を刺されたので、空き時間を見つけてプレゼントを用意させてもらうことにした。

 去年は桜色のストールだったけど、今年はどうしようか。

 大人っぽいものか、恋人としてもう少し踏み入ったものでもいいのだろうか。

 しかし、猫がついて回る内は、買いに行くのは無理そうだ。


 真白ちゃんが戻ってきた時、この嫉妬深い我儘な子猫と上手くやっていけるのかも心配だ。

 

 もし、上手くいけなかったら、どんなに可愛くても、この子猫は遠くに追いやらないと。

 真白ちゃんの白魚みたいな手や、まして、嫁入り前の顔に傷をつける訳にはいかない。

 ……まぁ、俺の所にお嫁さんに来るんだけどさ。


「……っ痛!! シロ!って、いたたたたたたたた!! 足で爪とぎするんじゃない!

こら! パソコンの上に乗らない! シロ!!」


『にゃん!!』


「どうしたんだ? ん?」


『にゃぁ』


 抱き上げて、窘めるように顔を突き合わすと、猫の方からキスをされた。

 ざらざらの舌で唇や口の周りを舐められる。


 か、可愛い。可愛すぎる。

 ……でも、誤魔化されている感すごいな。


「分かった、もう怒らないから、大人しくしてて。

仕事、片づけてしまうから」


 膝の上に乗せ直し、撫でると、ゴロゴロと気持ちのよさそうな声をあげる。

 喉の下をくすぐれば、くったりと俺に身を預けてくる。


 ふと、これが真白ちゃんだったらいいのにな、と良からぬことを思う。

 結婚は決まったけど、キス以上からは進んでいないんだよね、俺たち。


『にゃ〜』


「可愛いね、シロちゃん」


『なぁ〜』


 白い毛の塊の重さと温かさと、手触りにうっとりしてくる。

 これではまるで、源氏の柏木になった気分だ。


 光源氏の妻の一人、女三宮に恋焦がれ、その代わりに彼女の飼い猫を手に入れ、昼夜可愛がったという柏木。


「シロ?」


『なぁん』


「しーろ」


『にゃぁん』


 柏木は、猫の鳴き声が自分を誘っているように聞こえたとあるけど、俺にはただの鳴き声にしか聞こえない。

 まだ、正気は保っているみたいだ。

 そうは言っても、そろそろ真白ちゃん不足は否めない。


「早くよくならないかな……真白ちゃん」


 口に出して、快癒を祈ったら、膝の上の猫が、まるで自分のことのように答えた。


『にゃん!』


「いや、お前、違うから!!」


 可愛い顔してるからって、真白ちゃんの代わりになれると思っている猫に、大人げなくつっこんでしまう。


『にゃー!!』


「怒りたいのは俺の方だよ!」


***


 そんな……なんだかんだ言って、子猫と楽しく過ごした数日間。

 別れは、思いもかけずやってきた。


 シロの本当の飼い主が見つかったのだ。

 やはり双子のバレエ教室の近くの家に飼われていた猫らしく、ちょっと目を離した隙に逃げてしまったらしい。

 紅子と緑子は、手放すのは嫌だと泣いた。

 秋生も出来たらこちらで引き取りたいと親心を発揮して交渉したが、先方も思い入れのあるシロの母猫を今回のお産で無くし、唯一生き残った子猫を手放すことに躊躇していた。

 むしろ、勝手に連れてきてしまったことを深くお詫びしないといけなかった。

 その件に関しては、小さい子猫が外敵に襲われる前に助けてくれた、と逆に感謝されたので、申し訳なくもありがたかった。


「「やだぁああああああ!! シロちゃんいかないで! うわああああんん!!」」


 泣き叫ぶ双子をなだめすかすのに、一日かかった。


 そして、それを成功させたのは、他の誰でもない真白ちゃんだった。


「猫ちゃん、私も会いたかったわ」


「かわいかったの」


「シロちゃん、とってもかわいかったのよ」


 口々に真白ちゃんに、自分たちがどんな風に子猫を可愛がっていたか訴えたが、俺は、主張したい!

 シロの面倒を見たの、ほぼ俺だから!!

 双子たちは夜にちょっとだけ撫でたり、抱っこしたりしただけだろう。

 それ以上は、シロが許さなかったのだ。

 ちなみに、夏樹は最後まで、触ることさえ出来なかった。


 その夏樹は小野寺邸に来て、真白ちゃんが居るのをみるや、舌打ちをした。


「ああ、あのうっとおしい子猫がやっと居なくなったと思ったら、今度は、また別の子猫ちゃんが冬兄の周りをウロウロするんだ」


「はい?」


「大変だったんだよ、あの子猫。まるで真白ちゃんみたいに冬兄の側から離れないで、他の女の子たちを威嚇しまくって……」


「なつきー」


「わか……あっ、冬馬さん?」


 俺は双子と夏樹の居る居間から、真白ちゃんを連れ出した。

 メイドの島内さんが、当然のように着いてくる。

 自室には連れ込めないので、『夏の間』に行く。

 夏は涼しく、冬は冷える部屋だが、全館暖房のおかげでほどよく温まっていた。


「夏樹の言うこと、気にしないでね。

あいつ、シロに……子猫に相手にされなくって、へそを曲げているんだ」


「そんなに可愛い猫だったんですか? 私の若社長を一人占めするくらいに?」


 まだスーツに猫の毛がついているらしい、真白ちゃんが一本、つまみあげた。

 白くてつやつやな毛だ。


「そう言えば私! 魔法使いがいたら、お願いしようと思っていたことがあったんです。

なんであの時、そのことをお願いしなかったのかしら?」


 思いついたように声をあげた恋人の問いかけに返す。


「また、どんなお願い事をしたかったの?」


 以前のお願い事は『俺を自分のものにしたい』というもので、そのせいで、大変面倒な事態になったのを、この子は反省して、懲りているはずなのに。


「え? 子猫にして欲しいって。

そうしたら、若社長に無条件に可愛がってもらえるかなって」


「真白ちゃん……」


 思わず手が伸びたら、部屋の隅にいた島内さんがわざとらしく咳払いをした。


「俺は真白ちゃんに子猫にはなって欲しくないな」


 そう答えると、なぜか真白ちゃんは顔を赤らめて「そうですね」と素直に従った。


「どうしたの?」


「実は……あの……私、インフルエンザで寝込んでいる間、猫になった夢を見てて」


「えっ?」


 偶然とはいえ、彼女が寝込んでいる時期と、子猫が居た時期が被るので、心がざわめいた。

 まさか、あの子猫、本当は真白ちゃんだったんじゃないだろうな。


「でも、私ったら、ひどい悪戯猫で、冬馬さんのお布団や会議の資料に粗相はするし、大事な家具で爪を研いだり、まだ保存していないデータを台無しにしたり……あの、若社長? なんで笑っているんですか??」


「いや、ごめん。可愛いなぁと思って。

シロはトイレだけはちゃんとしていたよ」


「きゃあ! そうですよね。私、やっぱり猫には向いていません」


 両手で顔を覆って恥ずかしがる真白ちゃんに、微笑む。

 島内さんも、隅で笑っていた。


「それに猫とは結婚出来ないからね。真白ちゃんが人間の女の子で良かったよ。でも、膝には乗せたいかな」


「わ……冬馬さん……」


 いい雰囲気なんだけど、ここでも咳払いに邪魔される。


「ねぇ、君のお父さんから結納の日取り決まったとかいう話聞いてる?」


「いいえ。雨宮家は験を担ぐから、そういうの、とても煩いそうで」


 真白ちゃんが申し訳なさそうに言ったが、椛島真中は俺と娘の結婚を出来る限り先延ばしにしたいらしい。

 とにかく、成人式を済ますまでは、結婚させるつもりはないようだ。

 「真白に振袖を着せてやりたいだろう」と言われると、同意せずにはいられない。

 結婚しても若いんだから振袖着てもいいとは思うんだけどね。


「あの、子猫の写真とかないんですか? 私もシロちゃん、見てみたいです」


 俺の眉間が険しくなったのをなだめるためか、努めて明るい声で、真白ちゃんがねだった。

 でも、その心遣いが仇になった。


「何、これ! ひどい! 私が病気で大変な時に、こんな可愛い子とデレデレして! キスまでしてる!! 浮気者!」


 いつの間にかタブレットに大量に貯まっていたシロとの写真を見て、今度は真白ちゃんの焼きもちが爆発した。

 俺も気づいてなかったけど、随分、写真撮ったり、撮らせていたりしたんだな。

 その中には、俺がシロを抱き上げたり、膝の上に乗せたり、お腹を撫でていたり、キスさせていたり、そういう写真もたくさんあった。

 何しろ、基本、俺にしか懐かないから、シロの可愛い写真を撮ろうとすると、俺込みになってしまうのだ。

 でも、高級クラブでホステスと遊んでいる写真ではない、あくまで猫の写真なのだ。

 それを分かって欲しい。


「猫だよ、猫」


「猫でも嫌! やっぱり、お父さんに頼んで猫にしてもらう!」


「いや、君のお父さんでもそれは無理だから。もう機嫌直して、シロちゃん……あっ!」


 この数日、ずっと猫の機嫌をとっていたので、つい、呼び間違えてしまった。

 名前は似ているし、可愛いという共通点があるから仕方が無いじゃないと自分では言い訳するが、真白ちゃんが怒るのも当然だ。


「若社長の馬鹿ぁ! もう知らない!!」


「シロ……じゃなかった、真白ちゃんー!!」


 この嫉妬深さ……やっぱりあの猫、真白ちゃんだったのかもしれない。

 俺は彼女が出て行った扉と、それに続いた冷やかな目をした島内さんを見て、そう思った。


 もっとも、真白ちゃんはすぐに、島内さんに見つからないよう、こっそり帰って来て、恥ずかしそうにおずおずとしながらも、膝の上に乗ってくれた。

 これはシロに対抗したのかな。そう思えば、この嫉妬深さも歓迎すべきことかもしれない。


「俺の膝の上に乗るのは、君だけだよ」


 猫よりもずっと可愛い女の子の重さと温もりに、俺は陶然とした気持ちで彼女の頭を撫でた。

 俺は猫好きではなく、真白ちゃん好きなんだから。


「結婚しても猫は飼わないようにしようね。俺の膝の上をめぐって、血みどろの抗争が起きそうだから。

真白ちゃんが猫耳をつけてくれるのは、歓迎するけど……あ、それ、良い考えかも。今度、お願いしてもいい?」


「えええっ! なんですかそれ? 恥ずかしいです」


「そんなことないよ、似合うと思うよ。猫になりたかったんだろ?」


 耳を付ける予定の場所を撫でて勧誘してみると、まんざらでもなさそうだ。多分。


「そうですけどぉ」


「じゃあ、来年の二月にね」


「なんで二月なんですか?」


「猫の日があるだろう?」


「にゃんにゃんにゃんの日?」


 『にゃんにゃんにゃん』と言いながら、両手で耳を作った真白ちゃんが可愛くて目眩がした。


「……絶対似合うよ。あの文化祭の時のメイド服も着て、あ、尻尾もいる?」


「要りませんよ! って何言ってるんですか!」



『そうよ! 何言ってるいるの! このど変態息子!! ど変態すぎてお母さん、恥ずかしいわ!

ほら、とっとと、真白ちゃんから離れなさい!!』


 島内さんを引きつれた母さんが怒鳴りこんできた。

 だから、ここは嫌なんだ。


「ねぇ、魔法使いを探して、望み通り猫にしてもらわない? 結婚するまで。

そうしたら、シロみたいに、ずっと一緒にいられるよ」


「知りません!!」


 囁く俺を押しやって、真白ちゃんが膝から滑り落ちる。

 ツンとした様子も、とっとっと、と母の方に駆け寄る姿も、あの子猫を思い出す。


 途端に寂しくなった膝の上を未練がましく見つめる。

 真白ちゃんはもう、母に連れられて行ってしまった。

 あの子猫みたいに、ずっと俺の側から離れないでくれればいいのに。


 俺は立ち上がって、スーツに未だ張り付いているシロの毛を払った。


 その足元に、何やら茶色くて温かい塊が擦り寄って来た。

 見下ろすと、茶色い瞳と目が合う。

 耳が生えて、ちぎれんばかりに尻尾を振っている。


 『わん!』と鳴いた。


「……今度は犬かよ。紅子!! 緑子!! お前たちはまた勝手に動物を拾ってきて!」


 子犬を抱き上げ、居間に走った。

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